第24話

「短期間で五人も失踪って異常ですわね」

「全くだよ」


私の独り言に反応したのは新聞を購入した露店のおじさまでした。

急に話しかけられて驚いていると彼申し訳なさそうな顔をする。


「ああ、急に話しかけて悪かった」

「いえ…。貴方は?」

「俺はガレオだ。見ての通り露店を営んでる」

「私はエルです」


白髪が混じり始めた黒髪を掻きながら、ガレオさんは困ったような顔をする。


「エルは観光客かい?」

「はい、そうですけど」

「悪い事は言わない。この町から早く出て行った方が良いぜ」


既視感を覚えた。

国を追われて最初に辿り着いたポルトゥ村でも似たような台詞を言われたからだ。


「どうして出て行った方が良いのですか?」

「その新聞にも書いてあるだろ。この町では失踪者が増えてるんだ」

「ええ、そうみたいですね」

「俺はそれを誘拐事件だと睨んでる。いつどこで誰が被害者になるか分からない。エルも被害者になる前にさっさと町を去った方が良いぜ」


誘拐事件。

それは私も考えていました。

食堂で話していた男性客達の事を思い出して「あ…」と小さく声を漏らす。

タイスさんは教えてくれなかったが彼なら教えてくれるかもしれない。


「ガレオさん、一つお尋ねしても良いですか?」

「ああ、いいぜ」


男性客達が話していた『あいつ』についておじさまに伝えると彼は考え込む仕草を見せた。そして苦い顔になる。

タイスさん同様に彼も思い当たる人物がいるのだ。


「思い当たる人物がいらっしゃるのですね」

「ああ、あの馬鹿デカい貨物船の新しい船長だよ」


そう言ったガレオさんが指を差した方向を見ると大きな貨物船が停泊していた。

一際大きな船。その船長が誘拐事件を起こすのでしょうか。

どういった人物なのか探る必要がありそうだ。


「船長のお名前は?」

「名前はジャコブだ」

「どんな人物なのですか?」


ガレオさんの話によるとジャコブは短い茶髪に焦げた肌を持つ大男。

仕事が出来るお酒好き。ただし女性関係にだらしない癇癪持ち。

あまり良い噂を持たない人だそうです。

そんな人を大事な役職である船長に選ばないでほしいところだ。


「まあ、俺の話は酒場で聞き齧った程度だけどな」

「そうなのですね」


気になっていた『あいつ』の正体が分かり、少しだけ情報を得られたのは良かった。


「教えてくださりありがとうございます」

「いや、良いよ」

「そろそろ宿屋に戻りますね」

「おう、気をつけて帰れよ。あと夜中は出歩くな」

「分かりました」


失礼します、と言って宿屋に向かった。



宿屋の自室に戻り、湯浴みを済ませてからベッドに寝転ぶ。


「失踪事件ね」


露店で購入した新聞を広げて改めて記事を読む。

失踪者の共通点を探そうとしたけど、やっぱり見つからない。

ガレオさんが言うように失踪事件が本当に誘拐事件だとしたら被害者に共通点があるはずなのに。


「無差別で狙っているのかしら」


だとしたら共通点が見つかるわけがない。

道理で警備隊の調査が全く進まないはずだ。

今日得た情報の中に登場した重要人物の事を思い出す。


「ジャコブね」


失踪事件の捜査と同時に彼について調べる必要がありそうだ。しかし誰に聞くのが一番良いのだろうか。

そう考えたところでガレオさんの言葉を思い出す。

『俺の話は酒場で聞き齧った程度だけどな』

彼は酒場でジャコブについて聞いたのだ。

つまり酒場で張り込んでいれば運良く彼について話を聞けるかもしれないという事。

明日の夜に行こうと思いながらこの日は眠りについた。

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