第286話 シリウス号探索1

 次の日シリウス号の探索を始める。シリウス号は重力制御をしなくても安定するように半分地面に埋まった状態で復元している。なので、目の前にはお椀がかぶさったような、半球状のものが地面から飛び出しているように見える。

 この手の研究施設の整った船だったら、何も中に入って調べなくてもいのかもしれないが、何せ自分をはじめ誰もそんな研究データは持っていない。今回の発掘調査中にデータは収集したがそれが基本だ。後は怪しげなドキュメンタリー映画だけである。具体的に言うと、設計図に無い部分が、持ち去られたのか、それとも朽ちてしまったのか、直ぐに判断できない。壊れてる部分も故意に壊されたのか、朽ちて壊れたのかも分からない。周りを見て自分が判断するしかないのだ。そして、それが正しいかどうか誰も分からない。だが、やらなければ何も始まらない。


 修復していない外壁から船内へ入る。復元はしたものの、外壁にあまり重要なところは無いと思われたため、遠くからパッと見るだけならそうでもないが、近づいてみたら結構穴だらけだ。

 しかし、外壁の復元部分を見て、材質が気になり、ユキに聞いてみる。


「あまり良い趣味の色の宇宙船には思えなかったが、この外壁の材質の一部はオリハルコンじゃないか? 外壁だけではなく船内にも結構使われているようだが……」


「そうですね。元の材質は違う合金なのですが、どうやら冶金技術が失われてから、破損箇所を修復する場合、強度を維持するためにオリハルコンやミスリルを使用していたようです」


「そんなに特殊な合金なのかね?」


「特殊と言えば特殊かもしれません。この時代ですと、一度金属元素をプラズマ状態にしてから化合する必要があり、少量ならともかく、大量となると大がかりな設備が必要なようです。それよりはオリハルコンやミスリルをかき集めた方が早かったのでしょう。この惑星の冶金レベルで加工できるのですから」


 しかし、金より貴重なオリハルコンやミスリルだ、これだけの量となると大変なことだったろう。しみじみと古代人の苦労に心を馳せる、と同時に疑問が浮かぶ。


「そう言えば、地球にあった金の総量は僅かなものだったと聞いたことがあるが、オリハルコンやミスリルは違うのか?」


「いえ、金よりも重金属ですから地殻に含まれる量は極わずかですよ。今回修復カ所は合成したものを使用してますが、天然のものを使用した場合、この惑星の文明レベルで採掘できる量すべてを使用しても足りません。寧ろ今掘り出せているのは、この時代に掘り出したものが散らばり、腐食したものでしょう。この大陸が圧倒的に埋蔵量が多いのが納得できますね」


「? 今ある総量以上をどうやって使用していたのかね?」


「オリハルコンやミスリルが安定していると言っても、元の世界と比較してです。完全に安定した元素ではありません。少しずつですが崩壊します。しかも、今回判明したのですが、地上で太陽光を浴びてマナを放出すると、極端に半減期が短くなります」


「具体的には?」

「約1万年です。つまり、単純に言うとこの星の地殻に含まれる総量は10万年前の約1000分の1になっているということですね。勿論マグマから噴出する量や、腐食や風化により直接太陽に当たらなくなったものもありますし、直ぐに補修が必要になったわけではないでしょうから、それよりは多いでしょう。多少は予備の材料もあったでしょうから」


 船に入ったとたん大発見だ。コウは中には進まず、その場でユキに質問を続ける。


「これだけのオリハルコンやミスリルが地表に出てたんだ。大量のマナが放出されていたのではないかね? 生態系はどうなっていたんだ?」


「確かに10万年前を境に、変化があったようですね。マナの影響もあるようですが、恐らく軽いテラフォーミングをしたのかと。地層をはじめ、諸々のことから分析しても、その時を境目に大気組成の変化が見られます。また、穀物をはじめ、広く栽培されている野菜や果物の原種もこの時代に発生したものが多いようです」


「まさか、魔族も実は人間が作った人工種だというんじゃないだろうね?」


 あの強さは生物として異常だった。だが、人工生命体というのなら納得できる。


「いえ、人間と種として分化したのは、最初にお話しした通り約5万年前です。直接的な因果関係は無いでしょう。寧ろ種としてその前の種の特徴をより多く受け継いでいるのは魔族の方です。同じことはモンスターにも言えます。具体的に言えば、この惑星では魔石を体内に持っているのが普通だったようです。つまり本来なら魔族やモンスターの方がこの惑星の住人と言えるでしょう」


「しかし、実際には違う。なぜだ?」


「マナの過去の濃度を観測する方法が分からないため、推論になりますが、10万年前この船の影響で増えたマナにより、生物活動が活性化され、その活性化により、マナが消費され、希薄化したのが、5万年前なのではないでしょうか。その辺りから、魔石の無い、いわゆる普通の動物の骨が増加しています」


「ということは、今は本当に旧人類と新人類の交代の時期なわけだ。歴史的な時期だな」


 地球でも最終的にホモサピエンスが惑星中に広まるまでは様々な種族が現れ、そして消えていった。魔族のみならず、遠からずエルフやドワーフも消えるだろう。流石に数百年ほどの単位では消えないだろうが。


「ちなみに、人間、ここで言うのは私たちの先祖の人間だが、それと原住民が交配した形跡はあるのかね?」


 もしかしたらこの世界の人間は元の世界の遺伝子の先祖返りかもしれない。そう考えてユキに聞く。


「残念ながら、と言うべきかどうか分かりませんが、10万年前の原人と元の世界の人間では交配不可能です。遺伝子操作をしてキメラ交配をさせた可能性はありますが、少なくとも痕跡が残るレベルの数ではなかったようです。行なったとしても実験レベルでしょう。

 それにこの時代はまだ人間に対する遺伝子操作は忌避感があった時代ですからね。それから推察しても、可能性は低いかと。この世界の人間の外見が元の世界の人間と似ているのは、単なる類似進化にすぎません」


「そうか……」


 そう言ってコウは黙る。


「どうしてそのようなことを質問されたのですか?」


 コウの質問が不思議に思えたのか、今度はユキが聞いてくる。


「いや、本当に居なくなったのかと思ってね。元の世界から飛ばされ、そして物だけを残し、滅びてしまったということに、柄にもなく、何か哀愁を感じてしまったんだよ。彼らがここに来なかったなら、もしかして子孫は私と知り合いだったかも知れない、とか考えるとね」


「集団という小さな単位ではなく、種族でも、子孫を残せず滅びたものは、それこそ星の数ほどありますよ」


「そうだな。まだ探索を始めたばかりだ。サクサクと行こう」


 その言葉と共に“幸運の羽”のメンバーは先に進み始めた。

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