第42話 

夕食を終えて戻る場所は中央広場にある宿屋。

一緒にアーバンにやって来たジェドも同じ宿屋を取っているので二人揃って中に入ると女店主のエーヴさんが出迎えてくれる。


「おかえり、エル、ジェド」

「戻りました」

「ああ、ただいま」


おかえり、か…。

他の宿屋では言われなかったので誰かにおかえりと言ってもらうのは久しぶりだ。少しだけ温かい気持ちになりながら自分の部屋に向かう。


「じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」


部屋に入ると着替えもせずベッドに寝転ぶ。

思い出すのは先ほどまで一緒にいた人物の顔だ。


「やっぱりどこかで見た事あるような気がするのよね」


ジェドと初めて会った時から違和感があった。

会った事がないはずなのにどこか懐かしく感じる彼は一体何者なのだろう。

もし過去に出会っていたとしたら貴族時代の私を知っているという事だ。


「下手に関わらない方が良さそうね」


しかし、こちらがそう思っても向こうは違うようだ。

やたらと関わって来ようとするし、時折り意味あり気に私を見つめてくる。


「とにかく明日は一人で回りたいものね」


自由にのんびり一人旅をしたい私にとっては彼の存在は微妙なのだ。

これ以上は私を振り回さないで欲しい。


「こう考えたら振り回される側って大変なのね」


幼い頃、振り回してしまった人達に申し訳なくなる。

まあ、私を断罪した人間達だから謝ったりは出来ないのだけど。


「もう放っておいてくれないかしら…」


そう願うがおそらく無理だろう。

ジェドも同じ宿屋に泊まってる。明日になったらまた会う事になりそうだ。

長年貴族のご令嬢として過ごしてきたせいか男性とはある程度の距離を取らないと落ち着かないのに。


「考えても仕方ないし、湯浴みに行きましょう」


勢いよく起き上がり部屋の外にある浴場に向かった。

さっぱりすれば気持ちも落ち着くだろう。


「んー、気持ち良い」


湯船に浸かりながら一人呟く。

髪や体はさっぱりしたがジェドに対するもやもやした気持ちは残ったままだ。


「よし!決めたわ!」


もし明日もジェドが絡んでくるようならはっきり言ってあげましょう。

無駄絡みはやめてもらえますか?と言えば彼だって引いてくれるはず。


「そもそもどうして彼は私に構ってくるのかしら」


女性の一人旅が見ていて危なっかしいという気持ちは分かる。

ただ時折り送ってくる意味あり気な視線に含まれている気持ちは心配だけじゃないような気がするのだ。


「もしかして私の事を好きだったりして?」


なんてあり得ないでしょうけどね。

それに好きになられても困る。

初恋の人には酷い目に遭わされたのだ。しばらくの間は恋をしたいとは思えない。

それ以前に人を信じる事すら出来ないのだから。

 


一方その頃、ジェドは夢の中でエルと幸せなデートを繰り広げているのでした。

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