第33話 Stayin' Alive〜2発の弾丸、2つの弾痕〜

当初、CIAの襲撃部隊による待ち伏せは、ほとんど計画通りに進んだ。


 陣頭指揮及び狙撃をブルーが行い、アップルが偵察を軸とした後方支援。

 ブルーの配下に、襲撃要員のチャック、デリー、イーライが銃手となり、ごみ収集車による強襲にフォックスが就いた。


 襲撃部隊は、仲間の残した発信機と盗聴機から、ヴィズたちの目的地を知り、待ち伏せを行い。初手でマスタングを大破させるまでは計画通りだった。


 計画とズレたのは、ごみ収集車が勢い余って廃屋に突っ込んだ事のみだったが………。

 このズレを皮切りに徐々に予定が狂い始めていた。


 まず、ダークエルフを仕留め損ね、車外に逃げられてしまう。

 ごみ収集車とマスタングの衝突によって起こる挙動が誰にも正確な予測出来なかった事と、ヴィズの判断力の早さがこの誤算を生んだ。


 次に、仲間がダークエルフからの反撃に合った。


 これは、ごみ収集車での突撃役フォックスが家屋に突っ込んてしまったために、彼は仲間からの援護を受けられなかった事が原因だった。


 もし、フォックスにキーラも撃っても問題がないと知らされていれば、彼はヴィズを射殺し、無力化したキーラを回収することも出来たが、そうはならなかった。


————————————————————


 襲撃地点として選んだ二階建ての建物は見晴らしがよく、マスタング以外に遮蔽物は無い。


 建物の屋上に陣取ったブルーは、右目にマークスマンライフルの3倍率スコープに押しつけ、30メートル先のマスタングの窓枠のサビまで見分ける事ができ、左目はマスタングとその周り全体を見下ろしていた。


 フォックスが撃たれたショックは、心の奥底で憎悪を生んだが、指先や呼吸、心拍数には影響を与えていない。


『ターゲット1がライフルを持って隠れた』


 二階部分に陣取った仲間から電報が届く。

 ブルーは、狙撃という精密作業の邪魔になる雑音を全て遮断したがったが、彼は指揮官の立場にあったのでそれが叶わない。


『確実に車体の陰にいるが、姿は見えない』


 ブルーは、集中力を削ぎながら脳がいくつもあるよう振る舞い、冷静に判断を下す。


「逃げ場は無い。ストレスに晒してやれ」


 ブルーは部下たち銃撃を中止させ、敵を心理戦に持ち込む。 


 経験上から、例え相手がどれだけ場数を踏んでいようとも、雨のようにばら撒かれた銃弾を浴び、さらに人を殺した状況では、必ず興奮していて判断力が鈍ると考えた。


 そして、静寂の中に潜み、ダークエルフがスコープの十字線に躍り出てくるのを待つことにしたのだ。


 ボンネットのひしゃげたマスタングは、動脈を切られたようにエンジンオイルを垂れ流し、襲撃部隊の無線には固唾を飲む音とノイズが飛び交っている。


 息を潜めて狙撃銃を構えたブルーは、五感には無い感覚で、マスタングの陰に潜む気配を感じると、その直感を信じてマスタングのボンネット付近を見張る。


 そして、その直感が当たった。


 マスタングの影がから何者かが顔を出し、その人物の黒い髪が見えると、スナイパーとして経験と積み重ねた訓練に全てを委ね、本能のように引き金を絞った。


 7.62ミリ口径の重い圧のある銃声が、ゴーストタウンの廃墟に響くと同時に、スコープの十時線の延長線上には真っ赤な脳漿が飛び散る。


「ターゲット・仕とめ———!?」


 通算何十回目の“射殺”の報告をしようとしたブルーは、撃った人物が、だと気がつき、自信が誤射を起こした事に気がついた。


「やられた———」


 ブルーが視界を確保しようと両目を開いた時、マスタングの後部からM4カービンの銃身が自身を狙い澄ましている事を知った。


「エグい事しやがる」


 カービン銃が火を吹き、放ったれた5.56ミリ弾は、見事に彼の左目を穿った。


————————————————————


「ブルーが倒れた!!」


 一つの生き物ように連携する襲撃部隊は、屋上の狙撃手の救命と攻撃対象の制圧の為に二手に分かれ、2人がマスタングに銃撃を浴びせ、1人が屋上へと駆け上がった。


 制圧チームの1人が30発の弾丸を打ち尽くすと、もう1人が入れ替わるようにマスタングを撃つ。その連撃のさなか屋上から一報が届く。


「チャックからアップルへ、チャックからアップルへ、ブルーが顔に被弾。生きてはいるが戦闘継続は不可能………死に体だ」


「アップル、了解。作戦規定に従い戦力喪失と判断する………回収に向かう。それまで待ち堪えさせるんだ。偵察ドローンが、第三勢力が確認した。恐らく日本製の人型サイボーグだ」


 5人チームの内2人分の戦力を失い、襲撃部隊には撤退命令が下され、待機していたアップルは、即席の作戦司令室から飛び出し、ヘリコプターに乗り込んだ。

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