第78話
「そういえばエルの誕生日っていつだ?」
レストランを出ると向かったのは雑貨屋だった。
商品を眺めているとジェドから尋ねられるので「半年前に過ぎました」と答える。
十八歳の誕生日を迎えた時は自分が国から追い出されるとは思っていなかったけどね。
「ジェドの誕生日はいつですか?」
「今日から二週間後だな」
「二週間後…。それだとこの国ではお祝いする事が出来ませんね」
「どういう事だ?」
「丁度二週間後は祝い事を禁止されているからです」
丁度二週間後はブランシュ公爵夫妻の第一子が生まれた日であり同時に亡くなった日である。死産じゃなかったらしいが生まれた直後に亡くなってしまったらしい。その為、祝い事を禁止して黒い服を着て過ごすのがアグレアブル公国の決まり。
これは観光客も同じにも適応される。ジェドの誕生日を祝う事は出来ないだろう。
その時まで一緒に居るか分からないけどね。
簡単に説明するとジェドは曇った表情を見せた。
「公爵夫妻の子供はどうなったのだ?」
「葬儀後はアーバン郊外にある墓所に埋葬されたと聞きました」
ただ不可解な点があると父は言っていた。
葬儀に参加した者が言うには棺の中に子供の遺体がなかったという話だ。
公国の葬法は火葬。燃やした後に骨が残るはずなのにそれが見つからないという話もあるらしい。さらに言うとマガリー様から子を取り上げた産婆が秘密裏に殺されたという話まで出てくる。
深く考えるとあまり良い結論には至らないだろう。
「公爵夫妻は墓参りに行くのか?」
「流石にそこまでは…」
本当は知っている。
公爵は墓参りをせず侍従に花を持って行くように指示を出すだけ。マガリー様も同じみたいだ。
念願だった第一子の墓であるにも関わらず雑な扱い。まるで墓には誰も居ないかのような対応だ。
違和感を感じたけど隣国の公爵令嬢が首を突っ込むわけにはいかなかった。
「公爵夫妻の事を知りたいのでしたら中央図書館に行くと良いですよ」
入館料は高いが一応平民でも入る事の出来る中央図書館なら蔵書数も多いし、ある程度の知識は得られるだろう。勧めるとジェドは苦笑いで「そこまでして知りたいわけじゃない」と答えた。
「それよりも欲しい物はないか?半年も過ぎてしまったがお祝いをさせてくれ」
「要りませんよ」
「冷たいな」
「半年前の誕生日を祝おうとする方が変ですよ」
色々と助けてもらって良い人だと思い始めていたけど相変わらず変人だ。
普通の人だったら半年前の誕生日を祝いたいと言い出すわけがないのに。
「むしろ私がお祝いしますよ、欲しい物はありますか?」
「良いのか?」
「当日お祝い出来ないですからね」
一応恩人だし、誕生日が近いから贈るだけだ。深い意味はない。ジゼルが知ったら冷たい視線を送られそうだけど。店内をぐるりと見回した後「時計が欲しいな。持っていないから」と言ってくるジェドは子供のように無邪気な笑顔を見せた。
懐中時計が並ぶところに向かう。手頃な値段のわりに長持ちしそうな商品ばかりだ。
「どれが良いのかよく分からないな」
「この黒の時計はどうですか?」
全体的に黒い懐中時計では蓋には獅子が描かれており男性向きの物。
それを選択したのはフォール帝国の皇族の象徴である獅子が刻まされた物を見た時のジェドの反応が見たかったから。我ながら性格が悪い。
「良いな」
満面の笑み。動揺を誘ったのだけど特になしだ。
それにしても時計一つでここまで嬉しそうにされるとこちらまで嬉しくなってしまう。
「それでは買ってきますね」
「本当はに良いのか?」
「誕生日の人が気にしないでください」
店員のところに行って丁寧に包装してもらう。
恋人にあげる物ですか?と揶揄うような事を言われたが首を横に振った。ジェドは恋人じゃないし、友人でもない。知り合いよりも少しだけ親しい関係だ。
そもそも私の友人は二人しか残っていない。
ジゼルともう一人だけ。
「お待たせしました」
「ありがとうございます」
アーバンを出たらフォール帝国に行くのもありかも。
もう一人の友人に会えるかもしれないのだから。
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