Volcanic island-04
「この近く……っつっても海を渡ってもらうんだよな。この島で調査してたバスターはもう他所に移動してるし」
「ママッカ大陸、マガナン大陸、ライカ大陸……人数だけで言えばいっぱいいるでしょうけど、こっちに来てくれるかしら」
「クエストを消化するだけであれば、人員不足を感じる事はありません。しかし世界中を捜索し、町や村まで警備するとなれば、手薄になる場所も……」
「あーこれじゃあ3人で乗り込むしかねえぞ、どうするよ」
管理所の職員を交えての対策会議を開くも、各地の管理所からの返答は期待できそうにない。自由に動けるバスターが少ないのだ。
「ゼスタの伯父さんって強いんでしょう? 近くにいないかな……」
「おいおい、今はまだ顔を合わせられねえよ、いたとしてもまだ……やめてくれ。伯父さんはともかく、その仲間とは絶対に会いたくない」
「まあ、ゼスタから聞いた限りでは不安があるね。意地悪する人に背中は預けられない」
「そうね。ごめん、聞かなかったことにして」
エインダー島に渡ったとして、絶対に魔王教徒のアジトがあるとは言い切れない。無理して渡ろうとせず、別の情報を集めるべきなのか。
アークドラゴンの封印された場所を突き止めるか、しまいにはいったんギリングに戻ろうかという意見も出る。
そんな時、各地へと連絡をしてくれていた女性職員の1人が、シーク達のテーブルへと駆け寄って来た。
「イグニスタさん! ……あっ、失礼しました、シーク卿」
「あーシークでいいです、肩書きとか敬称とか、ほんとなんか居た堪れなくなるんで」
「そういう訳には……コホン、畏まりました。それで他のバスターを募る件ですが、現在2組がこちらに向かっているそうです」
「えっ!?」
シーク達は良かったと言って喜ぶ。だが、助っ人を求める連絡は今始めたばかりだ。ゼスタは何故こちらに向かっているのかと疑問を投げかける。
「何で俺達が助っ人を求めている事が先に知られているんですか」
「バスター協会が直近の活動記録から優秀なバスターを割り出し、エインダー島に向かう際のサポートとして声を掛けたようです」
「成程ね。流石に協会も、魔王教徒の本部かもしれない場所にガキ3人を送ろうとは思っていなかったか」
「……まあ、あくまで建前ですけどね」
「はい?」
「会えば分かりますよ、きっと皆さんの希望通りの方々です」
あと3日で到着するという助っ人と合流したなら、シーク達はいよいよエインダー島へ向かう事になる。
シーク達が「誰が来てくれるのか」を楽しみにしているのに対し、バルドル達は別の楽しみを期待していた。
「あの……シーク、今日はしっかり戦ったのだから……」
「ああ、そうだったね。綺麗に手入れした後でブラシと鉱物油、だね」
「その通り!」
「俺っちは柄の布を巻き直して欲しい!」
「あたしは矛先までゴシゴシとやってもらいたいねえ!」
「ふふっ、今日はみんな頑張ったもんね。さ、宿に行きましょ」
* * * * * * * * *
3日後。シーク達は桟橋に集まっていた。
海は穏やかで、古い大型漁船がシーク達の乗船を待っている。だがまだ皆が乗り込む気配はない。
「いよいよここまで来たんだな、大したもんだよ。後輩まで連れちゃって」
「初めて会った時は、ほんと危なっかしくて心配だったけどな」
「皆さんとこうやってまたすぐに会えるとは……ちょっと不思議な気分です」
「俺達もそうだよ、まさかあの時の子がここに来てんだから」
桟橋にいるのはゴウン、リディカ、カイトスター、レイダー、テディの5人組、ディズ、アンナ、クレスタ、ミラ。
そしてイヴァンだ。
ゴウン達はムゲン自治区を安定させた後、獣人にバスターの訓練をつけていた。
それも一息ついて次の派遣先を決める際、協会がシーク達の動きを知り、ゴウン達に合流を打診したという。
「ボクはこうして未踏の地でモンスターを狩れるなんて、楽しみで仕方ありませんよ!」
「そうかな、アレスは不安じゃないの? 火山が噴火したら……ボクたち埋もれちゃうし……」
「炎剣、炎弓、どちらも火には強いんですから大丈夫ですよ、アルジュナ」
ゴウン達が出発する数日前にナンへと戻ったイヴァンは、自分も連れて行ってくれと頼み込んだ。アレスがどうしても行きたい(何でもいいから斬りたい)と言ったのも理由だろう。
「こんなに早い再会になるとは思っていませんでした。でも村で父母や皆に無事を報告できたし、ぼくも頑張りますよ!」
イヴァンは結局バスターの身分までは認められなかった。他のバスターや、バスター志願者の不満を募らせないためだ。
しかし、イヴァンのセンスを見抜いたゴウン達が掛け合った結果、今回は「同行」を許可された。
ディズ達はイース湖の南西にあるゴビドワという国の管理所で、アマナ島に向かうゴウン達と遭遇していた。ゴウンに憧れて剣盾士になったアンナは、シーク達の加勢に行くと聞いて自分達もと懇願した。
管理所は案外あっさりとそれを許可した。ディズ達ならシークの知り合いであり、イヴァンの事も知っている。イヴァンの「同行」を漏らさないバスターとして、白羽の矢が立ったのだ。
同行先のエインダ―島では誰も見ていない。つまりはそういう事だ。
「ホワイトに昇級したんだよね、早いなあ。みんな優秀だね」
「シークさん達の真似をしただけですよ。自分達が戦えるギリギリの強いモンスターを退治して、困った人は放置しない。それだけです」
「私、憧れのゴウンさんの戦いが間近で見られるなんて幸せ!」
「こいつ、ずーっと言ってるんスよ。おいアンナ、ギリングでイヴァンと少しの間一緒に特訓したおかげだろ、イヴァンに感謝しろ」
「リディカさんがいるなら、私の出番がないかも……」
「あら、細かな回復はミラちゃんに任せるつもりよ? 私は攻撃に回って、危ない時はフォローに入るわ」
ディズ達はイヴァンとパーティーを組むことになる。メインはゴウン達とシーク達、ディズ達は後方支援だ。
全員が船に乗り込んだところで、船は桟橋から離れてエインダー島へと走り出した。だが一行には緊張感などまるでない。恰幅の良い中年の船長はハッハッハと豪快に笑う。
「禁止区域に入るって雰囲気でもねえが、大丈夫かい。皆を島に降ろしたら、俺は漁をしてから手前の小さな島で待機する。5日後、魔法でも打ち上げて知らせてくれや」
「あ、えっと……大丈夫です。ゴウンさん達はシルバーバスターですし」
「ほう、先生と子供の遠足かと思ったぜ。何十年も人が立ち入ってねえんだ、せいぜい気を付けるこった」
船長の男はでっぷりと突き出た腹をポンと叩いてまた豪快に笑う。
エインダ―島が立ち入り禁止になって以降、研究員や国の役人、それにバスターが護衛として訪れた事があった。船長はその時に案内の船を出した経験があり、付近の海域を知る数少ない漁師だ。
「あー僕達はちっとも大丈夫じゃない。ちょっと、波しぶきが当たらないようにしておくれよ、塩水は嫌いなんだ」
「あの船長さん、エインダー島付近の海域を熟知している重要人物なんだって」
「え? 何だって? 僕に言ったのかい? 船の音で聞こえないよ」
「バルドル、あの船長さんは重要人物なんだってさ!」
「重量……? ああ、重量人物ね、見るからにそのようだよ」
バルドルの盛大な聞き違いが船長に聞こえてはいないだろうかと、シークは操舵室の船長をチラリと盗み見る。セーフのようだ。
船は夕方に漁師小屋があるだけの小さな無人島に停泊し、翌日の昼にようやくエインダー島に辿り着いた。
「これは……凄い! 目的を忘れて散策したくなる」
「テディさん、何枚写真撮ってるんですか、フィルムなくなりますよ」
エインダー島には火山以外に何もない。冷えて固まった溶岩に僅かな草が生えた程度だ。
桟橋の跡に降り立った一行は、もくもくと煙を噴く火山の麓で、さっそく魔王教徒探しを始めた。
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