第235話 ダンジョンを作ろう3

「これだけの宝を本当に、この近くにダンジョンを作って隠すつもりですかのう」


 職員の1人がようやく声を絞り出して言う。


「ええ、そうです。勿論1回クリアしただけでは全てを手に入れることができないよう、工夫はしますがね」


 ジクスで探索したダンジョン並とはいかないが、それなりの大きさのダンジョンを作るつもりだ。流石に最下層まで景品無しはやる気が失せるだろうから、この量の景品を小出しにして、後は評価実験の時に壊れてしまった武具を、インゴットに変えて所々に置くつもりである。


「これは国の宝とすべきものばかりじゃないか。今すぐ国王陛下に献上して、城に保管した方がええんじゃないか」


「ばか言うでないわい。こんなもんを持っていることが知られたら、それこそ他国が侵略してくるぞ。万の軍勢で攻めてもおつりがくるわい」


「じゃあ、どうすればいいんじゃ。無かったことにして、持って帰ってもらうとでもいうつもりか?」


「それが一番じゃが……もしこの人達に何かあって、宝が野ざらしにされたら、大陸が荒れるぞ」


「ダンジョンじゃ。国とは無関係な、人海戦術ではどうにもならん凶悪なダンジョンを作って、奥に隠すんじゃ」


「やはりそれがええかのう」


 ギルドの職員たちがダンジョンを作るという意見に傾く。コウとしては、だから最初からそう言っているじゃないか、とぼやきたい気分になる。自分としても騒乱の種になるような物を作る気は無いのだ。


「これだけの宝を隠すダンジョンじゃが。お前さん方はどう作るつもりなのか教えてくれんかね。何かの魔法でも使わん限りは、儂の生きとる間にできそうにないんじゃが」


「そうですね。魔法を使いますよ。作成は場所が決まれば、1階層が3m×3mの部屋が縦横30個入る広さで、100階層のダンジョンを作る予定です。先ほど言った通り魔法を使うので、3日もあればできるでしょう」


 ロボットを使って地道に穴を掘ることも考えたが、流石にそれでは時間が掛かりすぎる。ここは魔法ということにして、地面にダンジョンが収まるだけの穴をあけた後、3Dプリンターでダンジョンを作成するのが良いだろう。

 目立つ気がしないでもないが、今更のことだし、進んだ技術は魔法と変わらなくなると聞いたことがある。なんとかなるだろう。それよりも罠や配置するモンスターの方をじっくりと考えたい。


「そ、そうか……3日でできるのか……」


「作るのは3日ぐらいですが、罠や配置するモンスター。モンスターは基本的にゴーレムになりますが、それは時間をかけて考えるつもりですよ。皆さんのお知恵も借りて、マップもきちんと考えたいですね」


 流石に自分で全階層のマップを考える気はない。ユキ達に任せても良いのだが、どうしても意外性には欠けそうな気がする。勿論面白い案が出てくれば採用するつもりだ。1階層にモンスターも合わせて10個ぐらいは障害を設置したい。


「それなら、この宝のほんの一部で良いので、換金して使わせてもらえんかのう。そうすれば記憶見のマジックアイテムが買えるんじゃ。本来なら強力な重犯罪者にしか使われんマジックアイテムじゃが、これを使って一番隠したい過去を暴くような罠を設置すればお前さん方の好みの罠ができるんじゃないかのう」


「それは良いですね。是非作りましょう。そういったものがあるなら複数配置して、その場で暴くのではなく、外にその情報が流れるようにしたものも作りたいですね。上手く罠を解除したと思ったら、外に出たら隠したい過去が暴かれてるという感じです」


「性格の悪いコウと一緒にされるのは、正直不本意ですが、降りてきた階段のすぐ横にその下に降りる階段があって、ドアも二つある部屋を作るのです。ドアは一方通行でその階は迷路になっていて、出口はもう一方の扉で、散々歩き回った挙句、結局はそのまま降りてた方が早かった、というのはどうでしょうか」


「流石はユキだ、その案も採用だな。それだけじゃ弱いから、3回それを繰り返すとお宝が出ることにしよう。お宝を手に入れたパーティーは嬉しいだろうが、その他のパーティーは悔しがるはずだ」


「流石ですね、コウ……私はそこまで思いつきませんでした」


 三人寄れば文殊の知恵というが、一度方針が決まったら次々と面白い案が出てくる。最初の方は羊皮紙にマップを描いていたのだが、途中から面倒臭くなって、3Dマップを投影し意見を出していく。勿論幻覚魔法ということにしてある。どこまで信じているかは知らないが、とりあえずそれに対して何か言ってくる者がいなかったので良しとしよう。


「二人とも流石だよな。あたいはこの手のことはお手上げだぜ」


「わたくしだってそうですわ。そもそもわたくし達は主がリラックスするために存在するのであって、そもそも人が嫌がるようなことは思考できないようにできてますもの」


 サラとマリーが何か言っているようだが、気にしない。


「絶対壊せない部屋を一つだけ作って、その解放条件が全階層の全部屋踏破というのはどうだろう」


「それは名案じゃ、長くダンジョンを楽しめるじゃろう。ひゃっひゃっひゃ」


「ひねくれてばかりでは駄目じゃ。時には正当な手段で倒されるモンスターもいなくてはのう。冒険者とはとどのつまり強さよ。力があれば良いんじゃ」


 脳筋のアイデアも採用される。なにせ枠はいっぱいあるのだから。


 時には食事を食べながら、そして時には酒を飲みかわしながら考えたダンジョンは、自分が思ったよりも凶悪になっていく。だだし死にはしない。


「ここまでされたらわしゃ、自殺するぞい。その辺りはどう考えてるんかのう?」


「えっ? 普通に死なないように治療しますよ」


 首を切ろうが、心臓を止めようが、本当に一瞬で死ぬことはほぼ不可能だ。ならば治療特化のナノマシンレベルでどうにでもなる。本当に一瞬で死ねたら、素直にその者の技量を認めよう。


「そうか……まあ、ええわい。儂らは知恵を出すだけだしのう」


 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。なんだかんだで、100階層までのマップを作るのに2ヶ月を擁してしまった。だが、それにふさわしいダンジョンができたと思う。


 のちの世に数多の高レベルの冒険者を育てたとしてこのダンジョンは有名になった。但しその高レベルの冒険者は皆どこかひねくれていたという。

 そのダンジョンは「トラウマの穴」と呼ばれるようになった。


後書き

 最後の言葉が言いたかっただけじゃないかと思った方、その通りです。すみません。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る