Magic sword-13



 * * * * * * * * *




 3人はギリングに戻ると、管理所で完了させたクエストを報告し、報酬を受け取った。


 オーガの巣について報告した時、管理所の職員達の顔は青ざめた。それはそうだろう、行方不明となったバスター達の亡骸が、徒歩数時間の距離にあったのだ。


 職員は必ずベテランのバスターと共に現地に赴き、そして必ず供養すると約束をしてくれた。バスター証から身元が分かった者については、家族に連絡を取ってくれるという。


 女性は保護され、明日には村に送り届けてもらえる事になった。


 シーク、ビアンカ、ゼスタ、そしてバルドルは改めて女性にお礼と、何かあればいつでも村に来て休んで下さいという言葉をもらい、管理所を後にした。


「無事に助け出せてよかったね」


「そうだな。町にいると分からないけど、シークが時々村でモンスター退治をしているって話、結構大変な事だったんだと分かったよ」


「僕とシークは以前にオーガを倒しているからね。今後も広い場所で戦う事をお勧めするよ」


「オーガより強いモンスターもいるんだよな。あんな風に困ってる人もきっといっぱいいるんだ」


「私達、こんな風に町にいつまでもいて、夜は家に帰るなんて事を続けていていいのかな」


 モンスターの脅威を目の当たりにした3人は、町を拠点としたバスター稼業のままでいいのかと迷う。自分達よりも強いバスターが大勢いる中、困った人を助ける役目を担うのは自分達でなくともいい。


 ただ、このまま周辺にいるモンスターを狩るだけでは、バスターとして成長できないばかりか、クエスト数によって昇格できるランクも目指せない。


「ギリングはもう守られてるんだし、明日から別の所に移動しない?」


「僕は賛成だね! そろそろこの辺りのモンスターを倒すのも飽きたところさ」


「でも、そう言っても、行き先やこれからの予定とか、きちんと立てないと危険よ?」


 シーク達はこれからの予定を立てる為、バスター管理所でモンスターの情報などを調べ、ロビーにある木製の大きなテーブルを囲んで整理する事にした。


 地図の上に書き記していくと、比較的強いモンスターが何処にいるのかやクエストの傾向が見えてくる。


 北にある村の付近ではオーガ、西や東にはミノタウロスなどの出現情報がある。北東にある標高2000メーテ級の山脈を越えるルート、シュトレイ山近隣の道はあまり使われていないのか、それともモンスターが少ないのか、殆ど印が付かない。


「危ないかな、この北東の方って」


「情報の空白地帯って感じね、モンスターが強いんじゃないかしら」


「でも、村が1つあるよ?」


「何しに行くんだって話だよ。ただ様子を見に行くだけか?」


「強くなって、そしてランクを上げて、武器や防具を買い直すには強いモンスターも倒して、色々と管理所に情報を届けなくちゃいけないと思うんだ」


 殆どの新人が、まだ登録した管理所がある町から離れていない。それはまだ装備や旅に掛ける資金への不安や、戦闘の経験不足から離れられないという理由が殆どだ。


 その不安がないのなら、モンスターが弱い地域にいつまでも留まっているのはバスターとして二流だ。シーク達は自分たちがこの町を離れられる状況にあるかを確認する。


「ビアンカ、ゼスタ、幾らずつ持ってる? 今日の稼ぎは結構多いから、1人あたり2万1000ゴールドある」


「僕の分は気にしないでおくれ」


「心配しなくても俺が必要な時はバルドルの分を払うよ」


「それは良かった。僕はタダ働きにならなくて済むと言う訳だね」


 バルドルが感謝しろとでも言うように偉そうな声を出す。シークが優しく有難うと言って鞘を撫でてやると、柄を撫でてくれと更に注文を付ける。


「私は家に置いてる分を合わせると……15万ゴールドくらいかしら。ゼスタは?」


「俺は実質これが初めて見たいなもんだから、今日の分を入れても5万ゴールドいかないかな」


「宿代がかかるから、俺も5万ゴールドくらいか」


「シークは高級ナイトカモシカクロスと、ブラッドフラワーのアシッド液を買ってくれたんだ。貯金が出来なかったのは僕のせいだから、あまり責めないでくれると嬉しい」


「責めたりしないわよ。私は家から通ってるからお金かかってないってのもあるし。これからは宿泊費も気にしないといけないわね」


 3人は懐具合を確認し、まだ装備の更新までは出来ないという結論に至った。


 シークは既にバルドルという武器がある。まだグレー等級のゼスタも、装備はなかなかのものだ。


 それに対し、ビアンカの装備は家に頼らず自分で買った事、それに卒業式の後の装備購入が上手くいかなかった事もあって、性能的には不安があった。


 他の新人バスターに比べて明らかに稼ぎがいい3人の中で、一番お金が貯まっている……と言っても装備更新までは出来ない。これからは更に宿泊費も掛かっていくのだ。


「ビアンカ、心配いらないよ。パーティーを組んでいるんだから、本当に必要な時は融通するよ」


「そうだな、結果的にパーティーの戦力が上がるなら、みんなにとってプラスだ」


「有難う。あ、そう言えば!」


 ビアンカはその場で手をポンとたたいてからシークへと視線を向ける。


「シーク、今日のオーガ戦のファイアボール、凄かったわ!」


「そうだった。俺、シークがあんなに威力を出せる魔法使いだとは思わなかったぜ」


 シークはそう言えば……と思い出し、そしてハッと気づいて鞄から魔術書を取り出した。


「多分、魔術書を持ってたからだと思う。魔力も筋力や技術力と一緒で、こんなに急に上がったりはしないんだ」


「そういう事か。このまま貰っておく事は出来るのかな、流石にまずいか」


「遺品だからね……ちょっと、窓口に行ってくる」


 シークは窓口に行き、女性職員に魔術書を持っている経緯を説明した。洞窟で緊急的に拾い、戦闘で使ったことまでを素直に伝えると、中年の女性職員は他の職員と相談を始める。


 カウンターの奥の小部屋に数人が集まった後、暫くしてからシークが待っている窓口に戻り、そしてニッコリとほほ笑んだ。


「事情は分かりました。明日の朝、またこの窓口に寄って頂けますか? 届けて下さったバスター証で身元を調べましたから、ご家族の方に報告いたします。心配ありません、拾得物の横領にはなりませんから」


 横領にはなりませんと言われて笑顔を見せられても、シークのドキドキは止まっていない。


 拾ったものは届けなければならないというのは勿論当たり前だとして、バルドルを拾って使っているシークにとっては現在進行形の話なのだ。


 ついでにシークは、もし魔術書を貰えるのなら貰いたいとも思っていた。


 今日オーガに放ったファイアボールは、とても威力があった。火球というよりは砲弾に近く、ビアンカやゼスタから見てもまるで別の魔法のようだった。魔術書があれば旅も楽になるのだ。


 だが故人の持ち物を、図々しくも下さいなどとは言えない。


 窓口から戻ったシークが魔術書を持っていない事に気付き、ビアンカとゼスタはガッカリしていた。そのまま持っていていいと言われるだろうと予想していたのだろう。


「明日もう一度来て下さいって。見つけたのは俺達だし、どうせなら最後まで見届けようよ」


「そうね。明日はクエストを急がず、受付に寄ってからにしましょ」


「シークの魔術書代も考えないとな。ビアンカの装備の後は魔術書だ」


 魔術書の事は残念だと暫く色々と話をしたのち、シークはそろそろお開きにしようと地図をしまう。そして明日また集合する事を確認して解散となった。

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