第25話

翌日、夜になってから酒場に向かうと男性客ばかりだった。

どうせなら男装でもしてくれば良かった。

そんな事を考えながら座ったのはカウンターの端っこの席。

適当に頼んだお酒を飲みながらジャコブの話をしている人達を探す。


「ジャコブのやつ、最近機嫌いいよな」

「ああ、来たばっかの時はすぐキレるやつだったのに」


すぐ近くの席。二人組の屈強な男性客が麦酒を飲みながらケラケラと笑っていた。

見た目からして貨物船の船員。名前を出している事からジャコブの知り合いだろう。

どうやって声をかけようか迷っていると見過ぎていたせいか二人組の片方と目が合った。

絡んでくれたら良い。

そんな気持ちを込めて笑いかけた。


「よぉ、マダム」


目が合った方に声をかけられて、上手く引っかかってくれた事に嬉しくなり目を細める。

それを微笑んだのと勘違いしたのか男性客は上機嫌の様子で私の隣に座った。


「あんた、見かけない顔だな?」

「今日ここに着いたばかりなので」

「って事は観光客か?」

「ええ」


私達が話しているともう一人の男性も反対側の席に座ってきた。

にやにやと気味の悪い笑みを浮かべる二人。

なにが目的か。それを聞かないと分からないほど初心ではありません。


「ねぇ、お兄さん達。ひとつ勝負をしませんか?」

「あ?勝負?」

「ええ。お酒の飲み比べ対決です。先に酔い潰れた方が残った方の言う事をなんでも聞く。どうですか?」

「はは、そりゃあ良い。なんでも聞くんだよな?」


気味の悪い笑みを深める二人組。

不躾な視線ではあるが煽ったのはこちらだ。今回だけは大目に見る事にしよう。


「ええ。ただ二対一は狡いのでどちらか一方でお願いできますか?」


二対一でも勝つ自信はありますが両方とも潰れたら話を聞けなくなりますからね。

それだと意味がないので。


「良いぜ。俺がやる」


自信たっぷりな表情で名乗りを上げたのは先に声をかけてきた男性だった。


「では乾杯にしましょうか」

「ああ」


グラスがぶつかる音が対決開始の合図となる。

ルールは簡単。

最初の一杯は同時に飲み、それ以降は交代で一杯ずつお酒を飲み干すというシンプルなもの。

相手に飲ませるお酒を決められるルールを追加されたので了承しましたけど、魂胆が見え見え過ぎて面白みがありませんわ。

現にアルコール度数高めのお酒ばかり頼まれた。

まあ酔う事はないのですけど。


「お、おい、まじか…」


驚いた顔を向けてくるのは対決していない方の男性だった。

これで十五杯目ですからね。普通なら倒れていてもおかしくないですよ。

どうやら私のお酒の強さは母譲りらしい。一緒にお酒を飲む事は叶いませんでしたけど。


「おれ…もう、むり…」


どんっと鈍い音を立てて、対決相手の男性は机に突っ伏した。

結構頑張った方ですね。


「はい、私の勝ちね」


彼が飲もうとしていたお酒を飲み干してから笑いかけた。

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