第76話 ブラックドラゴン討伐受注

 次の日は依頼を受けるつもりはなかったが、ここの冒険者ギルドがどういうものか知っておこうと思い顔を出すことにする。依頼を受けるつもりがないので行くのは朝食を食べて、暫くゆっくりした後だ。ちなみに朝食の飲み物もエールだった。ただ度数は低かったが……。一応水があまりきれいでないという理由はあるらしい。水に浄化の魔法をかけて更にお茶として出すより、エールの方が安いそうだ。

 フモウルの冒険者ギルドはジクスに勝るとも劣らない規模だった。酒場のスペースはジクスより広いのではなかろうか。ジクスでは一番閑散としている時間だが、ここはまだ多くの冒険者がいる。土地柄なのか、冒険者の数自体が多いのかまでは分からないが。

 依頼ボードの方に目を向けると、この時間だというのにまだいくつもの依頼が貼ってあった。眺めてみると高ランクの討伐、若しくは素材採集の依頼が多い。Cランク以下の依頼はもうすでに受注されたのか、ほとんど残っていなかった。

 ふと、「ブラックドラゴン討伐依頼 A」と書かれた依頼書が目に入る。ドラゴンには興味があるが、ランクが2つも違う。受注は無理だ。その他もBランクの依頼がメインであり、Cランクの依頼は魔の森の調査の護衛しかなかった。

 元々依頼を受けるつもりはなかったので、冒険者ギルドを出ようとすると呼び止める女性の声がする。


「あなた達“幸運の羽”でしょう?良かったら一緒にブラックドラゴンの討伐依頼を受けない?」


 そこには20代後半に見える妙齢の女性が立っていた。オーロラのようなグラマラスな女性ではなく、細身の女性だ。宝石の付いた杖、ローブ、とんがり帽子といかにも魔法使いといった格好をしている。


「どうして自分たちのパーティーの名前を知ってるんですか?」


 コウは、色々やったから有名になったんだろうな、とは思いつつも念のため尋ねる。


「それって本気で言ってるの?それともただの確認?」


「まあ、確認の方ですかね」


 そうコウが言うと、女性はにっこり笑って答える。


「それは良かったわ。幾ら強くても私は馬鹿は嫌いなの。分かったのは、あなた達が有名だからよ。その特徴も含めてね。正直自分の目で見るまで、そんな冒険者がいるのか疑っていたのは事実だけど、目の前に噂通りの格好のパーティーが現れたんじゃ、間違えようがないわ」


「では、どうして自分達に声をかけたんですか?自分達はまだCランクですよ」


「だからよ。あなた達は高ランクの依頼を受けたい。でもBまでだったら例外措置として、ギルドも認めてくれるかもしれないけれど、Aは無理。そこで私の出番。こう見えても私のランクはAなの。あなた方の戦力が噂通りなら、Aランクの依頼を受けても大丈夫なはず。後はギルドの決まり事の問題。私が加わればその問題も解決する。私は自分1人では厳しい依頼を受けられる。どうかしら?悪い話ではないと思うけど」


 コウの疑問に女性はそう答える。


「それだったら、別に自分たちである必要はないんじゃないですか?なぜ自分たちに真っ先に声を掛けたんですか?」


 しかし、コウはまだ納得できないという風に聞く。


「そうね。別にあなた達である必要はないけど、あなた達が駄目な理由もないわ。それに私は女よ。どうしようもない時は別として、少なくとも1人は女性の居るパーティーを選びたいわ。余計な心配事が少ないもの。それが女性の方が多いパーティーとなれば、組みたい有力候補になるのは当然の事じゃないかしら」


 コウは女性の言葉を吟味する。特に怪しい点は見当たらない。


「分かりました。では、そちらの取り分は何を望んでいるんですか?まさかAランクの方がただ単に報酬を求めて、というわけではないですよね」


「話が早い子は好きよ。私が欲しいのはブラックドラゴンの心臓、魔石、眼球、肝臓よ。それがもらえれば後はそちらに渡すわ。もっとも私が聞いた話ではあなた方も結構稼いでるそうじゃない」


「まあ、否定はしませんが、貰えるものは貰いますよ。別に聖人君子ってわけじゃないですから」


 そう言ってコウは肩をすくめる。


「ならこれで決まりね。私はネーリーよ」


 そう言ってネーリーは握手を求める。


「知っているかもしれませんが、私はコウ、そしてこちらから順に、ユキ、サラ、マリーです」


 握手をしながらコウが答える。


「よろしくね」


 そう言ってネーリーはユキ達にも1人1人握手を交わす。


「じゃあ、依頼を受けましょうか。パーティーリーダーのコウだけは付いてきてくれないかしら」


 そう言ってネーリーは依頼ボードのブラックドラゴンの討伐依頼書をはがし受付へと持っていく。


 ブラックドラゴンはここから東に2週間程行ってさらに北に3日程行った所にある廃坑に住み着いているようだ。途中からは道らしき道がなくなるので、残念ながらシンバル馬はここ預けていかなければならない。討伐報酬は20金貨。廃坑に住んでいて、人に被害が出てないせいか、報酬は少ない。ただ素材が高いので、ネーリーの分を除いたとしても売却額は10白金貨を超えるだろう。ただ、コウ達はドラゴンの肉は売る気がなかったので、それよりは低い金額になりそうだ。ドラゴンステーキ。ファンタジー世界を夢見るものなら、一度は食べてみたい食べ物トップ10には絶対入るものである。

 不安と言えば、たまたまドラゴンを倒してみたいと思った時に、都合よくそれを受けれるようにできる相手が現れたことだろうか。相手の言う事に怪しいところはないが、それを素直に運がよかったとは考えられない。我ながら難儀な性格だと思うが、的中率が高いだけに始末が悪い。一応ユキだけには注意するよう伝えておく。


「さあ、出発は明日するとして、今日は親睦会をしましょう!良い店を知っているのよ」


 そうしてネーリーに連れていかれた店は、鉄板でモンスターの肉を焼き、最後に度数の高いアルコールをかけて、表面を焦がすという料理方法をとる店だった。珍しい料理法だし、料理がおいしいのはよかったのだが、なぜかマリーとネーリーの飲み比べが始まってしまい、酔いつぶれたネーリーを宿に送る羽目になってしまった。明日ちゃんと起きられれば良いのだが……。

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