第178話 救世主?
回収に向かうとして、そのためには一度艦に戻らなけらばならない。無論、自動で回収に向かわせることも可能だが、何が起きるか分からないこの世界で、艦艇だけで行かせるのも不安だったし、たった3隻とは言え、別々に行動するより纏まって行動した方が良い、との考えがあったためだ。
惑星上からそれぞれの艦に戻る。アバターを収納するカプセルに入ると、今度は逆に生身の身体の目が覚める。随分と長い間アバターとして行動していたので、全ての感覚が鈍く感じる。生身の身体の感覚を忘れないように、たまには戻った方が良いかもしれないな、とコウは考える。
久し振りに軍服に着替え、ブリッジへと向かう。きちんと身体は衰えないように管理されていたが、なんだかだるく感じる。今まで高性能のアバターで、ここまで長い間活動してきたことは無かったせいだろう。
ブリッジに入ると、そこにはきっちりとしたタイトスカート型の軍服を着たユキことユキカゼがいた。
「提督。お身体に異常はありませんか?」
身体に異常が無いことは、管理していたユキカゼには分かっていることなので、これはちょっとした挨拶のようなものだ。
「そうだな。なんだか少し心もとないという感じがするがね。それにその呼び名で呼ばれるのも懐かしい感じがするな」
軍艦の本体を動かす以上、休暇中というのは通らない。それにコードネームで呼ぶような任務中というわけでもない。
「それでは、探査船の回収のため、第1α星系より、第223β星系に向かいます。なお、本艦及びサラトガ、マリーローズ、両艦とも戦闘時のダメージは修理済みです」
ブリッジの指揮官席に座ると、パネルが開き、サラトガとマリーローズの顔が映し出される。
「艦の状態はオールグリーン。じゃあ提督、この状態で直接指揮を受けるのは初めてだけど、よろしく頼むぜ」
「私もよろしくお願いいたしますわ」
二人が改めて挨拶をしてくる。こうして軍服姿の二人を見るのは、この世界に飛ばされて最初に会って以来だ。なんだか新鮮に感じる。
「たかが、3隻の集団だがね。しかし、星系の名前が番号だけというのも味気ないな。何か名前を考えるか」
暫くはやっかいになる星系だ。この世界に飛ばされた時に一番近かったからと言って、第1α星系という名前では味気なさすぎるように思えた。
「こういう場合は発見者の名前か、それに関係する名前を付けることが多いらしいですよ。この場合は提督になりますが。若しくは神話上の神や英雄の名前でしょうか。ただそれらは殆どはもう使用されているため、混乱を避けるためには番号を振るか何かしないといけませんね」
「自分の名前を付けるのは遠慮しておこう。神様の名前で良いだろう。最初だからこの世界の主神の名前がいいかな。この星系をクムギグゼ、探査ユニットがある星系がクイサニアだな」
「承知いたしました。それでは、その名前で登録します」
名前を付けると、なんとなく余計に愛着がわいてくる。不思議なものだ。
「亜空間レーダーによる探査完了。クイサニア星系における知的生命体の活動観測できず」
「ワープ航路確立。障害物無し。システムオールグリーン」
オペレータによる報告が上がってくる。これも久し振りの感覚だ。
「ワープ」
イワモリの命令と共に、3隻はクイサニア星系に向かってワープをした。
「ワープアウト。システムチェック、オールグリーン」
「船体チェックオールグリーン」
一瞬でクイサニア星系に着き、次々にオペレータより異常なしの報告が上がってくる。クイサニア星系は偶然にもクムギグゼ星系と瓜二つだった。夫婦神の名前を付けたのは偶然だったが、なかなか悪くはなかったなと我ながら思う。
探査ユニットは、この星系の第4惑星の軌道上付近にあった。
「通常ドライブで6分ほどで探査ユニットを回収できます。なお、観測したところ第3惑星においてテラフォーミング無しで居住可能。第4惑星において、本艦の設備によるテラフォーミングでも、1000年以内に居住可能になるとの結果が得られました。但し、クムギグゼ星系第3惑星とは、直径で1.27倍こちらの方が大きいです。また、大気中の水分保有量の少なさから、こちらの惑星の方が全体的に寒冷です。海の面積割合もこちらの惑星の方が少ないですね。但し、地軸の傾きが大きいため、水面積率は変動が大きいようです。知的生命体の痕跡は見られませんが、赤道付近は地球の2億~3億年前と同じような生態系が見られます。近づいて詳しい調査をなさいますか?」
「いや、まだクムギグゼ星系の探索が終わったわけではないからな。直接探索は控えておこう。一応念のために亜空間通信を備えた大型探索ユニットを周回させて探索させておくか。知的生命体の活動が見られないのなら、暫くはそれで十分だろう」
昔の地球に似た惑星というのには少し興味があるが、それでも知的生命体がいる惑星ほどの魅力は感じない。イワモリは敵艦が周囲にいないことを確認した後に、紅茶を頼む。
ユキカゼが持ってきた紅茶は、香りが薄い。嗅覚の感度が低いせいもあるだろうが、それ以前の問題のような気がする。飲んでみると味も薄い上に変な苦みがある。
「探査ユニット、回収完了いたしました」
クムギグゼ星系第3惑星で飲んでいたものに比べたら、色のついた変な水にしか思えなかった、紅茶のようなものを飲み終えると、ユキカゼから報告が入る。
「暫く観測されるのでしたら報告が。約12年後に直径約22㎞の小惑星が第3惑星に衝突します。99%以上の生物が滅ぶと思われます。どうしますか?」
「それは仕方がない。自然の摂理という奴だしな。進化を促すこともあるというし、全滅しないんだったら運が良い方じゃないか」
宇宙ではありふれた出来事の一つだ。気にするほどのことでもない。だが、そこまで言って、イワモリはふと、クムギグゼ星系の方が気になる。
「クムギグゼ星系の方はどうだ?」
「約73年後に直径約245㎞の小惑星が衝突しますね。地中3000m以上にいる微生物以外の生物は全滅します。勿論何かの魔法によって防ぐことができる可能性もあります。こちらも自然の摂理に任せますか?」
本来なら気にしなかっただろうが、あそこの環境が失われるのは惜しい。あそこの食事をする前だったら、なんとも思わなかったろうが。
「いや、それは破壊しよう。念のため、4万年以内に衝突する可能性のある直径50m以上の小惑星及び隕石類はすべて破壊する。それより後のものは進歩した住人がなんとかするだろう」
クムギグゼ星系第3惑星の住人が誰も気づかないところで、世界の危機は取り除かれたのであった。それも、愛にあふれた神でもなく、正義感にかられた勇者でもなく、ただ単に一人の人間の気まぐれによって……。
後書き
地球ももしかしたら自分達の知らないところで……。
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