第117話 激闘?レッドドラゴン

「遂に発見しましたね」


 いつも冷静なユキの声色が、僅かだが興奮しているのが分かる。ドラゴンをついに見つけたのだ。しかも都合が良いことに、目的地の埋もれた都市の中にいた。


「もっと大量にいるものかと思っていたが、案外少なかったな。もっと奥地に行けば居るのかもしれないが」


 そうコウは答えるが、この世界の人間にとっては、曲がりなりにも人間が到達できる地域に、そうそう何匹もドラゴンがいてたまるか、と言われるだろう。


 そのドラゴンはドラゴンの中でも巨大と言うべき身体をしており、身体は炎のように赤い鱗で覆われていた。悪魔の化身、魔王、破壊の権化、力の象徴、様々な伝説と二つ名が伝えられるドラゴンの中でも、最強クラスであるレッドドラゴンである。

 今をさかのぼる事2000年前、ダンジョンからモンスターを溢れ出させ、そこにあった国を滅ぼしたのがこのドラゴンであった。その鱗は魔法、物理を問わず、いかなる攻撃も退け、その爪はいかなる鎧をも切り裂き、その口から放たれる炎はいかなるものも焼き尽くす。フラメイア大陸史上、最凶最悪のモンスター。生物の形をした生きた災害だった。

 今は魔の森と呼ばれるようになり、モンスターの巣窟となってしまったその国に、長くレッドドラゴンは留まっていた。別に一国を滅ぼしたことで、満足した訳ではなく、か弱き小さなもの達が増えるのを待っていたのだ。

 人間、エルフ、ドワーフ、魔族、多少の違いはあるにしても、このレッドドラゴンにしてみれば、か弱き小さなもの達にしか過ぎない。2000年の間に勇者と呼ばれる者が幾人も来たが、大抵はブレスの一息で灰になり、それを耐えた数少ない者も、爪で切り裂かれた。鱗に一筋でも傷を入れたものは5人に満たない。

 小さきもの達もだいぶ増えた、そろそろ暴れてもよいだろう、そう考えてこの遺跡に来ていた。自分が好きな金銀財宝が大量にこの遺跡に眠っていたというのもある。つい最近まで見逃していた。よほど強力な隠蔽の魔法が掛けられていたのであろう。2000年もの間、自分の目を逃れていたのだから。

 財宝は配下のモンスターに命じて遺跡の中にある広場に運び出している。もうすぐ運び終わるだろう。丁度その時こちらに来る4体の小さき者の気配を感じる。今まで戦ったことがあるどの勇者よりも魔力は感じられない。むしろ、配下の者で最も弱いものですら、この者たちよりは魔力が高い。だが、ただの人間にここまでくるのは無理だ。何か秘密があるのだろう。そう思いレッドドラゴンは、近づいてくる愚かな4体の人間の相手を、自らすることに決める。


「標的。位置、遺跡中心部より、外壁部に移動、現在停止中。距離1500m、種別名レッドドラゴン、戦闘能力0.8~1.3。他、遺跡中心部にオーガ、オーク多数。財宝を広場に運び出しているようです」


「コウどうするんだい?今回大きすぎてあたいの剣でも、首を落とせないぜ。まあ半分くらいは切れると思うけど。それで死ぬかな?」


「まあ普通のモンスターなら死ぬんだろうが、ドラゴンだしなあ。それでは死なないと考えた方が良いか。ロックワームの時のように内部から攻撃したら切り落とせるんじゃないか」


 コウがそう提案する。


「むやみに攻撃するより、成功率は高いと思われます。最悪そのまま内部から内臓の重要部分を攻撃し続ければ死ぬでしょう。最初のブレスは耐えて、首が伸びたところで突入するのが良いと思われます」


「最初のブレスはパーソナルシールドを各自張って防ぐように。いくらマリーの盾が大きいと言っても、全員はカバーできないからな」


「そこまでしなくとも、この世界ではせいぜい2千度という温度が認識の上限のようですし、コーティングで十分なのではありませんの?」


 マリーが自分の役目が蔑ろにされているような気分になったのか、不満をこぼす。


「念のためだ、仮にも伝説になるようなモンスターだ。まあ礼儀としても、あまり手を抜きすぎるのはためらわれるからな」


 コウはそう言ってマリーを宥める。ユキの戦力分析が正しければ、そこまで用心が必要な敵でもない。だが、コウの勘が用心すべきと告げていた。


「では、標的がブレスを吐くのをもって作戦行動の合図とする。前進開始」


 レッドドラゴンは遺跡の端で小さき者達を待っていた。中央部で戦うと折角の財宝が溶けて無くなってしまうからだ。暫くすると木々の中から小さき者達が現れる。健気にも、小さき者が持つにしては大きい盾を構えている。その程度の盾で我がブレスを防げると思っているとは、レッドドラゴンは怒りを通り越して笑いそうになる。だが、その勇気だけは誉めてやらねばなるまい。たとえ蛮勇だったとしても。そう思い直し、息を思いっきり吸うと、首をコウ達に真っ直ぐ向け、高温のブレスを吐いた。


 レッドドラゴがブレスを吐く、それは炎と言うよりプラズマ粒子砲に近いものだった。


(パーソナルシールド損傷率80%、修復よりダメージが上回っています。シールド飽和まで後0.1秒)

 

 ユキの平坦な声が頭の中に聞こえる。


(破損と同時に私とユキは両脇に散開。マリーはその位置でブレス終了まで待機。サラ、マリーの後ろで待機し、予定通りブレス終了と同時に体内へ突入)


 コウは予定が狂ったため、新しい命令を下す。


 レッドドラゴンがブレスを吐き終わると、いつの間にか、2人がブレスの範囲から逃げており、ブレスを浴びていたはずの2人も灰になるどころか、傷一つ負っていない。予想外の事にレッドドラゴンの思考が止まる。その瞬間のどに痛みが走る。見ると目の前から1人いなくなっている。今まで感じた事の無い痛さに、レッドドラゴンは暴れまくる。


 サラは予定通り体内に突入し中から、首の部分を切り裂いていた、しかし、先端は外に飛び出して切り裂いてはいるものの、直ぐに修復されていき、首が切り落とせない。更に暴れるので、力も入りにくかった。


(コウ、何とかならないかな、切り落とせないことはないんだけど、時間が掛かりそうだ)


(マリー、ロック鳥の時のようにドラゴンの上に乗って盾で押さえつけろ。重力制御も使って最大重量にしろ)


 レッドドラゴンはざっと見た感じで重量500tは超えるまさにモンスターだ。サラの通常の重量でも押さえつけるのは不可能に思えた。

 コウの命令と同時に、レッドドラゴンに盾を押し付け、通常は軽くするための重力制御を逆に重くする方に変え、出力を最大にする。この制御で10倍までは重くすることができる。つまり約4千tの重量である。流石のレッドドラゴンも自重の10倍近い重さで押さえつけられては自由に動けない。


(ユキ、後頭部を槍で突け、私は眉間を攻撃する。脳内で鏃が爆散するように同時攻撃する。タイミングを合わせろ)


 コウは威力よりも貫通力を重視し、ユキが使う槍よりは脆い、それでもこの世界のどの金属よりも丈夫な、圧縮金属を使った徹甲弾型の鏃を構え、最大まで弓を引き絞りドラゴンの眉間に向かって撃つ、それとタイミングを同じくして、ユキもその長大な槍を後頭部から突き刺す。通常使うものよりはるかに長い槍は、後頭部から、丁度脳の中心部で、コウの放った矢の鏃に寸分たがわず激突し、鏃をドラゴンの頭の中で爆散させ、金属を飛び散らせる。流石のレッドドラゴンもこれにはたまらなかった。それでも、回復しようとするが、回復力が首の切断を防ぐのに使われてしまっている。

 考えが纏まらない内に、先ほどと同じ攻撃をされ、また頭の中がかき乱される。レッドドラゴンの意識はそこで途絶えた。

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