HERO‐04
おおよその状況を把握したシークは、母親とチッキーに今からまた出かける事を告げた。ケルベロスやグングニルが喋ると気付き、チッキーの目は一層輝いているが……それどころではない。
現在、多くのバスターがアスタ村に滞在している。アスタ村よりは普段よりバスターが少ないギリングの方が心配だ。
「俺っちはゼスタと旅してんだ、また会えるさ」
「テュール、あんた見た目はすっかり変わったけど、元気そうで良かった。穏やかなあんたやけ、農作業はよう似合っとるばい」
「グングニルも相変わらずで何よりです。皆、持ち主の皆様を頼みましたよ」
武器達にとっても束の間の再会になってしまった。近況報告はもうしばらく後になるだろう。
「慌ただしいのね。でも、何か大きなことをやろうとしているのなら、動くべき時には動かないとね。また落ち着いたら帰っていらっしゃい、村は大丈夫だから」
「うん。じゃあ行ってきます」
「兄ちゃん、気を付けて」
「有難う、チッキーも用心してくれよ。テュール、宜しく頼むね」
「畏まりました。皆さま、お気を付けて」
「僕達に任せておくれ、えっと……テュール。じゃあね」
シーク達は見送りを受けながら、馬車と御者の許へと駆けていく。まさかの事態に動揺はしていたものの、3人の表情はとても勇ましく見えた。
* * * * * * * * *
ギリングの外壁がようやく暗闇の中に見え始めた頃、御者の目には門前に佇む人の姿が映っていた。
「お三人方! 門の前で誰かお待ちになっているようですよ!」
「えっ」
シーク達が窓から顔を覗かせて見ると、確かに数人の人影がある。こちらに手を振っており、馬車は門の手前で停車した。
「お待ちしておりました、ああ、よくご無事で」
「あ、管理所のマスターさん! なんだか……大変な事になってしまいましたね」
待っていたのは管理所のマスターだった。その隣には警察の姿もある。村から連絡を入れていたため、迎えに来たのだ。
「ええ。バスター排除の動きもそうなのですが、商人の護衛につくバスターすら目を付けられておりまして……。大規模な抗議活動は昨日からですが、小競り合いは1週間ほど前からありました」
「それで、商人の馬車とは全くすれ違わなかった訳ね」
簡単な説明を聞いた後、3人は馬車と別れて管理所へと向かった。抗議する者に何かをされたとして、バスターは怪我でもさせられない限り反撃出来ない。
そのため警察官に同行してもらうという、なんとも情けない形で向かう事になったのだ。
「静か……ですね」
「ええ。バスターや商人の往来がなければ、ギリングも所詮は田舎町ということです」
警察官は苦笑いし、「大きな声では言えませんがバスターの味方です」と教えてくれた。警察の相手は人であり、モンスターとは戦わない。人や物に被害が出た後の対応しかできない。
「さあ、中に入って下さい。管理所の建物自体は頑丈ですから、押し入られる事はないでしょう」
「有難うございます。雪かき大会なんてやって、盛り上がったばっかりなのに」
「おおよその町民は、バスター排除に反対なのです。しかし、声が大きい団体が色々と……」
「自らは正義、相手は悪に違いない、ですからね」
シーク達は悩み、そして今後どうするかを考える。広い館内にいるバスターはシーク達のみ、他はまだ残っている職員が数人。ロビーの話し声はよく響く。
「魔王教徒の動きはどうなっていますか」
「自らそうだと名乗るはずもありませんから、難航しています。先月捉えた者もまだ牢屋におります」
「明日、俺達が町の人に状況を説明したらいいんじゃねえか?」
「そうね。魔王教徒の事、アンデッドの事、きっとみんな知らないと思うの。お父様の会社もバスターの護衛ありきの商売だし、気は進まないけど……物資も入らなくなるって説明する」
「とりあえず今日は皆さん、この館内にお泊り下さい。シャワー室もありますし、仮眠室もあります。お食事もご用意しましょう」
「有難うございます」
仮眠室へと案内された3人は、武器達をそれぞれのベッドの上に置いてため息をついた。あまりにも目まぐるしい展開に、頭の整理も追いつかない。
そんな中、疲れ知らずの武器達は3人の代わりに話し合いを始めた。
「魔王教徒の仕業とすれば、僕達が斬る訳にはいかない。けれどアンデッドをこの町に大量に連れ込むとなれば厄介だね」
「ああ。でもまず入門が難しいはずだぜ。夜には門も締まる。となれば、町の周辺に集めといて、町の中で召喚するか」
「バスターが活動できん状態にする。昼でも夜でもアンデッドは動けるんやし、門が開いとる時間に押し寄せる……あるかもしれんね」
「真っ向勝負は向こうも覚悟している、ってことだね」
様々な事を話し合いながら、武器達は今後予想される事を列挙していく。その中で、ふとシークは1つ気になる事があった。
「俺達、キマイラを倒したギタカムア山周辺から、いっぱいアンデッドを運んで来るって考えていたよね」
「ん、ああ……まあ、そうだな」
「バスターの活動を邪魔してるのって、手薄になるのを狙ってるだけ? この辺りのモンスターを狩らせないためじゃないかな」
「奴らの目的はモンスター保護みたいな事なんだろ」
シークの言葉の意味が分からず、ゼスタが首を傾げる。
「自分達がアンデッドに仕立てるためのコマを、先に狩られたくないからとか」
「そうか……! それはあり得るな。ただでさえ雪の季節、付近で活動しているバスターは少ない」
「じゃあ、ギタカムア山の麓のアンデッドは……もしかして、こっちは陽動? ムゲン自治区が狙い?」
「それもまずいな。もうゴウンさん達が着いている頃だけど、こっちも警戒は続けないと」
3人は推測の域を出ない1つ1つの思い付きに、どう対処していいのかと悩む。しばらくしても話はまとまらず、長旅の疲れから寝息を立てはじめた。
「やれやれ。魔王教徒が絡んでいるのは間違いないだろうね」
「内側から反乱を起こしている奴もいるんだぜ、きっと」
「後は、あたしらがもうギリングに着いとるっち事がどれだけ知られとるか」
「とりあえず、シーク達に提案出来る事は僕達で考えておこう。こんな事で足止めを喰らってもらっては困るんだ」
* * * * * * * * *
「分かりました。魔王教徒という言葉は出さずに、バスターの活動への理解を求めましょう」
「こちらが別の事を警戒している、そう思わせます。上手くいくかは分かりませんが……首謀者も出てくるかもしれません」
「我々警察の方でも入門審査の強化、不審人物の職務質問を行います」
翌日、管理所は放送でバスターを集めた。今日は一般のクエストの発注業務を止めている。
管理所に残る者は町のバスター排除団体との話し合いに、その他の者は町の外の見回りの指示が出る。従わない者は町外退去だ。
シーク達は管理所に残り、話し合いに同席する。
抗議団体に放送で話し合いをしようと呼びかけ2時間後。その団体の者と見られる数人が管理所に現れた。
「放送を聞きました。野蛮なバスターの活動を中止して下さるそうで」
そう早口で捲し立てたのは、小柄で小太りな中年の女性だった。その他にも同年代と見られる男が4人、それに若い男が1人いる。
「いえ、抗議は受け取りましたが、中止はまだです。まずはこのような活動をされる動機、それに今後の町の安全について、再度きちんとお聞かせ願えますか」
町長、マスター、そしてシーク達がロビーのテーブルに着く。バスターや町民がそれを取り囲み、一部は2階の吹き抜けの手摺からも見下ろしている。
団体の主催者と思われる女性は腕組みをして薄ら笑いを浮かべ、また早口で自身の主張を述べ始めた。
「モンスターは生き物! 生き物の殺戮は非人間的行為! 殺戮よりも共存を考えるべきよ、生き物の殺戮団体なんて許されません!」
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