第75話 リューミナ王国の動き

 時は少し戻り、コウ達“幸運の羽”がソクスの街で散々飲み食いをしている頃、再び王宮の奥で国王、宰相、モキドスの3人が集まり。モキドスの報告を受けていた。


「報告は以上です。今回は海賊相手でしたが、もし我が国の海軍の全軍と対峙しても、我が軍が10分持ちこたえられるかどうか分かりません」


「勝てるかどうかではなく、持ちこたえられる時間の問題なのか」


「はい。勝てる見込みはありません。また、もし陸で同じような行動をされた場合は軍は大混乱に陥るでしょう」


 どことなく苦々しい顔をした宰相に、モキドスは真剣な表情で答える。


「バナトス、また変なことを考えておるわけではあるまいな」


 対照的に同じ報告を聞いた国王レファレストは涼しげな顔で、魚の干物を口に運ぶ。


「陛下、変なことではありませぬ。個人での武勇だけならともかく、軍を左右するほどの力など、国家が人の形をとって我が国を歩き回っているようなものではないですか。早急に対策が必要と思われます」


「一国の軍事力を上回る武力に対して、どう対応するつもりだね?」


 バナトスの言葉に、レファレストは尋ねる。


「どうとは、具体的にはまだ分かりませんが、各軍の将軍を集めて協議をするべきかと」


「無駄だ」


 レファレストは、バナトスの案を一蹴する。


「これは戦術、戦略でどうにかなるものではない。強いて言えば謀略が有効か?いずれにせよ表立って会議をした場合、彼らを危険視していることがバレる可能性がある。別に敵対しているわけではないのに、自分から藪をつついてどうする」


「ではこのまま放っておけと」


 バナトスはレファレストの言葉に納得できかねるようだ。


「放っときはしないさ、正直ここまで派手に動かれたのでは、他国からの勧誘が来るだろうからな。まあ、まずないとは思うが、他国に力を貸すことになる可能性も0ではない。そうなるとこれからの計画が大きく狂うことになる」


「陛下のお考えを聞かせ願えませんか?」


 バナトスはレファレストにそう嘆願する。


「よく食い、よく飲み、よく遊ぶ、今までの彼らの行動だ。つまり彼らは何か修験者のように修行や強さを目的としているわけでもないし、何か成し遂げたい野望があるわけでもなさそうだ。

 欲があるのであれば、その欲を満たすことで味方に引き入れることは可能だろう。まあ、それが無理だとしても、正直敵に回らないという確証が得られればそれでいい」


「具体的な計画をお聞きしても?」


 バナトスがレファレストに更に詳しい考えを聞く。


「ふむ、今は確かシンバル馬を買いに行っているところだったな。まあ、よほどのことがない限りフモウルに寄るだろう。そこに滞在するかどうかは分からないが、1度くらいは冒険者ギルドに寄るだろう。そこでAランクの依頼をAランクの冒険者と合同で受けさせる。その冒険者に彼らが何を求めているかを探らせる。これが先ず先決だな。その後は国の依頼を少しずつ受けさせる。これは我が国の依頼に対する拒否感を少なくさせるためだ。それと、そうすることによって、他国は勝手に彼らを警戒するだろう。

 最終的にはどこかの土地をやって、我が国に取り込みたいところだが、まあ、そうトントン拍子には進まんだろうよ。

 モキドス、Aランクの冒険者で我が国に、情報を流してくれそうな者のあてはあるか?」


 話を振られたモキドスはしばらく悩む。


「ネーリーというAランク冒険者の女魔法使いがいます。今は北方諸国をソロで旅していると思いますが、通話の鏡を使って各冒険者ギルドに連絡すれば、恐らく連絡が取れるかと。連絡さえ取れれば彼女は転移の魔法が使えますから、“幸運の羽”の一行がフモウルに着くまでには間に合うと思われます。

 フモウルの街は慢性的にAランクの依頼が消化できずに、溜まっている状態ですから、依頼自体を探すのは難しくはないと思われます。後は彼らが、彼女を受け入れるかどうかですが、正直こればかりは分かりません。ただ、直接話した感じで言わせていただくなら、人への拒否感というものは無かったように思われます。むしろ好奇心旺盛な感じにみられました。未知のモンスターの討伐という事であれば、合同で受注する可能性は高いかと。

 ただし得られるのは、性格や趣味嗜好などの表面的なものだけですよ。幾ら陛下の依頼と言っても、それ以上の事はネーリーが受けるとは思えません」


「それで十分だ。冒険者のタブーに触れようとは思わん」


 モキドスの答えにレファレストは満足そうに答える。


「陛下、恐れながら申し上げますが、いささか悠長すぎる計画ではないでしょうか」


 一方宰相のバナトスの方はやや不満そうだ。


「バナトス。彼らが怖いか」


「は?いや、何と言いましょうか、不気味な感じはしますな」


「ほう、宰相殿ともなるとその程度か、私は正直怖いがね」


「陛下がですか……」


 バナトスは驚く。それはモキドスも同じだった。2人にとって国王は恐れを知らぬ、と思える存在だったからだ。


「何を驚く。私だって人間だ、恐怖はある。ましてやそれが我が国が束になってもかなわないような力を持っているかもしれないとくれば、尚更だろう。それに恐怖を抱かない方がおかしい。問題はその恐怖に向き合えるか、恐怖に飲み込まれるかだ。

 恐怖に飲み込まれ、早急に解決しようとして、事をせいてはならない。恐怖が大きければ大きいほど慎重に動くのだ。それこそが恐怖を克服する唯一の方法だ」


 そうレファレストが話すと、2人は感極まったとばかりに頭を下げるのであった。


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