第197話 アムネア
「結局、あの召喚というか変身か。あれはなんだったんだ?」
オーロラがオークを召喚したのはテストの時に見たが、少なくともあれとは違うようだ。
「分かりやすく言えば、意志を持ったマナの塊に身体を乗っ取られたという感じでしょうか。空間のゆがみも何も観測できませんでしたので、少なくとも異世界とは何の関係もありません」
ユキの答えにコウは少しがっかりする。あまり期待はしていなかったとはいえ、全く手掛かりにもならないと分かると、気落ちはするものだ。
「意志を持ったマナか。悪魔の穴の中にいた極端にマナ密度の高い生物と関係があるのかね?」
「なんらかの関わり合いがある可能性は高いと思われます。そもそもこれほど濃密なマナをアイテムに閉じ込めて使う技術を、人間及びドワーフは持っていません。マナを扱う能力の高い魔族とエルフは持っているようですので、高濃度のマナを操っている例の生物も持っている可能性が高いですし、元々その生物が持っていた技術が流出した可能性もあります」
空間をゆがめるブラックホールを、例の生物は自分の知らない技術で封じ込めているのだ。やはり多少危険を冒してでも解放する必要があるな、とコウは考える。
「そう言えば、戦闘力を聞いてなかったな。ツテンタードと名乗った後の戦闘力は幾つだったんだ?」
「0.08~0.1でした。ヴァンパイアロードほどではありませんが、ブラックドラゴンやリッチロードより上でした。今まで会ったAランクの冒険者が0.01~0.015の範囲内ですから、それと比較しても高い戦闘能力ですね」
「道理で自信たっぷりだったはずだな。我々が会ったのはAランクでも強い方の部類に入る人達だろうからな。Aランクになったばかりの我々なら勝てると思ったわけだ」
しかも自分達のマナ保有量は少ない。相手がもし自分達のマナを感知できたとしたら、なめてかかられても仕方がない。
「でも結構愉快な奴らだったよな。あたいはああいった奴は嫌いじゃないぜ」
「それはサラと同類だからじゃありませんの?」
サラの言葉にマリーが反応する。
「じゃあ、マリーは嫌いなのかよ」
「そうですわね。憎めないけれども、苦手なタイプではありますわね」
「それって、要するにあたいのことは苦手ってことか?」
「そうとも言えますわね」
マリーは苦手だと言っているが、なんだかんだと楽しそうだ。本心ではないのだろう。
「それはそれとして、教団に対してどう行動されますか?」
「肝心の召喚が異世界とは関係なかったから、大分興味は薄れたが、人間が作れないマジックアイテムをどうやって手に入れたかが気にはなるな。ただ、犯罪は起こしているものの、教団としてやっているかどうかが微妙というのがネックだな。ニルナの街みたいに個人的な行動という可能性もあるし。強引に侵入する気に今一なれないな。どうせなら誘拐された人とかがいれば話は別なんだが……」
「私達は刺客に襲われましたよ」
「それはそうなんだが……」
襲ってきた相手が愉快だっただけに、なんかコントを見せられただけのような気がする。反撃する気力をそいだという意味では、強力な刺客だったといえる。なにせ攻撃する気が失せてしまったのだから。
「うん。こういった時は、先ず飯を食いながら考えるべきだな。酒も入ればいい知恵も浮かぶかもしれない」
人はそれを現実逃避という。だがいつものことかとAI達は誰も突っ込まなかった。
その頃の教団本部では、また会議が開かれていた。円卓を囲む椅子の空きは2つになっている。
「先ほどクーゲンから連絡が入った。負けたそうだ……」
以前の会議でも進行役を務めた男が言う。
「クーゲンも口ほどにもないの。何が荒事は任せろじゃ。それでクーゲンは負けたというのに生きておるのか」
老人が忌々しそうにしわがれた声で言う。
「完敗だったそうだ。神より授かりし力をもってしても手も足も出なかったと言っていた」
「信じられませんね。クーゲンのことです。相手を舐めてかかり、馬鹿正直に正面から挑んで罠にはまったのでは?」
いくら強力な者とて、罠にはめれば簡単に倒せることもある。発言した者はそう考えていた。
「仮に罠にはまったとしても、簡単に敗れるとは考えにくい。それにクーゲンは相手も真正面から戦いをいどんできたと言っていた」
「それは責任逃れでそう言っているだけではないのか。それで肝心のクーゲンはどうしたのだ」
老人がそう問いかける。
「暫く武者修行の旅に出るそうだ……。いずれにせよ我々が考えていたよりあのパーティーは厄介なようだ。アムネア、情報収集を頼めるか?」
「分かったわ」
艶めかしい声で、そう答えた女性は、ローブを着ていても胸が膨らんでいるのが分かる人物だ。
アムネアが了承の返事をすると最初に発言した男が、今回の会議の終わりを告げた。
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