第91話

「お母様が閉じ込められているのはヌートル城の地下牢です!」


嘘でしょ。

私の記憶が正しかったらヌートル城にある地下牢は罪人専用だ。それも終身刑もしくは死刑を言い渡された重犯罪者が繋がれる場所。

アグレアブル公国の高位の貴族であればあるほど優遇される法律がある。公妃である彼女を重犯罪者扱いする事は許されていないはず。

いくら公王であったとしても一度決められた法律を覆すのは許されていない。

ブランシュ公爵は一体何を考えているのよ。


「エルお姉様、お母様を助けてください」

「エーヴ、私が出来る事はないわ」


事情は分からないがブランシュ公爵のやっている事は許し難いものだ。しかし私が助けられる範囲をとっくに超えている。口を出すわけにはいかないのだ。

唇を噛み苦しそうに唸るエヴリーヌは「分かりました」と納得してくれた……かと思ったのに。


「それなら協力してください」

「協力?」


今度は何を言い出すのだ。

戸惑う私の手を握って「私がお母様に会う協力です」と言ってくるエヴリーヌ。彼女はマガリー様の娘なのだ。ブランシュ公爵に頼めば会って話す事くらいは可能だと思う。


「公爵にお願いすれば会う事くらいは出来ると思うけど」

「何度もお願いしました!でも……」

「駄目だったのね」

「はい。誰であろうと会う事は許さないと言われました」


どうやら公爵は相当お怒りみたいだ。

地下牢に繋がれ娘すら会わせてもらえないってマガリー様は何をしたのかしら。

想像も付かないが現状では彼女に会う方法はないだろう。


「じゃあ、どうやって会う気なの?」

「……その力尽くで」


詳しく知らないがヌートル城の地下牢はかなり厳重な警備が敷かれているらしい。配置されている見張りも手練ばかり。

まさかエヴリーヌは私に見張りを蹴散らせと言っているのか。出来るか出来ないかで聞かれたらおそらく前者になるだろう。しかし協力する事は不可能だ。

本物の犯罪者になりたいわけじゃないもの。

冤罪で追い出された先で罪を犯すわけにはいかない。


「悪いけど協力出来る事は……」

「少しで良いのです。力を貸してください」


私の言葉を遮り頭を下げるエヴリーヌに眉を顰める。彼女の侍女であるユゼットはどう考えているのだろうか。見ると視線を下にして暗い面持ちとなっていた。申し訳なさそうにする彼女から分かる事は止めたけど無駄だったという事だ。

よく公爵に報告しなかったわね。

主人の事を考えているのか、主人を止められない事を罰せられると恐れているのか。その真意は分からないがエヴリーヌの自由が奪われるような事になってなくて良かったと思う。


「エーヴ、私は……」

「エルお姉様はお母様が牢に閉じ込められている理由を知りたくないのですか?」


マガリー様にはお世話になったのだ。知りたいし、助けたいに決まっている。しかしブランシュ公爵夫妻の問題に足を踏み込むというのはまた違った話。

諦めて欲しいのにこちらを見つめる赤色は逃してくれそうにない。昔から頑固なところがあったけどここで発揮されるとは。


「協力って何をすれば良いの?」


可愛い妹分を止められない私も私だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

国外追放されましたが普通に生きていますよ 高萩 @Takahagi_076

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ