第123話 お祭り騒ぎ

 リューミナ王国の王都エシャンハシルへと着く。街にはリューミナ王国の旗があちこちに掲げられ、大道芸があちこちで行われている。大通りや広場だけでなく、ちょっと広い通りには屋台が出ている。流石に凱旋パレードはまだ先のはずだが、それでも街の中に浮ついた気分が蔓延している。いわゆる祭りの空気という奴である。

 道行く人も多いが、商機を逃がすまいとしている商人が多いのか、荷馬車もよく行き交っている。宿が取れるかどうか心配になる。


 とりあえず、以前泊まった“静寂の泉亭”へと向かう。他の宿に泊まっても良いのだが、毎回恰好で驚かれるのが面倒くさい。もっと高級な宿だとそういう事もないのかもしれないが、残念ながらまだAランクにはなっていない。


「いらっしゃいませ。あっ、“幸運の羽”の皆さんですね。今回も当館をご利用いただきありがとうございます」


 前回と同じ受付の女性が挨拶をしてくる。雰囲気から部屋は空いているようだ。しかし自分たちも一目で分かるくらい有名になったんだろうか。前回の王都での行動を思い出してみると、ならない方がおかしいな、と思い受付の女性の言葉に納得する。


「部屋は空いているだろうか、前回と同じ部屋を2泊取りたいんだが」


「はい、大丈夫ですよ。と言っても、実は最後の1部屋だったんですが。この宿が満室になるなんて、正直私がここで働き始めてから初めてですよ」


 金額は前と同じく1泊20銀貨だった。ただ、流石に凱旋パレードの時は値上げするらしい。他の宿との兼ね合いもあるのだろう。


 部屋に入ると、普段着に着替え、ソファーに座る。


「さてと、どうするかな。大道芸を見て、屋台を巡るだけでも2日ぐらいは潰れそうだが」


「私はそれで構いません。ざっと見る限りでもかなりの数の屋台がありましたし、中には美味しい店もあるでしょう」


「え?それって、美味しくない店が多いって事?」


 ユキの言葉にサラが反応する。


「まあ、こういう時の店のお客は基本的に一見様ですから、短期間で儲けることを優先する店がどうしても多くなりますね。それでも、大抵は軍用レーションより美味しいと思いますよ。後は偽物に注意するぐらいでしょうか。お土産物で偽物を扱う事はよくあることですね。まあ、コウに言わせればそれも祭りの醍醐味だそうですけど」


 軍用レーションと比べるのもどうかと思うが、まあユキの言う通り、大抵の店はそれより美味しいだろう。と言うよりあれより不味いものを出す店があったら、この世界の住人に殴り殺されるに違いない。それとも、逆に珍味として扱われたりするのだろうか。レッドオーガの肉の扱いを見る限り無いとは言えない。もっともレッドオーガの肉も軍用レーションと比べたら美味しいものだが。

 それに単なる偽物だったらともかく、こういうところでしか手に入らない、変な偽物というものがあるのだ、例えば、孫の手と耳かきと精密ドライバーが一緒になってるものだったり、色々なところに隠しポケットがあるブランドバッグだったり……。珍しいから買ってはみたものの、大抵は直ぐに壊れてしまった。恐ろしく安い素材で作られていたのだろう。ある意味貴重な物である。


「ふーん。そういうものなのか」


 サラが何となく感心したように言う。実際体験した事がないからであろう。


「そういうものだな。まあ、元の世界と違って金の心配はないから、好きなものを好きなだけ買って良いぞ。常識の範囲内だが。流石に店ごと買うとかはやめてくれ。後、輪投げとか射的もあるだろうが、それも本気でやるのは止めておいてくれ」


「いや、いくらあたいでもしないよ!」


 サラが反論するが、こういうことに関するサラとマリーの信用度は低い。特にマリーなんか、輪投げで商品が酒だったら根こそぎ取っていきそうだ。


「ま、そろそろ出かけるか。ちなみに今から成分分析などの行為は禁止だぞ。射的なんかは照準に乱数を組み込んでくれ」


 コウはそう言って、みんなを連れて外へと出かける。最初に行くのは中央広場だ。前回も屋台が並んでいたが、今回は壁際以外にも屋台が並んでいる。結構広かった中央広場だが、人と屋台とでいっぱいになっていた。

 一応の決まりはあるらしく、屋台は中央の噴水から同心円状に並んでいるので、ぐるぐると円を描くように見ていけば全部見る事が出来る。


「そこの綺麗なおねーさん。どうだいこのネックレスやブレスレット。お兄さんもここで男を見せてみなよ」


 呼び込みにつられて女性陣が装飾品の屋台へといき、手に手に装飾品を見ている。ユキはエメラルドのブローチ、サラは銀のネックレス、そしてマリーは店の中でも一番豪華な色々な宝石の付いた金の髪飾りを選ぶ。


「お嬢さん方お目が高い。それはこの店でも飛び切りの掘り出し物だ。美人さんだからおまけして3つで10銀貨どうだい。お兄さんもここが踏ん張りどころだよ」


 元の世界ならぜったい買わなかっただろうが、コウは値切りもせず10銀貨を出す。値切りも面白いが、こういうのもやってみたかったのだ。


 次は適当に屋台の食べ物を買っていく。


「これは、粉焼きですの?これはこれで美味しいですけど、表に出してあった具材がほとんど入っていませんわ」


 どうやら、マリーが当たりを引いたようである。


「やったなマリー。当たりだ。中々他では味わえない祭りの醍醐味の一つだぞ」


 そう言ってコウはゲラゲラと笑う。


「あれ?木椀の底が異様に厚いぞ」


 サラも当たりを引いたようだ。


「まあ、上げ底という奴だな。懐かしいなあ。自分も見たのは100年以上前だな」


 これも珍しい。連邦に組み込まれたばかりの田舎の星系で体験した時が最後のはずだ。


 そういう自分はオーク肉の串焼きを買ったが、これはオーク肉ではない。だがタレが美味いので、合格点というところだろう。ユキは魚の塩焼きを食べている。今日は2人もイベントが初めての者が居るので冒険を避けたようだ。


 それなりに食べ歩きをしているとマリーが急に手を引っ張る。


「王宮御用達のワインですわ。挑戦したいですわ」


 そこには輪投げで、一番奥に王宮御用達のワインと書かれたものが置かれてある。


「まあ、10回までだぞ」


 マリーは真剣な表情で、輪を投げていく。照準に乱数が入っているのでマリーと言えどなかなか入らない。それでも執念か、最後の最後で輪をひっかける事が出来た。


「はいよ。おめでとうさん」


 店主からワインを貰うと、マリーは、はしゃいで飛び上がりそうだった。


「今日は、十分堪能しましたわ。早速宿に帰って飲みませんこと」


 1人で飲もうとしないあたり、中々感心である。ちょっとマリーを見直す。


 宿に帰って、早速ワインを開けて飲む。


「不味くはありませんけど……。これは本当に王宮御用達ですの?」


 微妙な顔をしてマリーが言う。


「まあ、王室ではないからね。王宮の庭師が飲んでいても、言い方を変えれば王宮御用達だろうさ」


 愉快そうにコウは言う。本当に上流階級が飲んでいる物など、露店で手に入る訳がない。


「おっ、でもこのアクセサリーはすごいぜ!金メッキに、銀メッキ、更に加工硝子だ」


 元の世界ではメッキは作るのに手間がかかり、更に剥げるので保存に手間が掛かるため、高級品だ。加工硝子もそうである。脆いものを如何に綺麗なまま使うかに価値があるのだ。だがこの世界では金銀、宝石その物の方が価値がある。


「まあ、それはそれぞれの亜空間ボックスの中にでも入れておいて、何かあった時は別のをつけるか、本物の金銀を使ったものにしなさい。この世界ではその方が価値があるからね」


 そう言ったコウの言葉に、サラは一瞬不思議そうな顔をするが、データでも参照したのか、直ぐに納得して収納した。



後書き

近況ノートにも書きましたが本日より更新頻度を変更し、基本毎日1話にいたします。これからもよろしくお願いします。

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