ささやかな反抗
首相官邸
野党からの追求をやっとの思いで耐え抜き、遺族への補償の原案がまとまりようやく休めると思ったその時電話のベルがなる。
「夜分遅くに失礼します。防衛相の原田です。敵艦隊を追尾した哨戒機により、護送艦隊襲撃を行ってた敵部隊の本拠地が割れました。」
「どこだ?」
「サンドール王国です。」どうやら今夜も休めないらしい。
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サンドール王国
「随分と寂しくなりましたね。」マレノール中尉は一人呟く。200を優に越えていた船は今や半分近くにまで減っている。
「貴方ともっと酒を飲み交わしたかったものです。」そう言いながらマレノールはディートハルムの墓に酒をかける。
王城
「女王陛下、謹んで申し上げます。アロナース村へ税を取り立てに行った役人5人が戻ってきておりません。」4人目の宰相であるハミルラーズはおどおどと言う。
「これで何件目だ。」女王であるローザは無能な部下を睨み付けながら言う。
「今月だけでも8件目です。」
アンゴラス帝国は植民地や衛星国に一切の武力を保持することを禁じている。許されるとすれば金属製の棒きれくらいだろう。つまり単独で農民の反乱を抑えることは難しく、その度に帝国に高い金銭を払い鎮圧を依頼せねばならない。
「全く、愚民どもめ。国の宝物庫を空にするつもりか?」
「いや、全くです。まだ見せしめが必要ですな。」
「だな。今度は逆らう気が起こらんよう工夫せねば。」既に反乱により公開処刑された人数は800を数える。かつて美しく憩いの場であった広場はどれだけ磨いても血の痕がとれず、取れたとしてもすぐに汚れる。
「お任せください。名案がございます。」ハミルラーズは下品ににやけながら紙の束を取り出す。二人が愉しそうに話し合っている横で、近衛騎士カルリーノは憮然とした表情で立っていた。
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ツェザール公爵領 アンゼルマ
かつては緑豊であったこの地域も、アンゴラス帝国による搾取。それに応えるための無理な耕作や開発により土壌は荒れ、人口も減少傾向にある。
町の中心には大きくはないが、アンゼルマの最盛期を彷彿とさせる城が優雅に佇んでおり、城門の前では祭りなどとは比べ物にならないほどの多くの人が、熱気をあげている。
「アンゴラス帝国は日本に敗北を重ねている。今、立ち上がらんとしてなんとするか!この好機を逃してはならない。我々の土地を、友を、そして誇りを取り戻すのだ!アンゴラス帝国を、それに与する裏切者へ報いを!」
「おーー!」民衆から歓声があがる。
口に白髭を蓄え、年だとは思えないほど筋骨隆々の老人。ツェザール・ハルベルバルクは帝国打倒のため進軍を開始するのであった。
サンドール王国 王城
「陛下、陛下!一大事ですぞ!」宰相ハラミラーズが息を切らして駆け込んで来る。
「また、反乱でも起こったのか?」女王ローザは深くため息をつく。
「いえ、謀反です!ツェザール公爵が反乱を起こし、王城へ向け進軍しております!」
「なんだと!」
「アンゴラス帝国駐留司令部へ連絡を入れますか?」
「当たり前だ!」宰相と女王は瞬く間に減っていく宝物庫の中身を心配に思うのだった。
サンドール王国駐留軍司令部
「司令、サンドール王国より討伐依頼です。」
「またか…。」現在、サンドール王国に停泊する帝国軍の船は98隻と平時より多く、もちろん帝国兵の数も多い。しかし、サマワ王国奪還作戦時に上陸作戦用に兵を抽出されたため、陸上部隊は半数まで減っている。
「それも今回はただの一揆ではなく属領の反乱だそうです。」
「何だと!どこだ!」
「ツェザール領だそうです。」
「司令は壁にかけてある地図に駆け寄る。」
「内陸部の領地か。これでは戦列艦が使えんではないか。」
「魔導砲だけ持って行けば良いのではないですか?」
「どうやって持っていく?馬も牛も補給物資の運搬のため使い潰したぞ。おまけに白竜は日本に全滅させられた。」
「しかし、サンドール王国は武器を保持していないはずです。たとえ何人で来ようとも問題ないのでは?」
「武器がないことになっているだけだ。城や砦の隠し部屋に溜め込んでいることだろう。アマリーナ公国もそうだったらしい。」
「面倒なことになりましたね。」
「とりあえず、陸戦隊800と白兵担当の水兵600を派遣しようか。」アンゴラス帝国では魔導砲の開発以来、白兵戦がほぼ不要となり対人戦闘訓練を受けた水兵が少ないのだ。
「了解!出撃命令を出します。料金交渉にはマレノール中尉を向かわせます。」
「ああ、よろしく頼む。」
駐留軍基地前
「全く今月に入って何度目だよ。」度重なる一揆を1000人と少しの基地要員で鎮圧し続け、部隊には疲労感が漂っている。
「昔なら竜で懲らしめてやりゃすぐに諦めて命乞いしてきたってのに。」
「無い物ねだりしてもしかたねぇ。俺たちで帝国の恐ろしさを見せてやれ!」
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