第24話 修羅と酒乱、紳士と淑女
トーマスが、ヴィズをキーラの所へ戻るように誘った。
「ダーキー。ワインは赤か? 白か?」
「何? 送別会でもしてくれるの?」
「ふん。女2人を夜中に追い出したなんて不名誉を俺たちに着せないでくれよ?」
「そーゆー事なら、白。吸血鬼は吸血鬼で苦労してる事が分かったから、少し信じてあげる」
そう言葉にしてヴィズは、自らの右手を拳銃に見立て、撃鉄代わりの親指を、寝かし付け事で、警戒心を解いたというジェスチャーを披露した。
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「
この作品も素晴らしいのですが、何よりもシカゴ!
この作品に感化されたチャレンジャーが、シカゴのテレビ電波を乗っ取って盛大にパロディーを披露したんです!!
しかも、現在でも犯人は不明!
こう、なんか、心の底に訴えてくるモノがありますよねっ!!」
ヴィズがレストランに戻るとキーラ・アンダーソンら完全に出来上がっていた。普段の雰囲気が薄れ、無作為にテンションが高い。
「結局、ハッキングによるデータの
ヴィズは、なぜか親心に近い何かを傷めた。
キーラは、衆人環視で上半身は下着一枚。この吸血鬼が占めるテーブルには、ワインボトルと輸血袋の空が転がっている。
「あぁ、おかえり。ダーキー……とボス……」
最初にヴィズに気がついたのはシェフで、彼はそう告げると逃げるように厨房に入った。
犯罪者集団の長はキーラの醜態の責任を問い責めるように部下を睨む。
「恥知らずの大馬鹿者。客人にストリップをさせているか?」
だが、犯罪者の2人もその真意が読め無いほどに酔っていて、その内の1人ルカが、理由にならない言い訳を叫んだ。
「ボス。お嬢ちゃんがまるで嵐の中の捨て犬みたいに怯えていて、ワインを一口進めたですよ。
お嬢ちゃんみたいな2級の吸血鬼なら、酒の誘惑に負けないと思ったですがね……」
「俺は、アラモの英雄みたいに抵抗したんですが、お嬢ちゃんが勝手に服を抜き出して………」
ゲップを堪えながら弁解するルカたちを尻目に、ヴィズはトーマスにだけ聞こえるように呟いた。
「トーマスさんもいろいろ大変ね」
そう言って、ヴィズがテーブルの赤ワインに手を伸ばすと、ルカは慌てて指を振る。
「ヤー! 黒真珠の姐チャン! そいつは、
ルカのほろ酔いの気遣いに酔っ払ったキーラが絡む。
「そーですか? 渋くて酸っぱくてまろやかで良いじゃないですか!」
ルカは返答に困り、
ヴィズが手を止めていると、変わりに白ワインの栓を抜いてトーマスが差し出す。
ヴィズがワインをグラスに注ぎ、ソファを陣取るとキーラに事のあらましを話した。
そして、情報を犯罪者たちにも支援を求めた。
「大丈夫でーすよー。私がヴィズちゃんを守ってあげますから!」
ヴィズは、こめかみを抑えながら唸り、咥えたタバコが赤々と輝かせる。
「トーマスさん——」
「ヴィズさん、なんで私を無視するですかー??」
ヴィズは、トーマスに対して、“少し待って”と人差し指を立てて頼み、キーラの方を向き直る。
「無視なんかしてない。それより、グラスが空いてる」
ヴィズは、キーラのワイングラスをひったくると、赤ワインを大量に、輸血量から数滴の血液を絞った。
「ありがとうございます!」
キーラがワインを一口舐めると、ヴィズはグラスを降ろさせなかった。
「早く空けなさい。次がつかえてるから」
「やりぃますよー」
キーラがゴクゴクとワイングラスを空にすると、ヴィズがすぐにワインを注いだ。
「ちょっと飲み過ぎたかも……」
「そんなんじゃ、立派な吸血鬼とは呼べない。ほら、空けて」
キーラがグラスを空け、ヴィズがさらにワインを注ぐ。
「あら、キーラ、おへその猫のタトゥーがとってもキュートでセクシーね」
「えへへ。ありがとうございます。でもこのネコちゃんは、日本の人食いモンスターなんです」
キーラは語りながらワインを飲み干し、ヴィズは、さらにワインを注いだ。
「あなたと一緒。ワイルド・キャットってことね」
「ニャー! ヴィズちゃんも襲っちゃうかにゃー??」
「わぁ、怖い」
「あはは。ヴィズちゃんは、古臭くて性格悪くて、殺人鬼だけど………顔だけならイケないことも」
「……………海兵隊スタイルを試そう」
ヴィズは、並々とワインをグラスに注ぎ、キーラの鼻先までそれを持ち上げた。
「テイスティングですかー?」
スンスンと匂いを嗅ぐキーラ。
「そんなじゃ、分からないでしょ、もっと勢いよく嗅ぐの」
「はい———ちょ!!?」
キーラの吸気に合わせてヴィズはグラスを傾けて、彼女に鼻からワインを飲ませた。
「ゲホッ、ゲホッ。頭が痛………い……」
強大な吸血鬼が目を回してテーブルに倒れ込む。それはほとんど急性アルコール中毒に近い症状で、寝たと言うより昏倒だった。
一仕事終えた顔をするヴィズにトーマスが尋ねる。
「なんだ今の?」
ヴィズは、キーラの残したワインの味を見ながら答えた。
「
「絶望的な二日酔いだろうな」
ヴィズは、意地の悪い笑みを浮かべながら、トーマスを見つめた。
「キーラの事は置いといて、ルーリナ・ダァーゴフィア・ソーサモシテンについての事を知りたい」
「……いいぜ。あの女と俺には、
トーマスは、自然なゆとりある動作でポケットからタバコを取り出しマッチで火をつけた。
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「ニューヨークの裏社会を追われた俺は、ルイジアナに流れ着いて、結局またギャングになった。1950年半ばの話だ」
トーマスの語りに相槌を打ちつつ、タバコを咥えるヴィズ。
彼女のタバコに、トーマスが火をつけた。
「いいわね。昔話は嫌いじゃない」
「ルーリナは、ニューオリンズを起点に南米へのコネクションを築こうとしていたが、麻薬カルテル、海賊、共産主義者、独裁者、反政府軍に、南部白人ギャング、イタリア人ギャング。問題が山積みだった」
「野心家なのね。私も敵が多いタチだけど、そこまでじゃない」
「で、その問題の解決を俺が任された」
「じゃあ、なんでニューオリンズから見て対岸のニューカルバラカにいるの?」
「俺は、あの女に頼らずにニューオリンズを手に入れて、ルーリナと直接交渉したいんだ」
「意外と小物なのねトーマスさん。私だったらルーリナを利用して最後は食い殺すくらいまでやるけど?」
「見立てが甘い。ルーリナ・ソーサモシテンに会えば分かる。
見た目は、可愛げのある10代の女だが、並外れた吸血鬼なんだ。
昔、あの女の頭に5発も対吸血鬼用弾を撃ち込んでやった」
「友情の築きかたが独特すぎるでしょ」
「当時は俺も尖ってたんだ。突拍子も無い話をしている事は認めるよ、わけがわからないくらいにあの女は……怪物だ」
「………不死身の化け物か……」
「違う。支配力の化け物だ。あの女はありとあらゆる手法で、まるで血液に溶け込むエイズウィルスのように世界に溶け込めるんだ」
ヴィズは、トーマスの言葉を盲信的な恐怖と判断したが、直感はそれを否定する。
「自分の目で見て判断するよ」
そう言ってダークエルフは、別のソファに移り横になり、その日を終わらせた。
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ヴィズ・パールフレアの朝は早い。
寝ぼけて巻きついてきていたキーラを引き剥がし、まだ眠りについているニューカルバラカの街へと出ると、懐中電灯を取り出してマスタングを点検した。
「二日酔いは平気か? ダーキー」
暗闇からの声に懐中電灯と同時に銃を構えるヴィズ。
懐中電灯の黄ばんだ灯を円錐に照射が、暗闇からトーマス・レッソを浮かび上がらせた。
「頭が割れそうに痛いだけ」
ヴィズは、銃をホルスターに戻しながら答えた。
「まぁ、なんだ。その気をつけて行けよ」
ヴィズは、短く礼を述べて車の整備に戻った。
「俺たち吸血鬼の組織、栄光ある社交会といっても、俺たちはアメリカナイズされて久しい。
が、吸血鬼という呪われた種族は、人を超えておきながら、人がいなければ生きられないという本質は変わっていない」
「エルフは、そう上手く割り切れなかったからね。私たちの世代でも苦労した奴は多い」
「エルフの連中も、この街では警察より先に俺のとこに助けを求める奴も多い。こればっかりはFBIには到底理解出来ない関係性だろうがね。
……ダーキー。あんたもキーラとはそうするべきだ。彼女とあんたは、カリフォルニアまで行く間だけでも助け合え」
配管は問題なく、ヴィズの手が真っ黒になっただけでコトは済んだ。
「助け合いね………。試してみるかな」
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「うぅぅ………。死んだみたい」
「呑みすぎたの。私はあんなに止めたのに」
ヴィズは、キーラの肩を支えレストランからマスタングまで移動させる。
「嘘……。何も覚えてないです………。
あぁ、パークさんが、パソコンくれるって言ったませんでした?」
「パーク? きっとあなたは夢と現実の区別がついていないのよ。
車に乗ったら夢の国に戻ってくれて良いから」
キーラをマスタングに押し込んだところで、レストランのシェフが腹を揺らすような小走りで店を飛び出し、その手にはノートパソコンが抱えられていた。
「キーラちゃんが、古いヤツでもほしいって言っててな」
老婆心に似た心意気で、パソコンと輸血袋を渡され、ヴィズはそれを困惑しながら受け取ると、2人はカリフォルニアを目指して、マスタングに乗り込んだ。
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