第98話 ロックワーム料理
いったいいつまで滞在させられることになるかと、内心困っていたコウだったが、運が良い事に広い貯蔵庫代わりの場所を見つける事が出来て、ほっとしていた。
そうなったら、次の興味は食である。ロックワームはサンドワームと並んでここの名物料理の一つだそうだし、あれだけの大きさであれば量は申し分ない。国王に一部献上するのはまあ、社交辞令上仕方がないとしても、かなりの量が残ることが期待できる。出来ればこの城で料理したものを亜空間ボックスへ収納していきたかった。
ちなみに城は人間が入れるようにかそれとも、元々ドワーフが広いのが好きなのか、廊下も部屋も広々としていた。どうせなら、貯蔵庫を広々と取っておいてほしかったが、こういう限られた閉鎖空間だからこそ、住居は広々とした空間にしたくなるのかも知れない。
そういったことを部屋で考えていると、トントントンとドアをノックする音がする。約束の料理長だろうか。
「どうぞ」
とコウが答える。
「失礼します」
そう言って入ってきたのは、恰好こそ料理人だったが、包丁より金槌をもって鉄をたたいている方がよっぽど似合っている厳ついおやじだった。この世界の料理人は力がいるのだろうか、とふと食材を思い浮かべてみたら、正しくその通りだった。今から聞くロックワームの調理法など皮を剥ぐだけで並大抵の力では無理だろう。
「何でもロックワームの調理法を知りたいそうですね」
「ええ。教えていただけるのが一番ですが、材料は今日とれたてのをお渡ししますので、作っているのを見せていただけるだけでも良いんですが」
本当は全部作ってもらうのが一番なのだが、まあ、流石にそれは無理だと思ったので言うのはやめておく。
「いえ、今日のは話に聞く限り自分の手に余ります。それに、それだけ大きなロックワームの消化液をきれいに洗う所もありません。あまり量が多いと、水が汚染されてしまいますから。この都市は、水の入れ替わりが緩やかですからね。水質には気を付けないといけないんですよ。今回はもう洗ったものがありますので、そちらの調理をお見せいたします。それでご了承いただけませんか」
流石は外見は鍛冶屋のおやじっぽくても、れっきとした宮廷料理人の長である。客である自分たちへ十分礼を尽くしているのが分かる。
もっとも本来なら客と言えども料理長がここまで低姿勢に出る事は無い。これは、巨大なロックワームを倒し、この都市に多大な被害が出ることを防いだ、コウ達への国王の配慮であった。
早速、料理長に案内されて、厨房へと入る。本来は外部のものは立ち入り禁止らしい。なぜかと聞くと、毒を入れられる恐れがあるからだそうだ、この世界には毒を無効化するような魔法は無いか、貴重なのだろうか。
考えてみたら、自分も生半可な毒は効かない身体とは言え、ワームを毒で殺すのは嫌がったのを思い出した。うん、やはり安心できる環境が一番だ。
料理長はまな板の上にロックワームの肉片らしきものをおく、30㎝×50㎝ぐらいの大きさだ。
「本日はすでに洗っているものから始めます。洗い方は手順書を用意いたしましたので、後でご覧になってください。先ずは、皮と肉を切り離します。皮は食べられませんが、素材として売れるので取っておいて損はありません」
そう言って、料理長は皮と肉の間に包丁で切れ目を入れ、少しずつ剥がしていく。
「肉が柔らかいので、少しずつ丁寧に剥がしていくのがコツです。力を入れると肉がちぎれてしまいますから」
この過程は、自分たちなら高振動ブレードの包丁を使えば早くできるだろうか、いやしかし、そういう手間を省いているから不味くなるのかもしれない。
「皮をはがしましたら、今回は半分に分けて、片方を素揚げ、片方を鉄板焼きにしたいと思います」
料理長は、肉を半分に切り、半分はさいころ状に切り、何かのたれに漬けて油で揚げていく、その間もう半分は細い針を何カ所も刺した後、塩と何かを混ぜた調味料をまぶし、焼けた鉄板の上に置く。
「素揚げは低温で揚げた後、一度油から出して冷まし、次に高温で揚げるのがコツです。鉄板焼きは、針を刺す数と間隔がコツですかね、あまり刺すと肉の歯ごたえが無くなります」
説明しつつも手際よく料理長は料理を進めていく。肉を料理している間にも添え付けの野菜を料理している。
やがて料理が出来上がり、素揚げも鉄板焼きも4等分され、金縁の綺麗なお皿に盛られる。
「これが、ロックワームの代表的な料理、素揚げと鉄板焼きです。料理人の休憩室で良ければ、あちらでお召し上がりください」
料理している途中から、あのどちらかというと気持ち悪い部類に入るワームの肉とは思えない程、美味しそうな匂いが漂っていたため、ありがたく休憩室を使わせてもらう。この厨房の横で食べる出来立て感がまた食欲をそそる。
素揚げは特に衣をつけていないはずなのに、表面はまるで衣をつけたようにパリッとしていて、中は柔らかくジューシーだった。肉はぷりぷりとしている。脂身が多いというより、内臓系の肉?という感じだ。まあ、全身内臓のようなものだから当たり前かもしれない。鉄板焼きの方も脂がのっていておいしかった。さっぱり系の調味料が使われている。
食べ終わると量的にはそんなに多くはなかったが、脂分が多かったためか、意外と満腹感がある。料理長が酸味の効いた果実水?を持ってきてくれる。
「いかがでしたか?」
「いやあ、大変美味しかったです。正直こんなに美味しいとは思いませんでした」
料理長の問いにコウはそう答える。形から元の世界の合成肉のような料理を想像していただけに、良い意味で予想が外れて大満足である。
「ところで、国王陛下に今回討伐したロックワームを献上したいのですが、どこに運べばいいですかね」
とコウが聞くと、料理長が困った顔をする。
「最初にお話ししたように自分の手には余ります。出来れば陛下に献上するのは、やめていただけると助かります。最初からの処理方法、調理法、調味料のレシピもお渡ししますので」
なるほど、料理を見せたり、貴重なレシピを公開するのは、自分たちで処理してくれという願いもあるらしい。こちらとしてもそれは願ったり叶ったりなので、快く了承した。
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