アマリーナ公国戦

アマリーナ公国 公城


「困ります。いくらアンゴラス帝国の方とはいえ…」廊下から臣下であるワルツの声が響く。


「黙れ!大公に用があるのであってお前にあるのではない!」


「バンッ」突然ドアが開け広げられる。中央にアンゴラス帝国の軍人が8人立っており、ワルツは申し訳なさそうにこちらを窺っている。


「これは、アンゴラス帝国の方。わざわざご足労いただいて、一体どうされましたかな?」大公は問いかける。一番位が高そうな軍人が歩み寄る。


「分かっているだろ!日本の件だ。アマリーナ公国の外交官が日本と接触しているとの報告があった。」


「一体何のことでしょうか?理解しかねますが…。」大公は身振りを交えて言う。


「これ以上とぼけるなら、アンゴラス・アマリーナ地位条約16項、外交委託義務違反で貴様を拘束する。」帝国兵達が詰め寄る。


「お待ちください。一国の王にそのような仕打ちなど…ゴホッ」ワルツは腹を蹴られ、床に倒れこむ。


「我々は条約に定められている規定を粛々と実行するだけだ。捕らえろ!」


「バンッ」再び扉が開き、三十程の男達が入ってくる。


「アマリーナ衛兵隊、只今到着しました!」大半の衛兵が手にしているものは棒切れだが、槍を持った兵もいる。


「これはどういうことですかな大公殿?手に持っているものは条約により禁止された槍に見えるのですが。言い逃れできませんよ。」帝国兵が言う。


「たまたまどこかに落ちていたようですね。」大公は朗らかに言う。


「黙れ!敵を排除する。ファイヤーボール撃て!」帝国兵は火球を放つ。鼻を突くような嫌な臭いが充満する。


「突撃!大公をお守りせよ!」しかし、城内での戦いということもあり、射程距離を生かしきれず、帝国兵は鎮圧された。




アマリーナ公国 駐留軍司令部


低い建物が並ぶ中、文明の差を示すかのようにそびえ立つ黒い塔。そこで、小太りの中年が書類整理をしている。


「全く何でこの私がこんな田舎に。軍務相さえ失脚しなければ、次にその地位に着くのは私だったというのに。」司令が悪態をついていると、ドアよりノックが響く。


「入れ!」


「失礼します。大公を尋問するためにアマリーナ城へ向かった兵が、いつまで経っても帰還しませんので報告にあがりました。」


「どこかで道草を食っているだけという訳でもなさそうだな。」


「はい、日本との接触も合わせて考えるならば翻意ありかと。」


「本国の許可が降り次第、アマリーナ城を攻撃する。帝国へ逆らった者がどのような罰を受けるか見せつけてやれ!」




アマリーナ公国 公城


木の彫刻で彩られた会議室で面々は顔を歪めていた。


「アンゴラス帝国駐留軍が不審な動きを始めました。おそらく…」


「本当にすまない。私を助けたばかりに…」


「何をおっしゃいます!それが我々の使命でございます。」宰相ワルツが言う。


「私の命を差し出せば、納得してくれるだろうか。」大公は自問する。


「そんな事させません。縄で縛ってでも行かせはしません。」ワルツの言葉に一同は頷く。


「日本の軍は今日来るはずなのですよね。それまで持たせればいいだけです。」軍務相シリルが言う。


「しかし…」


「大公なしで誰がこの国を動かすと言うのですか!」ワルツが叱咤する。


「それは貴方が…」


「私はもうこの歳でいつまで生きれるか分からぬ身なのです。この国を纏められるのは大公殿下しかおられません。そもそも奴等が殿下の首で納得するかも約束を守るかどうかも分からないのですぞ。どうかご理解ください。」少し熟考した後、大公は言葉を紡ぐ。


「分かった。戦いの用意をしてくれ。」




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アマリーナ公国 駐留軍司令部前


巨大な塔の前に2500の兵が整列している。牽引式の魔道砲も見受けられる。竜母からは白竜が飛び発っている。


「城が戦列艦の射程内なら手っ取り早かったのにな。」面長の兵が言う。


「いいじゃねぇか。手柄を立てるチャンスだ。しかし本当に愚かな王だよな。帝国に逆らうなんて。」そばかすが目立つ兵が言う。


「馬鹿な王を持つ国民が可哀想だよ。まぁ、魔法を使えない奴に愚かでない奴なんかいないけどな!」


「そりゃそうだ!」兵達の笑い声が気味悪く響くのだった。

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