第14話 到着
馬車が止まったわ。学園に到着したのね。
……いやだわ。私の方が緊張してきちゃった。
「二人とも心の準備は大丈夫?」
「僕はいつでも」
ロイは初登校の不安などまるで感じてないかのように平然と応える。昔は気弱でお姉様の探検に付き合わされる度に涙目になっていたのに。人って変れば変わるものなのね。
「お姉様は?」
『超楽しみ~』
全然気後れしてない。けど、これこそがお姉様だ。いい意味で変わったロイとは違って、いい意味で全然変わられてない。
……いけない。お姉様が帰ってきてから涙腺がちょっと緩くなってるわ。
「意外だね、ヘレナは学校とか面倒くさがると思ってたのに」
あら、言われてみれば確かにロイの言う通りね。物怖じしないのはともかくお姉様が学校を楽しみだなんて。
『勉強嫌い。でもご飯は大好き🖤』
「まぁお姉様ったら」
国中の権力者の子供が集まるのだから当然と言えば当然かもしれないけど、貴族学園の学食には名のあるシェフが招かれている。どうやらお姉様の目当てはそれらしい。
「アハハ。ヘレナらしいね」
「お姉様、お願いですから学園では余計な騒ぎは起こさないでくださいね。何かあったら、直ぐに私かロイを頼ってください」
「GA」
お姉様は任せろとばかりに親指をビシッと立てる。
正直、ちょっと不安だわ。でもそれ以上にこうしてお姉様とまた一緒に登校できることが嬉しい。
「さぁ、それではいきましょうか」
「そうだね」
「GA」
そうして私は二人と一緒に馬車を降りた。
「シルビィ様、ご機嫌よう」
「ご機嫌よう」
校舎に向かうまでの道すがら、学友に挨拶しながらも私は皆の視線に違和感を覚えた。……何かしら? 皆やけに私達を見ているわね。
「何か僕達注目されているね」
「GA」
二人も周囲の視線に気付いたみたい。
私は歩きながらヒソヒソと話す生徒達の会話に耳を傾けてみる。すると「あれが噂の?」とか「二人いるけどどっちが?」とかそんな感じの言葉が聞こえて来た。
噂? お姉様のことが噂になっている? でもどうして? お姉様のことを知っているのはごく一部のはずだわ。ロイが言いふらすはずないし。だとしたら後はーー
「やぁ、私の愛しい婚約者。良い朝だね」
「……ロロド王子」
お姉様との初登校で良い気分だったのにそれを台無しにする顔と杯合わせた。でもなるほどね、周りの皆が私達をやけに注目して来るのは王子が原因なんだわ。多分お姉様についてあることないこと言いふらしたのね。
ロイがスッと私とお姉様の前に出た。
「おはようございますロロド王子。仰る通り、とても良い朝ですね」
「……君は何だね? 私の婚約者と親しげに登校するとは。名乗りたまえよ。覚えておいてやろう」
卑怯な言い方。王子からそんなふうに言われたら普通は萎縮するじゃない。
ロイはニコリと余裕の笑みを浮かべた。
「ロイ•ガルーダと申します。本日から学園に編入することになりました。シルビィとヘレナとは幼馴染みで、今は彼女達の屋敷にご厄介になっております」
婚約者を前にいきなりの同居発言で周囲から黄色い声が上がる。一方王子は露骨に顔を顰めた。
「ガルーダ……チッ、あの生意気な辺境伯の息子か」
「すみません、王子。よく聞こえませんでした。今何と仰いましたか?」
「あ、いや、何でもないよ。よく来たねロイ。君を歓迎するよ」
ロイったら凄い! あの王子をやり込めてる。
ロロド王子は憎々しげにロイを見た後、ふとその視線をお姉様に移した。そして表情を一変させる。
え? 何その反応? と私が思っているとーー
「ロイ、そちらの美しい人は君の友人かね?」
とか言い出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます