第23話
「タイスさん、一つお伺いしても良いでしょうか?」
定食を食べ終わり、一息ついているタイスさんに話しかけると「あたしに答えられる事なら」と返される。
先程の男性客が話していた『あいつ』について思い当たる事はないかと尋ねると彼女は苦い顔を見せた。
「エル、あまり深入りしない方が良いよ」
「え?」
「余計な事に首を突っ込まない方が良いって事さ」
それは教えてもらえないという事だろう。
つまりタイスさんは『あいつ』が誰なのか想像出来ているのだ。
無理に聞き出すわけにもいかず「そうですね」と笑顔で誤魔化した。
この件に関しては自分で調べる他なさそうだ。
「そろそろ帰ろうか。エルはどこに泊まっているんだい?」
「すぐそこにある宿屋です」
「送って行こうか?」
宿屋は歩いて五分程のところにある。
送ってもらうのは申し訳ないので「いえ、大丈夫です」と断った。
「ご馳走様でした」
「助けてもらったんだからこれくらい当然さ。じゃあ、気をつけて宿屋に行くんだよ」
「タイスさんもお気をつけて」
手を振って帰って行くタイスさんを見送る。
ふと視界に入った露店に『警備隊、巡回を増やすも失踪者再び』と大きく書かれた新聞が並んでいた。
「新聞ね…」
失踪事件に関して何か情報を得られるかもしれないと購入して中身を眺める。
案の定そこには失踪事件に関する記事が詳しく載っていた。
最初に失踪した若い女性がいなくなったのは二週間前。
彼女を最後に見た人の証言によると「これから大切な人に会うの」と言っていたそうだ。
毎日同じ場所で花売りをしている彼女は可愛らしい容姿を持っており人気があり、いなくなった事に騒ぐ人もいた。
しかし先の証言により駆け落ちをしたという話で落ち着いたらしい。
次に失踪した少年は宿泊していた宿屋から夜中の間に消えたそうだ。
朝になって少年がいなくなっている事に気がついた家族がすぐに探し始めたが見つからず現在は町の警備隊も捜索に当たっているそうだ。
三番目の浮浪者に関しては気が付いたら居なくなっていたというくらいしか情報がない。
四番目のご老人は一週間前に「最近誰かに見られている気がする」と知人に言っていたらしい。警戒していたらしいが三日前にいなくなったそうだ。
彼女の失踪が起きた事により、先の三件も含めた連続失踪事件として扱われるようになったらしい。
新聞の見出しにあったように警備隊も巡回を増やしたみたいですが、結局また失踪者が出てしまったみたいですね。
今回の失踪者は貨物船の若い船員。
友人とお酒を飲んだ後、行方が分からなくなったそうです。
「短期間で五人も失踪って異常ですわね」
小さな声で呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。