第125話 ジクスよ私は帰ってきた!

 ジクスに着くと、王都ほどではないにしろ、住民が皆浮かれていた。屋台の数もいつもより多い。まだ、日も沈んでいないというのに、既に出来上がった人間を何人も見かける。


「まだ日暮れまでは時間があるし、冒険者ギルドに行って、一応帰ってきたことだけ伝えるか」


 これが他の街だったら先ず宿を探す時間だが、ジクスではその必要がない。金があることは良いことだと、こういう時につくづく思う。金ですべては買えないが、多くのものを買う事が出来る。今で言うと、宿を探す時間を金で買ったことになる。

 

 冒険者ギルドの中に入ると、今日も元気よくレアナが声を掛けてくる。


「お久し振りです。今回の依頼はいつになく長かったですね。ギルドマスターをお呼びしますか?」


「いや、今日は遠慮しとくよ。流石にちょっとゆっくりしたいしね。帰ってきたことだけ伝えてもらえるかな。帰ってきたら直ぐにギルドマスターの所に呼ぶように、言われてるわけじゃないんだろう?」


「そうですね。承知いたしました。長旅でしたものね。もう知っているとは思いますけど、コウさん達が依頼に行ってる間、戦争が起きて、リューミナ王国が大勝利を収めたんです。もう1週間ぐらい町中大騒ぎですよ。冒険者の方も昼間から飲んでる方も多くて……。おかげで受付は暇ですけど……」


 見れば、ここの酒場も満杯で、酔っぱらって、壁の隅に転がされている者もいる。心なしかギルドの職員も少ない気がする。


「まあ、なんと言うか。お疲れ様。明日また顔を出すから」


 そう言って、コウはギルドを後にする。いくら楽と言っても、目の前で酒を飲まれながら仕事をするのは精神的に疲れるものだ。それが酒場の店員だったら仕事と割り切れるのだろうが、レアナはそうではない。コウはレアナに同情する。



「お帰りなさいませ。お久し振りです。今回も随分と長い時間空けられてましたね。もしかして南に行ってらしたんですか?」


 宿へ戻るとセラスが挨拶してくる。やはり町で話題になっているのは戦争の事なのだろう。


「いや、逆の北の方だね。指名依頼があってそちらの方に行かなければならなかったんだ」


「そうなんですか。コウさん達でしたら、戦争で大活躍できたかもしれませんのに、残念でしたね」


「まあ、そこまで残念ではないよ」


 セラスの言葉にそうコウは答える。この世界の人間にとって、戦争で一旗揚げるというのは出世物語なんだろう。いや、この世界に限らない。元の世界にもそういうものは沢山いた。若かりし頃の自分もその一人だ。

 だが今は、モンスターの討伐ならともかく、戦争での活躍など興味がない。ましてや、自国の戦争でもないので、進んで関わろうとも思わない。

 セラスは少し自分の反応に不思議そうにしていたが、それ以上聞くこともなく直ぐに部屋の鍵を取り出し渡してくれた。


 部屋に入ると、いつものように部屋着に着替え、真っ先にサラがソファーに座る。


「なんか、この部屋に来ると帰ってきたという気分になるよな。別に他の宿と大して変わらない設備なのになんでだろう」


「人間で言うと条件反射という奴だな。途中の宿は依頼の間に泊まってるが、ここは依頼が終わってから泊まっているだろう。何回も繰り返すとそういう気分になるんだが、君達にもそういう機能があるとは知らなかったな」


「そんな機能、通常はありませんよ。根幹に関わるような所は、普通プロテクトが掛けられていて、書き変わらないようになってますから。まあ、それも私達は解除されてますけど。多分コウはお忘れだと思いますが、最初私を作成する時にそういうプロテクトも、外せる部分は全部外したでしょう。民間はともかく軍のAIでこういう条件反射のような感情を持ったのは私達が初めてでしょうね」


 ユキがコウの疑問に答える。そう言えば、とりあえず全部外せるものは外しておいて、問題があったらプロテクトを掛けようと思っていたのだった。


「そう言えばそうだったな。まあ、今まで問題がなかったんだし、気にしなくてもいいんじゃないか」


 プロテクトを外したと言っても、違法な方法で外したわけではない。表面的な部分ではないようだし、今更プロテクトを掛けて3人の性格が変わるのは嫌だった。


「ところで明日、依頼完了の報告をしたらどうする?Aランクになるんだよな。Aランクの依頼ってどんなのがあるんだろう。高ランクのモンスター討伐なら何回行っても大歓迎だけど、そうそう高ランクのモンスターの討伐依頼なんてあるのかな?」


 サラの心配ももっともだ。Aランクの依頼というのは少ない。フモウルのように魔の森が近ければ話は別なのだろうが、ジクスはそうではない。ただ、以前見た感じだと他の支部で手に負えない、と判断された依頼も貼ってあったので、そこまで心配することはないだろう。常に依頼を受けとかなければいけないような財政状況でもない。


「まあ、その心配はもっともだが、他の支部のものもボードに貼ってあったし、大丈夫だと思う。自分としては依頼の内容と言うより、そろそろ東の方に行ってみたいね」


 北と南には行ったし、船旅ではあるが、西にも行った。後リューミナ王国で行っていないのは東の方である。まあ、正確に言えば新しくリューミナ王国に吸収された、元ヴィレッツァ王国の領土にも行っていないが、そこはしばらく行く気がない。


「そういやそうだなあ。馬も買ったから移動も早くなったし、良いかもな。ちなみにもうすぐ1年だけど拠点は変えるのかい?」


「いや、ここは陸路も水路も発達していて便利だし、特に変える必要もないかな、と思っているよ。それに国が豊かで、食事に困らないのも良い。直ぐ近くには王都もあるしね」


 いくら金があったとしても、ヴィレッツァ王国のようなところで、周りを気にせずに飲み食いできるほど神経は図太くない。


「ああ、まあ確かに」


 サラも同じ思いだったのか、そう言って頷く。


「また指名依頼とかで、何かやらされるという可能性はありませんの?」


 今度はマリーが聞いてくる。


「その可能性は低いな。今は忙しくて自分たちに関わるような暇はないだろう。自分達を利用しようと考えても、基本それは戦力と補給力だ。どちらも今のリューミナ王国には必要ない。どちらかと言うなら戦勝記念の恩赦とかで、今受けてる制限を無くす可能性の方が高いかな。どの道もうすぐ無くなるんだし。

 ま、明日になればわかる事さ。それより飯を食いに行こう」


 そう言うと、コウは3人を連れ立って、夕食を食べに向かった。

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