CROSS OVER-02
バルドルへの追及よりも、今はヒュドラを討伐する方が重要だ。
「じゃあ、行くよ!」
「おう!」
シーク達が再び斜面を滑り降り、ヒュドラへと駆けていく。案の定、首は全て復活していた。
「私から行く!
ビアンカがヒュドラの右後ろから技を放つ。仕切り直しの一撃はもちろん全力だ。
気力が光となって一直線に放たれ、ヒュドラの首の付け根を撃ち抜いた。次の獲物を探していたヒュドラがビアンカへと振り向く。
「バルドル!」
「僕の気持ちはもう先に斬りかかってる」
「それはどうも……エアリアルブルクラッシュ!」
シークはビアンカが狙った場所を更に斬り付ける。その間にゼスタが前へ回り込み、ヒュドラの注意を惹き付けにかかった。
「飛ばすぜ……業火乱舞!」
ゼスタが真っ赤に燃えるケルベロスの刀身で、首から腹までを深く斬り付ける。ヒュドラは不意打ちを喰らい、一瞬動きが止まった。
「よし、畳み掛ける! とにかく首を全部落とすんだ! シーク、任せたぞ!」
「分かった! アクア・ブルクラッシュ! バルドル、狙い目教えて!」
「左から2番目の首から。順番に全部落とせば怖くない」
「いや、怖いとか……まあ、そうだね」
シークはヒュドラの首を狙い、攻撃を畳みかけていく。ヒュドラの首はゼスタを主に攻撃しながらも、いくつかがシークの動きを追う。くねくねと動いて翻弄する首、シークめがけて打ち付ける首、それぞれ独立して襲い掛かってくる。
「キィィィィ!」
「毒に気を付けろ! ブレスだ!」
ゼスタが危険を知らせると同時に緑の毒霧が撒かれ、地表を覆った。シークとゼスタが口を塞ぎながら避ける中、ヒュドラは首を振って襲い掛かる。
「近寄れねえ!」
「シーク、ゼスタ、離れて!」
胴を狙い続けていたビアンカがグングニルを頭上に構えた。ゼスタとシークが瞬時に距離を取る。
「
回転と同時に大気中の静電気が集められ、グングニルの矛先から雷が放たれた。
「ギィィィ! グルル……グッ……」
ヒュドラは雷に撃たれ、体を仰け反らせた。注意がビアンカに向かないよう、すぐにシークがトルネードで攪乱する。風の渦に紛れて駆け寄った後、首の1つにバルドルを振り下ろす。
シークの攻撃とビアンカの連携により、ヒュドラの首がまず1つ落ちた。
「シーク、そのままいけ! 双竜斬! ……剣閃!」
「エアリアル……スラスト!」
ゼスタが攻撃を畳みかけ、ヒュドラの首の大半が再びそちらに気を取られる。シークはまたビアンカと共に首を落としに掛かる。
「シーク! 炎が!」
「アイスバーン! ケルベロス、ゼスタを守ってくれ! 発動の調整よろしく!」
「おう、任せとけ!」
「キャッ!? 気を付けて、皮膚の裏に毒がある!」
「ビアンカ下がって! ケア! ヒールは?」
「お願い!」
ヒュドラ退治は短期決戦。首が復活し続けるなら、いつまで経っても倒す事が出来ない。
本来ならば手練れのバスターを呼び寄せるべきだが、多くはアーク級モンスターの討伐や、各市町村の警備に当たっている。魔王教徒も現れた今、手の空いたバスターなどいない。
シーク達もそれを承知だからこそ、精鋭の3人のみで討伐に来た。知らない者同士の付け焼刃の連携はかえって邪魔になる。
「ビアンカ! とにかく首を落としてくれ!」
「シーク、ヒュドラの動きから目を離しては駄目だ」
「炎のブレスが来る! ブリザード・ソード! バルドル、頼む!」
「はいはい」
シークはキマイラ戦の時のようにバルドルに魔法を掛け、その発動で炎を防ぐ。氷が解ける音と共に、シークが蒸し料理のように湯気を立てて現れる。
「くっ……」
「シーク、魔力を補給した方がいい。僕に伝わる魔力がかなり減っているよ」
シークはマジックポーションを手に取り、一気に飲み干す。体力があまり減っていないせいか、体力・魔力の両方に即効性のあるエリクサーは温存するつもりでいた。
「よし、もういっちょ! トルネード……ブルクラッシュ!」
「残り4本! 全部落とせるか!?」
「落とすしかない……だろ!」
ゼスタがヒュドラの首の打ち付けをガードし、衝撃で後ろに下がる。口には出していないが、ゼスタは注意を惹き付けるためにかなり無理をしていた。一撃で吹き飛んでもおかしくない衝撃を、手足に込めた気力でひたすら耐えている。
シークも攻撃の合間にヒールを唱え、ケルベロスとグングニルにはアイスバーンやアクアを掛けていく。
「ハァ、ハァ、アイスバーン!」
「有難う! アンカースピアァァ!」
ビアンカが頭の1つへと跳び上がり、脳天へと槍を突き刺した。機能しなくなった頭が垂れ下がると、続いてシークがバルドルを水平に構える。
「
「まずい、右端の首、再生始めるぞ!」
「それなら私が……魔槍!」
「お嬢、胴を狙い! 首の数が減っても全く動きが鈍っとらん! これは心臓が動いとる限り、再生すると見た!」
グングニルの指示で、ビアンカが胴へと狙いを変える。体が大きく狙いやすいためか、ビアンカは今までの戦いの中で一番輝いて見える。
「アイス・ブルクラッシュぅぅ! ハァ、ハァ、残り1本!」
「シーク、魔力を回復だ」
シークは魔力が追いつかず、自身へのヒールも最小限になる。マジックポーションを飲んだからといってすぐに魔力は戻らない。回復した分をすぐに使い切り、地面には何本もの空き瓶が転がっていた。
確かにヒュドラを圧している。だがシークには不安がよぎっていた。
「ぐはっ……しまった!」
「シーク! ゼスタが!」
ビアンカが叫び、シークがゼスタへと目を向けた。ゼスタは残り1本の首の打ち付けをガードした後、踏ん張りきれずに倒れ込んでいた。
ヒュドラが好機と捉えるのは当たり前だ。すぐに毒霧がゼスタに襲いかかる。
「ゼスタぁ! ケア! いったん退け、ヒール!」
シークがゼスタの毒を解除し、すぐにヒールを唱える。首は残り1本。シークが飛び掛かり、エアリアルソードを構える。
しかし、それが発動しない。
「くっそ、魔力切れだ!」
シークは魔力を込める事を諦め、そのままヒュドラの首へと斬りかかった。
「剣閃!」
幸いにも最後の首は斬り落とされ、ヒュドラは胴体だけの姿になった。
「ハァ、ハァ……やったか!」
「きっつ、急激に気力を使い過ぎたわ……」
シーク達は首を失ったヒュドラが崩れ落ちるのを待つ。しかしヒュドラは倒れるどころか、その場で体を捩って暴れはじめた。
「あの状態で動くのか……ゼスタ、危ない!」
「シーク離れろ!」
ゼスタが叫んだその時、ヒュドラの血がシークの腕に降りかかった。血に毒が含まれている事はビアンカが確認済みだ。
「まずい! ケア!」
「シーク、魔力がもう残ってないないよ! 魔法の使い過ぎだ、エリクサーを!」
シークはケアを唱えたが、発動させる魔力が残っていない。これではマジックポーションで回復を図る前に、シークの体力が尽きてしまう。
「エリクサー……使わなきゃ」
「シーク!? ゼスタ、シークが!」
「無理するな、俺は胴体の動きを止められないか試す!」
「大丈夫! ビアンカはそのまま胴を狙ってくれ。ゼスタ、首の再生を……阻止だ!」
シークは自分へのヒールを殆ど行わず、ポーションよりもマジックポーションを優先していた。体力は毒によって更に減り、とうとう体を動かせなくなる。
「くっ、瓶が、掴めない」
「飲ませる事が出来なくてごめんよ。体は動くかい」
「う……ごかない、け、ケア……」
なんとか溜まった魔力がケアの発動を助けた。しかし体力の減りは止まったものの、もう体が動かない。
「駄目だ! 3本まとめて再生し始めた! ビアンカ、首の再生阻止に回ってくれ!」
「分かった! 流星槍!」
ヒュドラの再生力の前に、ゼスタとビアンカが苦戦している。このままでは結局持久戦だ。
「困った時の聖剣頼みといくかい」
「カッコつけてる場合じゃないね、た……頼むよ」
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