第171話 キノコ鍋

 早速次の日からカシェリュットに案内で森の中に入る。と言っても王都自体が森の中にある感じなので風景が余り変わるわけではない。

 カシェリュットの案内の下、次々にフルーツや、キノコを採っていく。エルフは耕作をすることは無く、穀物は外国からの輸入のみだそうだ、一応そういうものや、一部の生活用品のために、フルーツワインやフルーツその者の交易はやっているが、キノコは人気がないらしい。


「ああ、あそこにあるキノコも採って良いですよ」


 カシェリュットが指さした先に綺麗なピンク色をしたキノコがある。ここで採取したものの中には青や緑、赤など色とりどりのキノコが多い。今まで食べたキノコは通常茶色、若しくは白というのが多かったため、正に特産品という感じがする。ただ、フルーツはたまに虫食いや鳥のつついた跡があるのだが、採ったキノコの形はどれもきれいで虫食いの跡もない。

 最初は偶然か若しくはカシェリュットが、そういうキノコをわざわざ探してくれているのかと思ったがどうも違うようだ。しかも、前に魔の森で毒キノコ、と言われていたものが結構な割合含まれている。


「あの、ここのキノコは随分とカラフルなものが多いですが、ここの森の特産なんですかね。他の森では毒キノコと言われているものも混じっているようですが……」


 自分たちを騙している風な様子はないが、少し不安になったので聞いてみる。


「よその森のことは知りませんが、ここの森でもキノコ鍋に入れるのは殆どが毒キノコですよ。焼いて食べるキノコは毒が無い物が多いですが。オークの肉の味がする、オーク茸がその毒の無いキノコの代表ですね」


 なんとやはり毒キノコだったようだ。


「ええっと。エルフの皆さんは、毒キノコを食べても平気なのですか?」


 自分たちは毒など効かないが、エルフも耐性か何かあるのだろうか。


「いえ、自分達もキノコのみ食べた時は、毒に中(あた)ってしまいますよ。キノコ鍋には毒消し草を数種類入れるのです」


「なぜわざわざそこまでして、毒キノコを食べるのですか?」


 不思議に思って、更に尋ねる。


「キノコ鍋とはそういうものと思っていましたので、私としては特に不思議に思わなかったのですが……。そうですね、強いて言えば森の中に沢山あるからでしょうか」


 カシェリュットが暫く考えて、そう答える。本当に何の疑問も持っていなかったようだ。ただ、幾ら自分たちに毒は効かないと言っても、なんとなく食欲が失せてくる。


「なんと言いますか、自分達はそんな食べ方をしたことが無いので、料理の仕方を教えていただいて良いですか?」


 基本的に自分たちで料理をすることは無いのだが、これは材料だけ持っていって、ショガンやロブに料理を頼んでも、怒られると思われたため、料理方法を教わることにする。

 なんとなくテンションは下がったが、それでも未知なる味は試してみたい。不味かったら、キノコはもう採らないことにして、フルーツ狩りに専念しよう。今まで採った分ぐらいは何かに使い道があるかも知れないので、残しておいても良い。


「良いですよ。そんなに難しいものではありませんし。皆家庭で作っているものですからね。その代わり私の家の作り方という形になりますが。基本さえ押さえておけば、後は皆さんでアレンジされると良いでしょう。各家庭で、味が異なるのもキノコ鍋の魅力の一つです」


 本当に家庭料理のようだ。その分技術とかは余り要らないものなのだろう。適当なところで採取を切り上げ、キノコ鍋の用意をする。


「一応、今回は火を使いますが、私達の家庭では、魔法か、加熱できるマジックアイテムの鍋を使って作ることが多いです。樹上にある家が多いため、火は使えませんから」


 確かにその通りだ。加熱できるマジックアイテムの鍋は魅力的だ。使う機会も少ないだろうし、そもそも売っているものかどうかも分からないが、まあなんとかなるだろうと、この国での購入品リストに入れる。


 薪になるような乾いた枝木を集め、鍋の用意をする。自分達で夕食の調理をするのは久し振りだ。しかも鍋料理とは最初の冒険の時以来じゃなかろうか。


「作り方は基本的に煮立ったら、キノコと毒消し草を入れるだけです。ただ順番的に毒消し草の方を先に入れてください。後に入れるとキノコの毒が残る場合がありますから。キノコ鍋で気を付けるのはそれぐらいですかね。後は、キノコに火が通るまで煮るというのもありますが、それはどの料理でもそうでしょうし。

 それと私の家庭では毒消し草と一緒に、塩の利いた干し肉を入れますが、家庭によっては、骨付き肉や、骨だけ入れる場合もありますね。それは、皆さんでアレンジされたら良いと思います。Aランクの冒険者の方でしたら、私が知らない食材とかも知っているでしょうし」


 そう言って、カシェリュットは毒消し草を数種類と干し肉を入れる。暫くすると毒消し草の成分が溶け出したのか、鍋の中が深い緑色の液体になってくる。鍋からいかにも薬っぽい、食欲のわかない匂いがしてくる。

 それから今日採ったカラフルなキノコを適当な大きさにナイフで切り、次々に入れていきかき混ぜていく、鍋の中の液体が段々透明になり、薄い緑になった段階でキノコを入れるのを止める。先ほどの薬っぽい匂いは無くなり、代わりに爽やかな匂いが漂ってくる。


「ああ、もう一つ注意点がありましたね。完全に透明になるまでキノコを入れてはいけません。まあ、その辺りの塩梅は慣れでしょうけど。もし完全に透明になったら、毒消しの効果が無くなったということですから、追加で毒消し草を入れてください。ただ、毒消し草を入れすぎると苦みが残りますので、そこはご注意ください。人によってはそれが良いと言う方もいらっしゃいますけど」


 カシェリュットは話しながらもゆっくりと、鍋を混ぜていく。やがて全てのキノコに火が通ると、鍋の中の液体は、僅かに緑がかった透明なものになり、液体ではなく汁と呼ぶにふさわしいものとなる。このあたりの塩梅が重要なのだろう。美味しくなかったら試してみるつもりもないが。

 カシェリュットが木椀によそってくれたキノコを口に入れる。毒は効かないといっても少しドキドキする。


「美味いですねこれ。ものすごく出汁の利いた鍋物みたいです。汁そのものに甘みがありますし、キノコそれぞれに違った味わいがありますね」


 意外とというか、素直に美味しかった。確かに素朴な味ではあるのだが、それはそれで良いし、作り方が簡単なので、自分達でアレンジできそうなのも良い。高ランクのモンスターの骨とかを入れたらかなり美味しいんじゃないだろうか。今まで肉しか目に入らなかったのが悔やまれる。


「そうですね。味は比較的鍋にしては濃いめですけど、後味はあっさりしていますね」


「食感も、キノコごとに違っていて飽きないよな」


「それに、ヘルシーって感じがしますわ」


 他の3人とも気に入ったようだ。まあ、アンドロイドでヘルシーってどんな感じだよ、と一瞬思ったが、言いたいことは分かるので無視する。


(一応聞いておくが、毒は完全になくなっているんだよな)


 念のためユキに思考通信で尋ねる。


(はい、大丈夫です。正確に言えば毒の成分は若干残っていますが、普通の人間でも致死量には遠く及ばないレベルです。臨床試験をしたわけではないので、確実ではありませんが、寧ろ薬になるぐらいかと思われます)


 薬も過ぎれば毒となるということわざがあるが、それの逆ということだろう。


(ただし、原始的な薬効成分ですので、若干の副作用があります。私達には関係ないでしょうが、中毒性のある成分と生殖能力を減退させる成分が検出されました。それと副作用とは言えないかもしれませんが、鎮静作用を及ぼす成分も検出されました。毎日食べるのでなければ問題無いでしょうが……)


 ドワーフはアル中で、エルフは薬中かよ。人間が生存競争に勝つのは時間の問題だな、とコウは思った。



後書き

 エルフファンの方、申し訳ありません。

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