【7】Misty Forest~大森林で探し求める七つの石~

Misty Forest-01

  

【7】

 Misty Forest~大森林で探し求める七つの石~




 シークが目覚めてから2日後。


 シーク達はバスター管理所のロビーに来ていた。病室で目覚めた後、シークはすっかり良くなり、跳んだり走ったりも出来るようになった。心配し過ぎてくたびれたと主張するバルドルを真っ先に手入れし、翌日には駆けつけてくれたヒーラーの皆に深々と頭を下げて退院している。


 ビアンカとゼスタから贈られた軽鎧に感動し、宿でビアンカとゼスタを抱き寄せて喜んだのが昨晩の事だ。


「……以上の事を讃え、感謝状を贈ります。ヴィエス商人ギルド代表、ノモス社マイオット・ノモス。……感謝状、シーク・イグニスタ殿、ビアンカ・ユレイナス殿、ゼスタ・ユノー殿。ギリング物流ギルド代表、ユレイナス商会オベロン・ユレイナス、以下同文です。続きまして……」


 そして3人は今、合わせて10組から計10枚の感謝状を渡されている最中だった。書面を読み上げる管理所のマスターも、流石にキリッとした顔をやや崩し、少し息切れしている。


 10枚ともなれば緊張も笑顔も続かない。全ての読み上げが終わった後、3人はようやく切らしていた笑顔を用意し、シークが代表としてその感謝状を受け取った。


「有難うございます!」


「えー、続きまして」


「え、まだ続くの!?」


 周囲の者も表彰はこれで終わりだと思ったようだ。一瞬拍手が湧き、すぐに収まる。


 ビアンカが声を上げたのも無理はない。


 彼らの前にはゴウン達が多くの感謝状を受け取っている。かれこれもう30分近く管理所のロビーで注目を浴びたままだ。もうこんなに要らないという程の感謝状に、そろそろ辞退を考えだしたくらいである。


「表彰はこれで終わりだよ。次は……君達の昇格だ。まずはシーク・イグニスタ」


「あ、はいっ」


 防具屋の主人が言った通りだ。突然の切り替えに、3人は急いで姿勢を正す。


「本日よりブルーランクバスターに昇格させる。ビアンカ・ユレイナス、ブルーランクバスターに昇格させる。最後にゼスタ・ユノー、ブルーランクバスターに昇格させる。おめでとう」


「有難うございます!」


 3人揃ってのブルー等級昇格に、皆が盛大な拍手で祝ってくれる。シークは防具が潰れ、新しい軽鎧もブルー昇格まで着る事が出来なかった。1人だけ私服でいる事が少し恥ずかしそうだが……皆に頭を撫でられ、ハグされて、顔は弛んでいる。


 ギリングで騒動が起きた時のような、僻みの感情を向ける者は1人もいない。少なくともこの場にいるバスターの間では期待されていた。


「シーク、早速防具を登録してよ!」


「うん、本当に2人とも有難う。ビアンカもゼスタも、共有のお金に余裕はありそうだから更新する?」


「大丈夫、大森林で通用しなさそうだったら考えるわ。それにまだ買ったばかりだし」


「シークはどのみちグレー等級の装備じゃ危険だったんだ。待たせて悪かったな」


「それを言うならゼスタの防具も更新しないと」


 船賃、宿代や食費、病院代、ヒーラーへのクエスト報酬などで100万ゴールド以上を使った。それでもまだ残金がある。おまけに今の謝礼金が50万ゴールド。合わせたら装備の更新費用も捻出できる額だ。


「さて、シークくんはまだ本調子ではないだろうけど、少し森に入ってみるかい。そこで調子を見ながら、行けそうだったら明日か明後日にでも洞窟へ出発だ」


「賛成! せっかくだからクエストを確認しなくちゃ。2つくらい選んでみない?」


「そうだね、宿代稼がなくちゃ。ちょっと見てきますね」


 シーク達は2階へと上がり、右手に進んでクエスト掲示板の前に立った。あまりクエストの数は多くないものの、バスター同士の取り合いにもなっていないらしい。


「バルドル、俺達が無理しないで受けられるクエストがあるか、見てくれないかな」


「マイコニド討伐は『ケア』の使い手がいる今なら簡単だね。マイコニドは動きが遅い肉食のキノコ型モンスターなんだ。毒の胞子をまき散らして相手を弱らせ、その間に寄生するように根を張って血を吸う」


「何それ怖っ! そんなの相手にして大丈夫か!?」


「ケアがある前提なら怖くないよ。ない時は魔法か遠隔攻撃だけになっちゃうけれど、それだと僕はちっとも活躍できない」


「リディカさんありきのクエストってことか」


「戦えるのは今だけ! お得だね」


「君にとってはね、バルドル」


 バルドルはモンスターの特徴を説明しながら、3人が簡単にこなせそうなクエストを選ぶ。グレー、ホワイト等級のクエストは殆どない。弱いモンスターはいないのかもしれない。


「木の実を根こそぎ取ってしまうネオゴブリン討伐、10体で4万ゴールド」


「え、10体で!? 凄く割がいいわ!」


「ゴブリンには雄、雌の区別がないんだ。同族だろうが動物だろうが人間の男だろうが女だろうが、構わずに繁殖の母体にするんだ」


「えー!? ちょっと! シークったら私をそんな奴らのおとりにしたのね!」


「……ごめん、なんか、本当にごめん」


「ネオゴブリンは作った棍棒や落ちてる剣や弓を使う知能がある。町からすれば真っ先に退治したい相手だろうね」


「ううう、恐ろしい。さっさと退治しようぜ。ところでおとりって何だ?」


 シークがビアンカをおとりにした作戦の事を打ち明ける。ゼスタはその無茶苦茶な戦い方に大声で笑い出した。自分と合流する前の僅か1週間、優等生だったシークがそんな破天荒な戦い方をしていたとは思っていなかったようだ。


 魔法使いが剣を振り回し、女性では数少ないランスがいて、ダブルソードがガードをこなす。全くもってセオリー通りではない。今ではゼスタもすっかり破天荒バスターの仲間入りだ。


「まあおとりは要らないかな。とりあえずマイコニド討伐とネオゴブリン討伐を受けて、肩慣らしに行こうぜ」


「ん~、ようやくモンスターを斬る事が出来ると思うと嬉しいね。さあ、毒にもめげずにどんどん斬っておくれ!」


「いや、毒にはめげるよ……まあでも毒消し薬はあるし、リディカさんに頼らず出来る所までやりますか!」


 シーク達が受付でクエストを受注し、1階ロビーへ向かおうと振り向く。そこにゴウン達がやってきて、彼らもまた受付にクエストを提出した。


「あれ? ゴウンさん達もクエストですか?」


「ああ、君達が戦っているのを見るだけってのも暇そうだからね。たまにはシルバーバスターの腕前をきちんと披露しようかと」


「はっはっは、違うぜ? ゼスタくん。コイツは君達に触発されてやがるんだ。俺も、矢を射る姿をちょっと見て貰いたいって思ってるんだ」


「ゴウンもレイダーも、ちょっと先輩らしくカッコ付けたいんだよ、な?」


 カイトスターが茶化すようにレイダーを小突く。


「まったく、子供なんだから」


 リディカは微笑んだままため息をつき、受付のスタンプを貰った用紙を鞄にしまう。そのリディカも久々の一般クエストとあって、心なしか楽しそうだ。


「という訳で、俺達も自分のクエストを進めさせてもらうよ。俺の動きがソードとしてお手本になればいいんだが」


「シークには僕という心強い『相剣』がいるからね。『忠人』として頑張ってくれたらいいのさ」


「……ちゅうじん? ああ、『忠犬』の人間版ね」


「僕のような『忠剣』にあやかった言葉さ。なかなかいいと思わないかい?」


「恐らく『けん』違いだけど、まあいいか」


 シークが空き部屋を借りて着替え、新しい防具一式に身を包むと、一行は大森林へと出発する。


 クエストはマイコニド討伐、ネオゴブリン討伐、そして樹木に擬態する食肉モンスターであるウォートレント討伐の3件だ。一行はそれらを抱えて元気よく町の外へと歩いていった。

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