第43話 力の差
「何がおかしいのです?」
「いやな、なんで悪人ってのは同じようなセリフを同じように繰り返すのかなと思ってさ」
「ふぅん?」
「とっとと始末しろ、絶対に生きて帰すな。判で押したように同じ言葉ばかり言いやがるからさ。どこかにマニュアルでもあるのかなって、つい勘繰っちまうぜ」
「ふふっ、その減らず口がどこまで聞けるか――では試してみましょうか!」
そう言うと、フロストは猛烈な踏み込みから剣を振り下ろした。
リュージはそれを刀で受けとめようとして、
「ぐ――っ!」
しかし受けきれずに弾き飛ばされてしまう。
リュージはすぐに体勢をたてなおすものの、そこにフロストが鮮烈な連撃を放ってくる。
キン! キャン! ギャリン! ギンッ!
互いに『気』によって強化されたリュージの刀とフロストの剣が激しくぶつかり、火花を散らした。
「へぇ、やるな」
「まだまだこんなものではありませんよ!」
『気』の使い手同士による、人間の領域をはるかに超えた激しい斬り合いが始まった。
「神明流・皆伝奥義・一ノ型『ダルマ落とし』」
一瞬の隙を見てリュージが放った、分厚い岩をも易々と斬り砕く横薙ぎの一閃を、
「その程度ですか? 威勢の割に大したことはありませんね」
フロストが難なく受け止める――だけでなくフロストはそれを押し返すと、苛烈な攻撃でもって反撃を繰り出してきた。
キン! キンキン! カン! ギン!
何度も激しくぶつかり合う刀と剣。
しかしフロストの一撃はどれもが神明流・皆伝奥義なみの威力を誇っていて、
「ぐ――っ」
リュージは次第次第に防戦一方へと追い込まれていった。
それでもリュージはフロストの隙を見つけては鋭く果敢に攻め返し、決定的な勝利のチャンスを与えはしない。
「神明流・皆伝奥義・三ノ型『ツバメ返し』」
一種の隙をついて放ったリュージの息をもつかせぬ連続技を、
「ははっ、遅いねぇ!」
フロストはその全てをきっちりとこれみよがしに防御してみせる。
誰が見ても、フロストの戦闘力はリュージのそれを完全に上まわっていた。
しかしリュージも決して譲らず、互いに決定機がないままフロストがリュージを一方的に攻めたてる展開がこのまま続く――と思われた矢先だった、
「ぐ――っ!?」
突然フロストがガクッと力が抜けたようにバランスを崩したのは。
自身の変化に慌てたようにリュージから距離をとる。
「な、なんだ? 急に身体が重くなって……」
今まで感じたことのない猛烈な疲労がフロストを襲っていた。
いまや剣を持つ手すら重く感じる始末で、フロストは身体の異変に困惑せざるを得ないでいた。
「そりゃそうさ。あれだけ『気』をガンガン使ってれば疲れもするさ」
そんなフロストにリュージがニヤッと笑って告げる。
「使いすぎ、だって……?」
「『気』ってのは生命エネルギーだからな。当然使えば使うほど気力も体力も消耗する。だから無駄遣いをしないために、緻密なコントロールが何よりも大事になる」
「なん……だと……!?」
「俺は『気』を精密にコントロールし、行動の瞬間や技を出すタイミングにのみ大きく消費することで、浪費を極限まで抑えてるんだよ」
神明流・初伝『剣気
『気』を活性化させて身体能力を大幅に強化するが、それは同時に『気』をコントロールして消耗を抑える技術でもあるのだった。
これが『剣気
「そんな、ことを――」
「でもお前は違うよな? ずっと『気』をバカみたいに放出し続けていた。その分強かった代わりに、こんなにも早く『気』が枯れようしているのさ」
「まさか最初からこれを狙って――」
「ははっ、気付くのがちょっと遅かったな。ってわけで、俺はまだまだ十分に余力が残ってるぜ?」
「ぐっ――!」
フロストは剣を構えるものの、もうそこにほとんど『気』が残っていないことをリュージは完全に見切っていた。
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