evolution-05

 

「ビアンカすげえ、槍で遠距離攻撃かよ……俺だって、剣閃!」


 ビアンカはようやく伝説武器を手に入れ、誰よりも張り切っている。ゼスタは自分も大技を出すため、体の前でケルベロスを持った手を交差させた。


 左の短剣を右脇に、右の短剣を左頬前ギリギリまで引き付け、刃がある方を相手に向ける。そして高速で押し出すように振り切る。


 力を込められたケルベロスの刀身が淡く光った。その残像がまるで1枚の光の板のように、バンダースナッチの体を真っ二つにした。


「出来るようになったじゃねえか! 流石俺っちが見込んだだけのことはあるな!」


「カイトスターさんが使ってた技、双剣でやってみたいと思ってたんだよ。ケルベロスもアドバイス有難うな!」


 双剣で繰り出される剣閃は、左右の2本の軌道から2重の光の刃を作り出す。1枚ではなく2枚で襲い掛かる威力はオリジナル以上だ。


「ゼスタもビアンカも凄いよ、俺も何か技を新しく使ってみたい」


「教えたい技はいっぱいあるよ、さっきの剣閃だって元は剣の技だ。魔法使いだと言い張る君さえ良ければ教えるけれど」


 シーク達は間もなく両側の崖が低くなって拓けた場所に出た。案の定、モンスターはシーク達がここに来るのを待ち構えていたようだ。バンダースナッチや大型の鳥系モンスターなどが、次々と襲い掛かってくる。


「みんな凄いな。わたしは……見ているだけで良かったのだろうか」


「シャルナクがいなかったらこんなに順調に歩けていないんだ、十分だよ」


「ここからだと……メデューサがねぐらにしている谷は、あと2,3時間歩くくらいかな」


 岩によじ登れば見渡す限りの赤い土と、茶色い岩だけの山の斜面が一望できる。言い換えると、この先は同じ光景が広がり、隠れる場所が殆どない。


「ここでメデューサと戦えるなら楽そうなんだけどな」


「そうね、不意打ちを喰らわないし、対象が見えているって基本よね」


 足場となる地面は、岩以外の場所を踏むと柔らかい。だが踏ん張りに不安があるとしても、ビアンカとゼスタはこの場所がベストだと言う。特にビアンカのように大きな武器の場合、間合いに何もない事が戦う際に最も重要になる。


 けれど、その意見は否定された。否定したのは広い空間を必要とするはずのグングニル、それにバルドルとケルベロスだった。


「そりゃ普段のモンスターが相手やったらそれでええよ。周りに何もないけ、槍の大技だってなんぼでも出しちゃる。けどね、メデューサと戦うんやったら話は別。この状況が一番危ないんよ」


「え?」


「相手からも見える、つまりこっちが見ればあっちも見るんだぜ? 目を合わせたら麻痺、その状況で戦うのは感心できねえな」


「あ、そうか……。さっきみたいに目を瞑って、バルドルの指示通りに動くってのもアリだけど、正確に叩くのは難しいね」


「ねえ。ゴーレム戦でバルドルがやった方法があるじゃない? バルドルは麻痺なんて効かないし」


「共鳴、か」


 ビアンカが正解はこれだ! とでも言いたそうに、手をパンッと合わせて笑みを浮かべる。しかし、それは答えとして正しくなかったようだ。


 バルドルは気持ちだけ首を横に振り、それは出来ないと答える。


「シークと僕が共鳴出来たのは、僕に技を繰り出すための気力や魔力を込められ、十分に貯める事が出来たからだよ。それにシークがある程度消耗していないと、僕が入り込めるだけの『空き』も出来ない」


「ん~、という事はやっぱり目を瞑る作戦ね。さっきみたいな狭い所だと戦えない」


「上手く注意を逸らして、シャルナクに戦況を報告してもらう……ああ、それならケルベロス達に任せても一緒か」


 有効だと思われる案を出しては潰し、どうやって戦うべきかと頭を悩ませる。この先の谷に入っても、結局武器を振り回すには広い場所での戦闘は必須だ。ここで戦う事となんら変わりはない。


「……あの、これは素人のわたしの考えなんだが……」


「シャルナク、何か閃いたの?」


「え、ああ。砂漠でシークが大きな岩を出したが、あんな感じで、見通しが良すぎる場所では意図的に岩を出現させてはどうだろうか」


 咄嗟の思い付きだったが、シャルナクの案を聞いてシーク達は目を丸くする。ビアンカはシャルナクの両手を握り、ぶんぶんと振って感謝の意を示した。


「良い案だわ!」


「それだ! その作戦だよ! シャルナク、その作戦で行ける!」


「え? あ、いや、軽い気持ちで言ったんだが……ちょっと、おい喜び過ぎだ! 言ったわたしが恥ずかしくなる!」


「とてもいい案だね。それに、それなら周りの地形を利用するのではなく、欠点のない最適な地形を作り出すことができる。シーク、この場所に僕が言うようにストーンバレットで岩を出しておくれ」


「分かった!」


 バルドルがシークに指示し、まずは辺りにある小さな岩を拾わせ、岩を出現させる場所の目印として置かせていく。


 それぞれの場所から視界が十分確保できることを確認すると、ある程度の広範囲に5つの岩の場所が決まる。後はビアンカが槍を振り回せる間隔を十分に取れるかどうかで微調整すればいい。


「じゃあ、その間に私達でメデューサを探してくるわね」


「そうだな。もしもみんなで探しに行き、その間にここにモンスターが現れて、岩陰に逃げ込んだ時に襲われたら意味がない」


「それじゃあシャルナクちゃん、案内を頼めるかね。お嬢とゼスタちゃんと、ケルベロスちゃんもたい」


「その前に、メデューサを連れてきてからの作戦を打ち合わせたいんだけど」


 メデューサをおびき出すのなら、ここに着いてからすみやかに作戦に入れるのがいい。そう思ってシークは皆を引き留めた。


 だが、ケルベロスはシークに自分が如何に有用な剣であるかを主張する。


「俺っちをここに片方だけ残して行くといい。ここでバルドル達が話した事を、俺っちがそのままゼスタに伝えてやる」


「ん~まあ、さっきのバンダースナッチ程度だったら片手剣で十分だ。ビアンカもいるし」


「じゃあ頼むよ。無理はしないで」


 シークは岩を出す作業に取り掛かり、残りの3人はメデューサを探しに旅立つ。


「じゃあまた後でな、『シーク坊や』!」


 ゼスタが悪ガキのようにニッと笑ってシークに手を振る。先程グングニルから「ゼスタちゃん」と呼ばれた時、シークとバルドルは名前を出されなかった。クスクスと笑っていたことへの仕返しだろう。






 * * * * * * * * *





「よし、こんな感じかな……」


「君は魔法を抑えるという訓練をしなかったのかい? これじゃ暴発だよシーク」


「魔法を上達させるために訓練するんだから……アクアはわりと操れている自信があるけど、岩を出す時とは勝手が違うんだ」


 岩を置くことになったシークは、まずは1か所、真ん中の岩の設置から始めた。砂漠の時のように特大の岩が出てしまっては邪魔なので、とても軽くストーンバレットを唱えたのだが……。


 それでもシークの背丈の2倍を超える岩が出現してしまった。


 真ん中の岩にはシャルナクを登らせて、メデューサの動向を確認させる。上が平らであれば大きくても構わないのだが……問題はその他の4カ所だった。


 計画では、しゃがみ込んで上からそっと顔を覗かせる程度の岩をが必要だった。だが所定の位置には、ビアンカが背伸びしてようやく顔を出せる高さで、幅2メーテ程の岩が用意されている。


「弱い魔術書を使い続けてきたせいで、力を込めて唱える事に慣れ過ぎたんだね」


「これから更に、岩の上へと蹴落とせるくらいの岩を置かなきゃいけないのに……あ、そっか。魔術書を置いて唱えたらいいんだ」


 バルドルはシークの魔力の高さにワクワクしていた。エアリアルソードなどは、刀身が痺れる程の重い響きが伝わる、威力の高いものになってきたからだ。


「うん、楽しみだね。僕はとても楽しみだ」


「え、何が?」


「何がって……当ててくれてもいいけれど、どうだい」

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