第97話 ロックワーム討伐

「兵隊さん達、危ないから下がっていてくれないか」


 そうサラが後ろから言うと、ドワーフの兵士たちがびっくりする。持っている剣もだが、雰囲気自体が今から戦おうというものではない。それに剣はともかく鎧は軽装ともいえるもので、とてもロックワームの攻撃を防げるとは思えなかった。


「いやしかし、そんな恰好では無理だ」


 今まで戦っていたドワーフの兵士の1人が言う。


「良いから良いから。国王陛下の許可は貰ってるから。けが人を連れて下がってな」


 そうサラが言うと、


「すまぬ」


 と言って、けが人を抱えて下がっていく、口ではサラを止めたものの、戦うのはもう限界だったのだ。


 サラが無造作に近づいていくと、ロックワームは口をすぼめるが、サラの大剣は皮膚の岩盤など、まるでケーキのようにくりぬいて中に入っていく。鋭い歯も当たっても傷一つつけることはできず、岩をも溶かす強力な消化液も、何ら変化を起こさない。サラは歩きながら無造作に大剣を一回転させると、丁度ワームが輪切りにされる。

 そのまま歩きながら命令通り1mごとに輪切りにしようとすると、後ろから待ったがかかる。


(サラ、もう少しゆっくり進んでくれ、切ってすぐは、輪切りにした切れ端すらまだ生きている。マリーに収納してもらうが、収納速度と合わせてくれ)


 コウはワームの生命力に呆れる。まあ、それでも分裂しないだけましと考えるべきだろう。元の世界でも大きさこそ違うが、そういう生物もいたし。

 輪切りにして5秒程は生命活動を続けていたので、どうしても5秒に1mしか進めない。まだしも救われるのは、ワームが大きすぎたため、暴れようと思っても暴れる隙間がないことだ。もはや脳みそは無いので暴れているというより、痙攣しているといった方が正しいような気がする。その動きに何かの意思は感じられなかった。

 作業のように淡々と1mごとにサラはワームを輪切りにしていく。そして巨大なバームクーヘンのような肉片をマリーが収納していく。実にシュールな光景だった。

 流石に生命力の強いワームも内側から1mずつ輪切りにされては、その生命活動を維持することはできず、途中で生命活動を停止する。結局そのワームは長さ150mという巨大なものだった。


 国王であるウォルガンが近衛兵たちと馬(ドワーフ馬と呼ばれるれっきとした馬らしい)を駆り現場に到着した時に目にした光景は、自分たちではとても太刀打ちできそうにないような、今までに見たこともない巨大なロックワームを無造作に切り刻んで、収納していく“幸運の羽”の姿だった。

 国王自体も唖然としてしまったが、元から戦っていた者も、怪我をしているのも忘れたように唖然としてみている。


「すまんが、彼らが何をやっているのか、わしに説明してくれんか」


 国王は比較的怪我が軽いドワーフにそう声を掛ける。そのドワーフは国王と気付くとびっくりするが、直ぐにサラの方を見直して力なく答える。


「陛下、申し訳ありません。私には訳が分かりません。いや、やっていることは分かります。見ての通りロックワームを輪切りにしていってるんです。自分達のバトルアックスでは傷一つつかないものを、まるでケーキでも切るように……。それに強力な消化液も、鬱陶しいぐらいにしか感じていないようです……。何者なんでしょう」


 兵士に逆に聞かれるが、ウォルガンも答える事が出来なかった。こんな巨大なロックワームなど聞いたこともない。普通は大きくても直径1m長さ10mぐらいなものだ。それでも硬い皮膚と、強力な消化液で倒すのは苦労するものだった。

 しかし目の前に見えているのはそんなものとは比べようもない巨大なワームと、それを難なく切り刻んでいく人間たち。国王は自分の常識がガラガラと音を立てて崩れていくのが分かった。


 結局すべてが終わるまで、ドワーフ達は眺めている事しかできなかった。

 

 おそらくワームを倒し終わったのであろう、コウがロックワームが這い出てきた穴、というよりトンネルから姿を現す。


「陛下、お手数ですが、このトンネルを進んでもらえませんか?奥に貯蔵庫として使えそうな空間を見つけました」


 前代未聞の、それこそおとぎ話に何代にもわたって語り継がれるようなモンスターを倒したというのに、コウはそれを誇る事は無く、興味すらなさそうだった。ウォルガンは言われるがままトンネルに入り進んでいく、近衛兵も止めるものはいない。起きたことの衝撃の余り、思考が停止し、国王の後をついていくだけだった。


 コウ達はロックワームを倒した後、モンスターが進んできた道を軽く探索してみる。すると、すぐそばと言っても良い場所に巨大な空間があることが分かった。直ぐにその場所に行くと、3Dマップ通り貯蔵庫にぴったりの巨大な空間があった。床もほとんど平らで、物資を積むのに申し分がない。

 おそらくワームの巣だったのだろう。卵のようなものが空間の端に見える。王都につながっているトンネル以外にも多くのトンネルがあったが、王都のもの以外は、この巣に戻ってくるものばかりで、他の場所に続いているものはなかった。

 これなら、国王の許可さえあれば、一遍に仕事が済む。嬉しくなったコウは早速国王を呼びに行き、この空間まで連れてきた。


「陛下、如何でしょうか、陛下さえよければこの空間を使わせてもらえば、貯蔵庫の問題は解決すると思います。他にもトンネルはありますが、どれもここに戻ってくるものばかりで、よそに繋がっているものは無いようです」


 コウの言葉に、この短時間でどうしてそこまで調べたんじゃ、と声に出しそうになったウォルガンだったが、そういう魔法を使ったんだろうと思い、聞き直すのはやめた。ドワーフは元々魔法にはあまり知識がない。変に聞いてしまうと、ただでさえ少し萎縮している自分が、さらに萎縮してしまうように思えた。


「うむ、そなたらの好きにするが良い」


 ウォルガンは何とか威厳を保ちながら答える。


「それと、今夜は宴を開く故、そなたらにも参加してほしい」


「承知いたしました。ところで、ロックワームの肉はここの名物だと聞いているのですが、さっき倒したものは料理できますかね」


 コウはロックワーム自体は知ってるようだが、自分たちが倒したのが非常識な大きさのものだったという認識はないらしい。


「予は、料理法を知らぬ故、後から料理長をそなたらの部屋に向かわせよう」


 自分たちがリンド王国に閉じこもっている間に外ではいろいろ変化があったらしい。この者たちがリューミナ王国の意図で動くのなら、ヴィレッツァ王国にこだわるのは下策か、と考えながらウォルガンは城へと戻っていった。



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