第99話 ドワーフ式歓迎の宴
料理長からロックワームの料理法を習い、部屋に戻ってしばらくすると、宴会の用意が出来たとの連絡を受ける。
コウ達が宴会場へと向かうと、すでに国王をはじめ主立ったメンバーはすでに席に着いていた。国王の方が先に席に着いていることに少し驚く。重臣たちであろう人物たちも席に着いている。ドワーフの特徴として長い髭が挙げられるが、これだけ髭面が並ぶとある意味圧巻である。
ちなみに男はすべて長い髭面だが、女性は小柄な人間といった感じである。がっしりした体格というわけでもない。そのせいか、みんな子供のように見える。国王の隣に座っている王妃など、可愛らしい顔の作りもあって、とても夫婦には見えない。一応つけている冠からして王女ではないと思う。
宴会の席は、むき出しの岩を加工したテーブルに、これでもかと肉料理が並んでいる。そして、皆の前に置いてあるのは巨大な樽ジョッキ。この風景だけ切り取れば、どこの山賊の宴会場だ、という雰囲気である。
「さて、皆のもの、この者たちはリューミナ王国からの物資を運んできたのみならず、王都の危機も救ってくれた。実際にこの中にはロックワームとの戦いを見た者もいよう。あれが王都で暴れたら、我が国はとんでもない被害を出すところだっただろう。我が国を救ってくれた勇者に乾杯!」
「「「乾杯!」」」
野太い声と共に、皆のジョッキが高く掲げられ、皆が、女王も含めてエールを一気飲みする。え?と思う間もなく、後ろに控えた給仕の女性が、その体からはとても持てないだろうという大きさの樽を持ち上げ、次々とジョッキに注いでいく。ちなみに王妃もすでに一杯目は空にしている。その体のどこに入っているんだという感じである。
ちょっとあっけにとられてしまったが、後ろからの給仕の、何をやってるんですか?という圧を感じたので、自分たちも慌てて飲み干す。エールが冷たい。
「おや、冷えたエールに驚かれましたかな。ここは年中冷たい湧水が出るところがありましてな、そこで冷やしておるのですわい。エールを冷やすという習慣は他の所ではないようですのう。ここの名物の一つと言っても良いでしょうな」
横に座っていた男性のドワーフが答える。多分お偉いさんなのだろうが、何かの骨付き肉を手づかみでほおばりながら、酒を流し込んでいる姿は、場末のオヤジそのものだ。
「ええ、まあ、そうですね」
最近ようやく、常温のエールに慣れてきたとも言えないので、コウは言葉を濁して答える。
「コウ殿達は知らなかったようですが、冷えた最初の一杯をキューっと飲むのが最高なんですわい。機会があったら他の場所のエールでも試してみなされ」
「ええ、そうしますよ」
そう答えつつも、いや、それは知ってるけど、量がね……。生身の体だったら急性アルコール中毒になってるよ、と心の中で突っ込む。
「まあ、こうして宴会とは言え、思う存分飲めるのも、コウ殿達が原料や、酒を運んでくれてきた賜物。感謝しておりますぞ。何せ酒が配給制になってから、兵士によっては20㎏近く痩せた者もいますからのう」
え?自分たちが運んできたのって酒とその原料だったの?ここに案内してきてくれた兵士がやつれてたように見えたのは、酒が少なかったせい?なんかそう思うと道中のヴィレツァ王国の国民が哀れに思えてくる。
と言うか、ヴィレツァ王国が物資を売るのを渋るのも仕方がない気がする。まあ、ドワーフ達にとっては切実な問題なんだろうが……。
宴会はとても宮中で行われているとは思えない程、賑やかで、まさに無礼講という感じだった。国王自ら椅子の上に立って、肉を片手に一気飲みをしているのだから、後は推して知るべしである。
ちなみに名物であるサンドワームの肉ももちろんあった。こちらは大きさにもよるが基本皮ごと食べられるらしい、ロックワームがなんとなく内臓系の肉とするなら、こちらはレバーという感じだった。煮込み料理も美味しかった。
食べ物も、酒も、配給制になっているので、いつものように街でまとめ買いをするのは無理だったが、そこは国王陛下が気を利かせてくれて、お土産にいわゆる忘れられていた酒を一樽とサンドワームの料理を貰える事になった。滞在は1週間を予定していたが、好きに飲み食いができないとなると話は別だ。さっさと退散するに限る。武器や防具はどうしても欲しい物じゃないし、マジックアイテムは期待できそうにない。
帰りも行きと同じく洞窟の出口までフィーゴが案内してくれたのだが、同じ人物とは一瞬気付かなかったほど、体に張りが出ていた。ドワーフの血の中にはアルコールが流れている、と酒場で話しているのを聞いたことがあるが案外本当かも知れない。
トンネルの道中、幾人もの物資を運んでいるドワーフ達とすれ違う。このペースでは王国中に物資をいきわたらせるには相当時間がかかるだろう。偶々巨大なロックワームが襲ってきてくれたことに感謝する。
「あのロックワームには感謝しなければならないな。物資の受け渡しで時間を食う羽目になるとは思わなかった」
「そうですね。今回はこの不運に感謝すべきかもしれません。正直あの宴会のノリは私にはちょっとついていけません。ソクスでも最後の方はうんざりしてしまいましたが、ここはあれ以上でしたからね。それに、不運と言ってもロックワームは年を取るほど大きくなるらしいですから、ここで倒せたのはリンド王国にとって幸運だったと言えるでしょう」
ユキが、いささか疲れた様子で答える。
「あたいは結構あのノリは好きだったけどな」
「わたくしもきらいではありませんでしたわ。ユキは少々真面目過ぎるのではありませんの?たまには力を抜くことも必要でしてよ」
うん、君たちは宴会の終わりごろには、2人で国王と肩組んでたしね。身長差で2人が両脇から抱えてるようにしか見えなかったけど。
「馬鹿なことを言うな、ユキまで不真面目になったら、私一人で3人の面倒なんて見てられないぞ」
「え?コウってもしかして真面目なつもりだったの」
サラが驚きの声を上げる。失礼な、と思って今までの行動を振り返ってみたらあんまり真面目ではなかった。
「大丈夫です。これでも艦隊旗艦のAIです。管理には慣れてますよ。3人ぐらいどうということはありません」
やっぱりユキにも不真面目と思われていたようだ。これはちゃんと真面目にすべきか、と一瞬思ったが、わざわざ真面目にする理由が見つからなかったので、コウは考えるのをやめた。
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