第141話 聖剣
つくづくあのヴァンパイアロードに使った剣を構えてなくてよかったと思う。あの時と同じく何も聞けずにゴーストが消えていたら、聖剣なんてわからなかった。
「感謝する人間よ。だが、こちらから話を持ちか掛けておいて申し訳ないとは思うが、聖剣を持ち出すのは容易ではない。聖剣は選ばれし者にしか抜けぬ台座に封印されている。無論、台座ごと動かせば運ぶことは可能だが、台座は強固でとてつもない重さだ。わしと兵士は何とかこの地が水没する時に持ち出そうとしたが、少しも動かすことはできなかった。もし、無理ならば他の者を呼んで、何としても聖剣を外へ持ち出してほしい」
ゴーストは必死な様子で嘆願してくる。もしかして、水没するまで運び出そうとして、死んでしまったのだろうか。
(コウ、余りにも相手の言葉を鵜吞みにしては危険です。この城のマップを作成しましたが、そのような物はどこにもありません)
自分がさっさと話を進めていたため、ユキから注意が入る。確かにちょっと浮かれていたかもしれない。
(そうだな。では、ゴーストが座っている椅子の下か、後ろの壁に下に続く階段があったら、ゴーストの言う事を信じよう。違ったら、一旦別の所を調べてみよう)
(なんでしょうか、その基準は?)
(我が家のご先祖様からの言い伝えだな。ともかく大事なものはそんなところに隠してあるらしい)
ユキと思考通信のやり取りをした後、ゴーストに向かってコウは答える。
「分かりました。それでは案内をお願いします」
「感謝する。人間よ」
そう言うと、ゴーストの座っている椅子が横にずれ、椅子の下から下に行く階段が現れる。
(おお!古き言い伝えは真であった!)
(え!コウはいつの間に言い伝えなんか調べてたんだ)
コウが突然変な通信をしたので、サラが驚いて返信してくる。
(いや、調べてないが、遠いご先祖様が死ぬまでに、言いたかったセリフだそうだから、言ってみただけだな)
(ナノマシンでも、センサーでも見つかりませんでしたのに……。コウのご先祖様は何者だったんですか?)
ユキが呆れているとも、感心しているともとれる不思議な感覚で通信してくる。
(さあ?伝説の勇者ああああ、とか?まあ、自分の先祖なんてどうでも良いじゃないか、ともかくついていこう)
階段をゆらりと降り始めたゴーストにコウ達はついていく。通路には等間隔で水中にも拘らず、燃えているように見える松明がある。おそらく何かの魔法なのだろう。水中であることを抜きにしても100年も前の松明が残っているはずがない。
結構長い階段を進み、30m程降りたところで広い空間に出る。広さは1辺が60m、高さは12mある。偶然かどうかわからないが、ここも3の倍数である。
ちょうど真ん中に上が1辺30㎝の正方形、下が1辺120㎝の正方形、高さが60㎝の台座があり、聖剣と思われる100年も水の中にあったとは思えないくらい汚れの無い剣が突き刺さっていた。その周りには鎧に身を包んだ兵士やゴーストと同じ格好の白骨死体が転がっている。
「情けないことに、持ち出そうとしたが持ち出すことはできなかった。わしの意地のせいで最も勇敢な兵士も死なせてしまった。情けない話だ」
ゴーストはそう言って首を垂れる。こうやって100年もこの世にとどまっているのだ、相当無念だったのだろう。
しかし、聖剣が抜けないにしても、台座だけなら見た感じ1t程度だろう、死体を見るに兵士は20人いるし、持ち運ぶ道具も揃えていたようだ。人間より力のある、更には鍛えた近衛兵が20人がかりで持てない重さとは思えなかった。自分たちの様に圧縮技術があったのだろうかそれとも魔法か何かだろうか。ともかくユキに調べてもらう。
(材質は剣がオリハルコン製、台座は結晶質石灰岩です。聖剣は今まで見たどのマジックアイテムよりもマナを内包してますね。強固に台座と結びついているようです。台座は一見床の上に置いてあるようですが、床の石と融合しているようです。
切り離せば簡単に持っていけますが、封印の魔法がよく分からないため、床ごと一旦引き抜いて持っていった方が無難と思います。床は台座が置かれてる部分だけタイルではなく1辺120㎝、高さ600㎝の正四角柱が埋め込まれてますね。推定重量は25t程です。
ただ、私たちが作成した武器と比較すると密度、推定強度、マナの内包量とも比べ物になりません。単純にオリハルコンの強度から算出すると、聖剣をもって床を引き抜く場合、垂直に引き抜かない限り、聖剣が破損する恐れがあります。引き抜くときは念のため床をもって引き抜いた方がよろしいと思います)
(分かった、サラ引き抜いてくれ)
別に誰に頼んでも良いのだが、何となくこういうのはサラの役目のような感じがする。サラも特に文句を言わず、台座の横の床を少し砕き隙間を作ると、力を入れ引き抜いていく。多少持ちにくそうだが、問題なく引き抜ける。床自体には何か魔法が掛かっていたわけではないらしい。全部引き上げるとサラは自分の亜空間ボックスの中に引き抜いたものを入れる。
ふと横を見ると、ゴーストの口がこれ以上ないと言うぐらい開いている。いや、不定形のゴーストの口はもっと大きかったことがあるので、これぐらいは普通かもしれない。
「……」
ゴーストが固まっている。
「あの、このまま持ち運べばいいんですよね」
実体がないので、肩をゆするわけにもいかず、コウは出来るだけ口の中で大きな声を出して尋ねる。
「う、うむ。そうじゃ。100年前にそなたらがいたらと思うが、それはいまさらの事だ。これで我が心残りは消えた。約束とおり城の財宝はすべて持っていくがよい」
ゴーストは晴れやかな表情を浮かべると段々と薄くなっていく。コウは慌てて尋ねる。
「ちょっと待ってください。この聖剣はなんなんですか」
「この聖剣は遥か2000年前、今では魔の森になってしまった、アラオール王国を滅ぼしたレッドドラゴンを倒すために、アラオール王国の生き残りの人間が100年かけて材料を集め、我が先祖が100年かけて鍛え上げ、エルフが100年かけて魔法を込めて造り上げた物じゃ。レッドドラゴンは滅んではいない。必ずや再び災厄をもたらすだろう。その時のためになんとしても守るよう国王陛下に伝えてほしい。頼んだぞ……」
そう言ってゴーストは満足そうに微笑みながら消えていった。
(魔の森のレッドドラゴンってもしかして……)
(しっ、余計な茶々を入れない。素直に感動して王様に届ける。分かったね)
そうコウは告げると居心地が悪くなってしまった部屋を後にした。
後書き
超強い聖剣なんですよ。人類の最終兵器的な。
後、表現で国王と王様が混じってますが、一応誤字ではなく、正式に言いたい時や、自分達とは切り離して考えてる時が国王、親しみを感じてる時や逆に馬鹿にして感情的になってる時が王様と言う風に分けてるつもりです。途中間違っている箇所もあるかもしれませんが、大体そんな感じと考えていただければともいます。
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