第31話
私のかけた魔法に耐えきれなかったのか痛みが酷過ぎたのか屑達は意識を失った。
死なないように彼らの四肢を貫いていた杭を消して、回復魔法をかける。それでも失神を続ける彼らを置いて向かうのは残った屑のところだ。
衝撃的な光景を見たせいかガレオさんもジャコブも怯えたように私を見てくる。
「え、エル、お前…」
「ガレオさん、この事は秘密でお願いしますね」
町全体にバレるのは厄介だ。
唇の前に指を立てて言うとガレオさんはゆっくりと頷いてくれた。
彼から視線を外してジャコブを見ると「ひっ…!」と声を上げる。
「言っておきますが私は貴方も許すつもりはありませんからね」
「な、なんで、俺は人殺しをして…」
「彼らを止めなかった。同罪ですよ」
絶望したように涙を流し始めるジャコブ。
いくら泣かれても同情するつもりはない。
「貴方も絶望した顔を晒し続けたら良いですよ」
屑達にかけた魔法をジャコブにもかけた。
悲鳴を上げて失神する彼をガレオさんは驚いた顔で見つめる。
「エル、こいつに何をしたんだ?」
「すぐに分かりますよ」
にっこりと微笑む私に彼は頰を引き攣らせた。
この後すぐに警備隊を呼んだ。
屑達の失神理由は壁にぶつかったからという事にしておいた。ガレオさんも私に話を合わせてくれたので警備隊は信じてくれた。
そして翌日。
「全然眠れませんでしたね…」
眠い目を擦りながらベッドから起き上がると外が騒ついていた。
窓を開けると。
「連続殺人鬼の犯人が捕まったぞ!」
叫びながら号外を渡して回る男性の姿が目に入った。
昨日の夜に捕まったばかりなのにどこから情報が漏れたのか、それとも警備隊が漏らしたのか町は大騒ぎになっている。
「あの屑達はそろそろ目が覚めたかしら」
もし起きていたら地獄に突き落とされているでしょうね。
宿屋から出ると一人の男性が駆け寄ってくる。
ガレオさんだった。
「おい、エル!こっちに来てくれ!」
「え?」
「いいから来てくれ!」
ガレオさんに腕を引かれて連れて行かれたのは最初に訪れた食堂。
端っこの席に案内されて注文したのは白身魚のフライ定食。前に食べた時、美味しかったので。
「まず最初にこれだけは言わせてくれ」
「どうぞ?」
「昨日は助けてくれてありがとう」
「気にしないでください」
もっと早くここに来れば被害者の数も減らせたかもしれませんからね。
彼を救えたのは幸いでした。
「ここからが本題だ」
「はい?」
「今朝、警備隊が俺のところに来て『ジャコブ達の様子がおかしいんだ。何か知らないか?』って聞かれたんだ」
ああ、かけた魔法がちゃんと効いているみたいですね。あれは久しぶりに使いましたから成功していて良かったです。
「ずっと『魔物が来るんだ!食べられるんだ!助けろ!ほら、目の前にいるだろ!早く退治しろ!』みたいな事を言って大暴れしてるらしいんだ。もちろん魔物が牢屋にいるわけない。まるで幻覚を見ているみたいに大騒ぎらしいぜ」
魔物に食い殺される光景を見続ける。
それこそ私がジャコブ達にかけた魔法ですから。
使い手が死ぬか魔法を解くかしない限り死ぬまで見続けることになります。
そのうち精神崩壊でも起こすでしょうね。
「エル、お前がやったんだよな?」
怯えたように尋ねられるので私は頰を緩めながら答えを返した。
「秘密です」
あの屑達は誰にも理解されないまま一生苦しみ続ければ良いのだから。
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