第7話 当然の不満だけど、やり過ぎにはご注意を
私はアイルの荒唐無稽な話を聞き、適当に相槌を打って乙女ゲームについての話を聞き出した。
途中、入室して来たおそらく彼女の専属侍女たちだろう。
アイルが自慢げに話す乙女ゲームの話を無表情で聞き流してきた。
きっと、慣れているのだろう。
マヤのことだ。
自分がアイルになったこと、ここが乙女ゲームの世界で自分がヒロインであることを自慢げに話していたに違いない。
ということは、上手くすればアイル以外からも情報が得られるかもしれない。
早速私は行動に移すことにした。
が、世の中そんなに甘くないことを思い知ることになった。
◇◇◇
「公爵令嬢なのに姫様の専属侍女なの?普通は行儀見習いで一時的に侍女になるだけでしょう」
「姫様の希望らしいよ」
「しかも、本当は昨日から仕事だったのに一日中、姫様と話してたんだって」
「うわっ。それで給金貰えるの!?給料泥棒じゃん。仕事舐めてんじゃないの」
「いいわよね。公爵令嬢ってだけで楽ができて」
「でもさぁ、いくら姫様に言われたからって普通する?公爵令嬢が侍女なんて。権力に尻尾ばっか振って恥ずかしくないのかしら」
「クスッ。プライドがないのね。公爵令嬢なのに、ださっ」
聞こえてるっつぅの!
陰口なら本人のいないところでしなさいよね。
後ろに私がいるって分かってて言ってるんだから性格も根性も悪いわよね。
がたがた文句言っているのは下級貴族の令嬢だ。彼女たちは長姉ではないから家を継げないのだ。
良縁に恵まれたら結婚と同時に侍女の仕事は辞められるが、結婚相手の財政事情によっては結婚後も侍女として働くことがある。
彼女たちが文句を言いたい理由は分かる。
彼女たちの仕事に対する姿勢に問題がないわけではないけど、同じ給金を貰っているのに方や座って馬鹿女のくだらない話を聞いているだけ。方や水仕事や力仕事などキツイ仕事を任されるのだ。
私だって立場が逆だったら気に入らないだろう。
だからって。
「きゃあっ、ごっめんなさぁい」
ばしゃん。
これ見ようがしに上位貴族の娘に水を顔面からかけるようなことはしないけど。
幾ら、原則として職場に身分を持ち込まないものだとしても最低限の礼儀はある。
「クスッ。大丈夫?さっさと着替えた方がいいんじゃないの?」
「そうよ。そんなみっともない姿をしては姫様にも失礼でしょう」
そう言って三人の侍女は私を嘲笑う。
ダークブラウンの髪を一つのまとめてお団子にしている子はマヌエット・ガーナ男爵令嬢
黒い髪を二つに下で結んでいるのはエーベル・アディソン子爵令嬢
赤毛をハーフアップにしている子はブルネッタ・マルセ男爵令嬢
神様が与えてくれたチート能力の一つは記憶力。一度見たものは決して忘れない。だから私は毎年更新される貴族名鑑を全て記憶している。
見ただけで彼女たちが誰でどこの血を引いているのか全て把握できるのだ。
神様が与えてくれたチート能力。裏を返せばこれで自力で現状を打破しろと何とも無責任な力ではあるがないよりはましだろう。
「人に水をかけておいて謝罪もできない不作法な侍女が王女宮にいるという方が王女殿下に対して失礼に当たるのではないでしょうか」
「はぁっ!?」
「何ですって!」
「わざとじゃないのに怒るなんて、ちょっと心が狭すぎじゃないの。公爵令嬢なら寛大な心で許すもんでしょ。上級貴族の嗜みも持たないから侍女なんかに落とされたんじゃないの。あんた、実は家では厄介者なんじゃないの?」
侍女なんか、ねぇ。
その言葉だけで彼女たちが自分の仕事をどう思っているかまる分かりだ。それに‥…。
「さっきかたら“公爵令嬢”、“公爵令嬢”と私のことを言いますが、分かっているの?あなたたち、その公爵令嬢相手に何をしているのかしら?」
「そ、それは」
急に口ごもる彼女たちを私はくすりと笑った。
すると三人は顔をかっと真っ赤にした。
「ここ、水を零したのはあなたたちなんだから自分たちで片付けておいてね」
ここで追及することもできたけどあまり目立ちたくはないし、この程度で大事にするのも大人げない気がしたのでこれ以上は何もしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます