第7話
「これ、丈が短過ぎでしょ」
丈が膝上のメイド服なんて聞いた事ないのだけど。
あのエロ害虫…。
まあ、いいわ。どうせ今だけだし。
部屋から出ると見知らぬ同い年くらいの女性が立っていた。私と同じ服を着ている事からメイドと分かる。
立ち方からして教育を受けたメイドではなさそうだ。おそらく村から攫われた娘の一人なのだろう。
「私……えっと、あなたの教育係になるように言われて…」
怯えた様子で声をかけてくれた女性は私の教育係だった。
なにをするのか分からない状況で放り出さないだけマシだけど、それなら他の事もまともな思考を持ってほしかったわ。
「あの、アネットと言います…」
「私の名前はエルです。よろしくお願いします」
「は、はい。よろしく願いします」
手を差し出せば、おそるおそると握手をされる。
その瞬間ぴたりと固まった。彼女の長袖から見えた手首には鞭の痕。しかも一つや二つじゃない。沢山だ。ミミズ腫れになったそれらは見たところ最近付けられたものだろう。
「これ…。なにかあったのですか?」
「……あの、いえ…なんでもありません」
なにか言いかけてやめたのはおそらく私の後ろから近づいてくる執事もどきのせいだろう。
「何をしてるんだ、さっさと仕事をしろ!」
「は、はい!申し訳ございません!」
必死になって何度も何度も頭を下げるアネットさんを見ていると胸が痛くなる。
早く解放してあげないと。
「アネット、今日は奉仕の日だ」
「……分かりました」
「奉仕の日?」
「アネットに聞いておけ」
再度「さっさと仕事をしろ」と言って立ち去る執事もどき。その背中を睨み付けた後でアネットさんを見れば可哀想なくらい顔を青褪めさせていた。
その様子を見れば奉仕の日の内容が予想出来てしまう。
本当にどこまで最低男なのよ。
「アネットさん、手を出してください」
「え?」
彼女の手を握り治癒魔法をかければ隙間から見えていた傷が全て消えていく。
私が治せるのは体に付けられた傷のみ。心に負った傷は癒してあげられない。
「えっ…」
「私が治したというのは内緒ですよ」
目をまん丸くさせるアネットさん。私は口の前で人差し指を立てながら笑った。
魔法を使える事をあの執事もどき達に知られるわけにはいかないからだ。
「ありがとうございます…!」
自分の手首を握り締めて泣きそうになりながらお礼を言うアネットさんに首を横に振った。
「こちらこそ色々と教えてくださいね」
アネットさんの話によると私達の仕事は掃除、洗濯、食事の準備など割と普通のものらしい。
夜の奉仕を除けば、ですけど。
夕方に近かった事もあり、私の仕事はすぐに終わってしまった。自室で食事を摂り、後は眠るだけ。なのだけどアネットさんの事が気になって仕方がない。
「ちょっと見に行こうかしら」
酒場のユルバンおじさまにもらった紙を広げてバティストの寝室を確認する。
自室を出て、バティストの部屋の前まで到着すると嫌な音が聞こえてきた。扉を少しだけ開き中を覗き込むと信じられない光景が広がっている。
全裸になったアネットが鞭で叩かれているのだ。
傷は全て私が治したはず。それなのに今見た彼女の体には無数の痕が残っている。
どれくらい叩かれていたのだろうか。
もっと早く来るべきだったと後悔する。
「本当に屑な碌でなし害虫ね…」
思わず口の中を噛んでしまい血の味がする。
この程度、痛くなんてない。アネットさんの方がずっと痛い思いをしているのだから。
「さっさと潰しに行きましょうか」
勢いよく扉を開くとバティストもアネットさんも驚愕の表情をこちらに向けた。
「こんばんは、害虫さん」
さて、駆除を始めましょう。
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