第263話 タリゴ大陸での方針

「それでコウは、具体的にはどうするんですの?」


 排他的な知的生命体、つまりは魔族のことだが、その勢力圏内で落ちついて活動するには、活動領域を、友好的な人族の支配下におく必要がある。

 自分達が殺されることはまず無いだろうが、調査中にサンプルが荒らされたりしたらたまったものじゃない。

 かといって邪魔されないように排除するには、直接攻撃を受けて反撃するしかない。先制攻撃的防衛権を主張するには、コウ達はこの世界のことを知りすぎてしまったのだ。

 元の世界に帰ったは良いが、監獄惑星行きなど到底受け入れられないし、そもそもそんなリスクを冒すぐらいなら、元の世界に戻るより、この世界で暮らした方がましだ。そして、そうするなら調査自体が無駄である。

 しかしながら、幸運なことに魔族の方から、近々大規模な侵略を開始するという情報を得ている。単に再調査をした時に分かっただけだが。

 後は、人間族の手によって侵略軍を打ち破り、逆侵攻をし安全地帯を作ってもらえば完璧だ。そうなるには自分達の助力が必要になるだろうが、前面に出るのは避けなければならない。面倒くさいが、軍規に触れる以上仕方が無い。そもそもこんな想定外の状況でなければ今やっていることもアウトなのだから。


「まずはノベルニア伯爵に会って、サホーヤ伯爵と停戦及び対魔族に対する同盟を結んでもらうことを交渉するとしようかね。もっともサホーヤ伯爵が魔族に操られていたら、同盟じゃなく全面戦争をするように交渉することになるがね」


「そんなに簡単に伯爵に会えるかな?」


 サラが首をかしげて疑問を口に出す。


「数日後には会えるはずだ。ユーゼ艦長に頼んでおいたからな」


「いつの間に……そう言えば、あの船の任務ってなんだったんだろう。まさかあたい達の輸送じゃないよな」


「それもなくはないだろうが、メインは武具の供給だな。フラメイア大陸は一応落ち付いたから、中古の武具を大量に運んできたみたいだ。ま、軍縮するわけではなくその分を新しく作るんだろうがね。リンド王国を併呑したことでなせるようになった技だな。この世界の武具は自己修復能力なんて、マジックアイテムの武具でない限り付いてないからな。とりあえず中古だろうと整備されてれば、ボロボロの物よりましだろう。そしてその少しの差が勝敗を分かつこともある。それに物資はあるに越したことはない。特に武具は腐るものでもないんだし」


 軍資金も多少は持ってきているだろうが、物資の供与というのが微妙にいやらしい。なぜなら、いざという時に援助したわけではなく、貿易で売っただけ、と言い訳できるからだ。それを相手が信じるかどうかは別にして、建前は重要だ。金銭の供与も王族や貴族に対しては賄賂を贈るのが普通の世界だ、なんとでも言い訳がたつだろう」


「レファレスト王はこの大陸まで征服するつもりかな?」


「いや、それは無理だろう。少なくとも彼の寿命が持つまい。何か延命するマジックアイテムなり魔法なり使えたら話は別だろうがね。フラメイア大陸を統一できたら僥倖だろうさ。

 無理をしないためにはあと4、5年は対外戦争は難しいだろう。だからこそよその大陸からちょっかいを出されないために、友好的な勢力が広がるのを応援するのだよ。

 それに彼は魔族が侵略を開始していることを自分達の報告を通じて知っている。そしてノベルニア伯爵と会談したら、自分達の目的地が魔の大陸だとバレるだろう。自分達が魔の大陸に行った時にどうなるか、どんな影響があるのか分からない。そんな不安定な時に事を進めるような王様じゃない」


「もしかして、あたい達見張られてる?」


 サラがそう言って周囲をうかがう。


「馬鹿なんですの? わざわざコウの機嫌を損ねるようなことをしなくても、潜り込ませているスパイに報告させれば十分ではないですの」


 マリーが馬鹿にしたようにサラに向かって言う。流石、単艦運用型のAIとは言え、偵察任務に就くAIだ。その辺りのプログラムは同じ単艦運用型とは言え、本体は戦艦であるサラとは違う。もっとも性格の問題も大きいだろう。ただ、本体とリアルタイムでリンクしていたらサラもこんな疑問は持たなかっただろう。戦場ならともかく、この世界ではそうなると面白みが減るので却下だが……


「その通りだな。どの道この大陸の住人に表立って動いてもらうんだとしても、どうしてもバレるさ」


「?、どうして裏方に回ってもバレるんだい」


「自分達が肩入れすると、キルレシオが不自然になるからだな。1回だったら偶然と思われるかもしれない。2回目も奇跡と思われるかもしれない。だが、3度目は何か秘密があると思われる。それから先は分かるだろう」


 コウの言葉に、他の者が一瞬神妙な顔をしたかに見えた。だが、直ぐにサラが納得できないというような顔をする。


「あれ?、じゃあ連続で常識外れのキルレシオを出しつつ、尚且つ日常生活では不幸が降りかかるコウっていったい……」


 誰かが言うと思っていたよ、そのセリフ……


「しっ、言ってはいけません。コウの戦績は実力によるものです。日常生活での不幸は何回連続しようと単なる偶然です。戦場における不幸も対処できる範囲内ですので、問題無いのです。そこに何者かの意思があるということはありません。強いて言えば神に見放されているだけです」


 ユキがサラに向かって力説する。AI同士は会話であろうと、通信であろうと、艦隊司令官の自分には秘密にはできない。だから、本人の目の前で容赦のない会話をしていても仕方がない。仕方がないのだが、司令官本人の精神にダメージを与える会話については、秘匿する権限ぐらい与えても良いのではないだろうか。元の世界に帰ったらそう提言しようと思うコウであった。


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