第265話 サホーヤ伯爵との会談

 サホーヤ伯爵との会談はすんなりと取り付けることができた。共謀、とまではいかないが、やはりお互いに勢力拡大に利用していただけで、特に確執があるわけではないようだった。小競り合いとはいえ、命を落とした者や、傷ついた者からしたらたまったものではないだろうが、政治とはそういうものだ。同じ立場だった自分としては、政治の都合で死傷した軍人たちに同情する。会談には自分達の他にはノベルニア伯爵も同席している。

 ただ会談はすんなりと取り付けられたとはいえ、ノベルニア伯爵と違ってリューミナ王国と直接の交流がないサホーヤ伯爵は、コウ達に映像を見せられても、疑念の念を持ったままだった。


「うーむ。百歩譲って魔族が本当にいたとして、このようなことが本当に起こっていることですかな。それに、仮に本当だったとして、我が軍とノベルニア伯爵の軍を合わせても5万に届きますまい。鎧袖一触で敗れ去るのが関の山では」


「少なくともリューミナ王国は全面的にバックアップしてくれるそうですぞ。もし、これが間違いだった場合、500白金貨をそちらに提供しましょう」


「なんと!」


 サホーヤ伯爵はノベルニア伯爵の言葉に驚きの声を上げる。軍隊を動かすには物資つまり金が要る。だが、500白金貨となれば2万の軍勢を半年動かしても十分おつりがくる金額だ。もし魔族が来るならどの道、矢面に立たされるのはサホーヤ伯爵の領地だ。単独で相対するのではなく連合を組めるのは大きい。もし来なかったとしても、人的被害無しに大金が手に入る。

 サホーヤ伯爵は顎に手を当て考える。どちらに転んでも益しかない。だが、そんなうまい話があるだろうか。


「大変ありがたい話ですな。こちらに益しかない。ですが、何故にそこまでされるのですかな?」


 考えても結論が出なかったので、素直にノベルニア伯爵に聞く。


「なに。そちらと同じく私も益しかない提案をされたのですよ。疑いを持つのは当然でしょうが、益しかない提案をされて動かないのは愚か者のすることでしょう」


 ノベルニア伯爵としても、見せられた映像が本当なら、自領に入る前にサホーヤ伯爵領で食い止めることは益がある。仮に間違いだったとしても、あの最新鋭の軍艦、ユクトゥース号が手に入るのである。軍事行動をおこし、さらに500白金貨を払ったとて十分元が取れる。どちらに転んでも益しかなかった。

 これほどの大金、本来なら軽々しく動かせるようなものではないが、信じられないことに目の前にいるパーティーのバックにはリューミナ王国がついている。今までの経験から、リューミナ王国がわざわざ関係を悪化させに来るとは考えにくい。勿論全てがまやかしで、とんでもない陰謀に巻き込まれたのかもしれない。だが、その可能性を考えてもここは動くべきとノベルニア伯爵は考えていた。


「ふむ。そこまでおっしゃるのであれば、軍を動かしましょう。だが、先ほど言ったように我が軍とノベルニア伯爵の軍を合わせても5万に届くかどうか。どうやってあの魔族達と戦うのか、策を聞きたいですな」


「簡単に言えば籠城戦をするだけですよ。勿論ここでするわけではありませんよ」


 コウは説明を始める。説明を始めると同時にテーブルに地図が映し出される。サホーヤ伯爵領と魔の大陸南部、そしてそれをつなげる地峡だ。地峡はほぼ中央に活火山があり、そしてその周辺が最も細くなっている。正確に言えば山のふもとにあたる部分が一番細い。直線距離にして約4㎞だ。上空から見る地図では活火山から麓までは草木はほとんどない。生物も殆ど棲んでいなさそうだ。逆に麓からサホーヤ伯爵領の近くまではうっそうとした森が広がっている。


「丁度荒れ地と森の境界線付近に城壁を作ります。カイヤ海から反対側の海まで届く城壁ですね。作るのは自分達が行うので心配されなくても大丈夫です。3日ほど時間を貰えばできますので。ただし、修復の魔法を全体にかけてもらいたいのですが、できますか?」


 コウの言葉にノベルニア伯爵とサホーヤ伯爵は同時に考え込む。


「冒険者まで雇えば、できなくはないと思いますが、魔法の援護がまるで期待できなくなりますが……籠城戦で遠距離から攻撃できる魔法使いがいないというのは致命的ではありませんか? それに詳しくはありませんが、あの魔法は既に対策がされていて、戦場では役に立たないと聞いています」


 ノベルニア伯爵がそう口に出す。だが、自分達は事前情報で、人間の魔法使いを攻撃に使うより、防御にあてた方が効果的なのを知っている。なぜなら、魔族は修復の魔法を知らないし、当然解除方法も知らないからだ。もしかしたら、奴隷となった人間の中には知っているものもいるかもしれないが、少なくとも広まっている気配はない。良くも悪くも魔族は個人の戦闘力に特化している。籠城して集団で戦うということはまずやらないことなので、必要もなかったのだろう。


「大丈夫です。攻撃の方は、我々が補助しましょう」


 そうコウが請け負うと、ノベルニア伯爵の顔がパッと明るくなる。


「そう言えば、カイヤ海の海賊を殲滅したそうですな。こちらでも噂になっておりました。その力を使ってもらえるのであれば、確かに魔法使いの穴埋めは十分以上でしょうな」


「カイヤ海の海賊を殲滅とは?」


 ノベルニア伯爵にサホーヤ伯爵が尋ねる。


「なんでも、50隻以上の海賊の艦隊に、巨大な鉄球を投げつけ、船を爆散させて、全て沈めたそうです」


「はあ、それが本当なら、確かに魔法使いは防御に専念させても問題ありませんな……」


 ノベルニア伯爵と違ってサホーヤ伯爵は疑わし気だ。だが、カイヤ海での出来事がノベルニア伯爵に伝わっているのなら、攻撃面はあまり考えないで良さそうだった。どう考えてもこの星のレベルでサラの攻撃を防ぐ者が居るとは思えない。仮にいたとしてもごく少数だろう。


(念の為だ。弾は多めに作成していくように。それと、修復の魔法が仮に効果が無くなった場合に備えて、コーティングぐらいはできるように用意しておいてくれ)


(良いけど、結構まどろっこしい手を使うよな。そこまでやるなら、あたい達だけでやった方が早くねぇか?)


 サラがちょっと不満そうに言ってくる。


(そう言うな。急がば回れと言うだろう)


(かいつまんで話しますと、魔族に勝ったとして、その後混乱する領地をどうにかするのが面倒ということですよ)


 コウではなく、直ぐ後に入ったユキの言葉に納得するサラとマリーだった。


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