ALARM-02
* * * * * * * * *
「バルドル、物凄くご機嫌だろ」
「うん、君が思っているよりも」
3人は勲章を授与され、魔王教徒襲来における緊急クエストの報酬も貰った。その上、町長が『何でも』と言ったご褒美の幾つかも受け取った。
伝説の大樹「バルンストック」を素材にした鞘やカバーは貰う事が出来なかったが、別の高級品を貰っている。
まずは「グリムホース」の革を使った最高級の大判クロスをたくさん。
次に、バルドルには天鳥の羽毛を使った特注のカバー(寝る時用らしい)が贈られた。ケルベロスには、マガナン大陸南東に位置する「ダイナン島」の火山にだけ自生する樹木「ザックーム」を使った鞘だ。
グングニルには同じくザックーム製の矛カバー。どちらもダイナン島のダリア村にしか加工できる職人がいないとされる逸品である。
それらはバスター管理所の情報と、ユレイナス商会の輸送網をフルで活用した結果、なんとか手に入ったものだ。
「武器として考えられる限り、一番の贅沢だね! ああ、天鳥の羽毛カバーも貰えるなんて!」
「ああ、家に帰ってからと言わずに今、ここで、早く! 俺っちをその鞘に!」
「お嬢、その……すぐ使うてくれるんよね? 余所行きとかやなくて、いつも使うてくれるんよね?」
シーク達は武器達の上機嫌な会話に、まるで親のように微笑む。
一方、町の通りでは、新人バスターが笑顔で装備を見せあいこしている。真新しい装備を見るに、新人達も無事に装備を手にできたらしい。
装備屋で許可を貰っていれば、暫定バスターとして身につける事が出来る。待ちきれないのだろう。
「シーク、シーク! グリムホース革クロスは何枚貰ったんだい?」
「えっと……全部で30枚……いや、32枚だ」
「その、つまり僕とケルベロスとグングニルだけで分ける……訳じゃないんだよね」
「活躍した君達に少し多く渡すとしても、流石にテュール達にもあげないと可哀想だろ」
「『旨い物は少数剣』……なんて言うと、僕の『剣格』を疑われるね。仕方ない」
バルドルは、本当は全部を奪って山のように重ね、その中に埋もれたいとさえ思っていた。けれど我慢我慢と呟き、テュール達と均等に分けることに承諾した。
「聖人に夢なしって言うけど、おもいっきり邪念まみれじゃねえか。バルドルには当てはまらねえんだな」
「僕は『聖剣』だからそれには及ばない。どうもね」
「まあまあ。アルジュナの分は今度レイダーさんに会った時に。アレスの分はとりあえず1枚、俺が持っとくよ」
「じゃあ、今日はこの後自由行動! 明日装備を受け取ってから、イサラ村に行くって事で。いいな」
「暫くは新人でゴッタ返すし、賛成。ああ、装備更新が楽しみだわ! また明日ね!」
3人は解散し、家に帰っていく。装備代を差し引いても手持ちに随分と余裕があるせいか、シークも今日は馬車でアスタ村に帰るつもりでいた。
晴れ渡った空の下、職業校の卒業生が道具屋の店先に押し寄せている。いつもより少しだけ賑やかな様子を眺めながら、シークは停車場のベンチに腰かけた。
「今年はバスターになれる人が少ないって話だけど、見てると勢いはあるよね」
「勢いは分からないけれど、良い装備を手に入れられた子と、そうじゃない子の差が見て分かるよ」
「え、こんな所から見て分かるのか」
「確かに今年の新人の装備は質が高い。でも、時々あまり良くない装備が混じっているよ」
「例えば?」
シークは視線の先にいる新人達を、左から順番に「赤い装備」「おさげ」「黒い装備」と言っていく。軽鎧を着た少年の所でバルドルは「その子」とストップをかけた。
「あれは酷いね。軽鎧は素人が作ったのかな。ボアやゴブリン相手であれば命に関わるものじゃないけれど、問題は武器だね。他の子はちょっと質が悪い程度で済ませられるけれど、あの子の大剣は駄目だ」
「大きさが中途半端だけど、確かに武器は大剣だね」
「新人用だから軽くするため、薄刃に仕上げているのは分かる。ただ、柄の部分と刀身が別に作られている」
「え? そんな作り方する事なんてある?」
「無いね。後で柄を継ぎ足されている。あんなものを掴まされるなんて」
声を掛けるべきなのか、シークはとても悩んでいた。ましてや、先程自分の行動がどういう影響を与えるのかという話をしたばかりだ。
けれど、今までバルドルの目利きに間違いはなかった。もしもの時、シークはあの時声を掛けたら良かったと後悔するだろう。
シーク達の無謀な旅を引き留めてくれたのはゴウン達だった。恩人の行動を見習うとすれば今まさにこの時だ。
バルドルがシークに話題を振ったのは、行動を起こさせる意図もあった。シークはあと数分で来る予定の馬車を諦め、笑顔で鞄を眺める少年へと歩み寄った。
「……やあ、今年の卒業生?」
「え? はい……あっ!」
「ちょっとだけいいかな」
シークは騒がれないように手招きして、道具屋の前から離れた。
「シーク・イグニスタさんですよね!」
「うん、一応今日まで新人のね」
「学校でも話題になってますよ! 天才バスターだって、次の勇者だって」
「そ、それは恥ずかしい……」
少年は目をキラキラと輝かせ、憧れのバスターが目の前にいる事に感激している。シークはそんな少年に眩暈を感じながら本題に入る。
「えっと……単刀直入に尋ねるよ。その武器はどうしたんだい」
「この武器ですか? なんとか買えたものですけど、何かありましたか?」
「どこかで買った、ってことかい? 家にあったとかじゃなくて」
「はい。武器が残っていた店で、目的の大剣があったから……盗んだわけじゃないですよ、許可証もあります!」
「あ、そんな疑いを掛けてる訳じゃ……」
シークはその武器がお世辞にも良い物とは言えない事、出来れば今からでも買い替えた方がいい事を伝えた。
「お節介なのは分かってるんだけど、その剣は俺が引き取ってもいい。売ってくれた店を教えて欲しいんだ。それと新しい武器について、俺と今から相談に行かないかい」
「えっ、イグニスタさんと!?」
「それと、聖剣バルドルも一緒」
「どうもね。おっと、剣のどこに目があって目利きするんだ? なんて言うのはなしだよ」
バルドルが喋る事を知っていても、やはり皆が一様に驚くものだ。少年は恐る恐るバルドルに話しかけ、そして嬉しそうにはにかんだ。
「改めまして、シーク・イグニスタです」
「ディズ・ライカーです。すぐそこの喫茶店がうちの実家なんです」
「お洒落な店だね、今度寄らせてもらうよ。さて、武器を買った店は?」
ディズはこっちだと言って歩きだした。大通りから1つ入った路地を何度か曲がる。何軒かの店が連なる中、日当たりの悪い1軒の小さな武器屋があった。
「シークはお人好しでね、こういった時に見過ごせないんだ」
「今回はバルドルの『お剣好し』だろ」
「ここです」
ディズが店の中に入り、シークもそれに続く。木の壁に少し薄暗い店内。その店内の品数は少ない。シークはきっと新人バスターが押し寄せたせいだと思っていた。
が、バルドルの見立ては違ったようだ。
「いらっしゃい」
痩せた年配の店主は、カウンターの椅子に座ったまま、読んでいた雑誌から顔を上げる。そして品定めするようにディズとシークの顔を見上げた。
「……良い武器がないね」
「どういう事?」
「単純に経営が上手くいっていないんじゃないかな」
そう言った後、バルドルはシークに行動を促す。
「あの、すみません。ここの店で買った友人の大剣ですが」
「何だ、返品も苦情も聞かんぞ?」
売ったら売りっぱなし、そんな姿勢が垣間見える。シークはすぐに店の品揃えを非難してやろうかと思っていたが、グッと飲み込んで笑みを浮かべた。
「いえ。同じものはありませんか」
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