第59話 ダンジョン攻略(中層階~下層)

 スイスイという言葉がぴったり合うように、コウ達は順調にダンジョンを攻略していく。ある程度魔法やマナ、魔法生物のようなものの法則性が分かってくる。ただ、理論はサッパリ分からないが。


1.ゴーレムなどの魔法的なモンスターは素材が高価なほど強い。なぜかわからないがアイアンよりブロンズ、ブロンズよりクリスタルの方が強いのである。実際の強度で言ったら逆になるはずなのだが……。


2.アンデッドでは元となるモンスターが強いほど強い。メガサーベルタイガーのスケルトンはそれなりの強さだった。


3.クリスタルスケルトンやアイアンスケルトンなど、アンデッドか魔法的なモンスターか判別不能なものもある


4.精神魔法(即死系を含む)は脳の仕組みが違うせいか、脳波が違うせいか、マナを内蔵してないせいか不明だが、自分たちには効果はない。


5.術者の手元で物理的な攻撃方法(ファイヤーランス、アイシクルジャベリン等)に変化して攻撃してくるものは、パーソナルシールドで防御可能である。


6.ある地点、この場合はパーソナルシールド内で発生する魔法(いきなり爆発するファイヤーエクスプロージョン、地面から攻撃するストーンスピアなど)はパーソナルシールドでは阻止できない。


7.アンデッドの系統は強い磁場の中では身動きが取れない。


8.アンデッド系、特に実体が不確定なものは核融合によるエネルギー放射が最も有効である。


 以上が、これまでに分かった事である。アンデッド系は倒してしまうと、実体が消えるか、変質してしまうため、分からないことが多い。


 20日で地下80階までクリアする。もう、お金は一生心配しなくてもいいんじゃないか、というぐらいには貯まった。マジックアイテムも100以上はある。まあ、マジックアイテムによっては使いようのないものが殆どだが、万が一のことがあるのでよほどの事がない限り売らないつもりである。


 地下80階で初めて、謎の知性ある死体、この世界ではリッチと呼ばれているモンスターに遭遇する。見かけは元々は豪華であったであろう、ボロボロのローブを着たスケルトンである。


「その貧弱な魔力で、よくぞここまでたどり着いたものだ。それだけは誉めてやろう」


 リッチが随分と上から目線で話しかけてくる。まあ、アンデッドの中でもかなり上位に位置するモンスターだから仕方がないのかもしれない。


「交渉がしたい。こちらは金やマジックアイテムを大量に持っている。それで情報を買いたい」


 コウが交渉を持ちかける。しかし


「かかかかっ」


 とリッチは笑い出す。


「金やマジックアイテムなど今更興味はないわ。その気になれば好きなだけ手に入れることが出来るものを貰っても仕方がないであろう。わしが欲しいのはそなたらの命だけよ。まあ、実験体になるというのならしばらくの間は生かしてやってもよいぞ。苦痛に満ちた生になるであろうがな。かかかかっ」


 一通りしゃべるとまた、骸骨の口を大きく開け笑った。


「おしゃべりはここまでじゃ、死ね」


 そう言って、リッチは持っていたスタッフをコウ達に向け即死の範囲魔法を放つ。今までの検証通り何の効果も起きなかった。念のため買っておいた即死魔法を防ぐマジックアイテムの護符も変化がないことから、それで防いだわけではないことが分かる。


「むう、なぜ一人も死なぬ。ええい、たまたま耐えたからといい気になるなよ。死ね」


 リッチは先ほどと同じ動作を繰り返す。やはり何も起きない。


(ユキなんか新しいことは分かったか?)


 コウがユキに聞く。


(いえ、今まで検証したことが、高ランクのモンスターでも同じだと立証されただけです。

推測になりますが、即死系の魔法というのは体内にあるマナを変質させ、心臓を止めたり、脳を破壊するのではないでしょうか。それだとアンデッドやゴーレムに即死系魔法が効かない理由の説明がつきます。それに私たちもゴーレムみたいなものですし)


 言われてみれば、なるほどと思う。それだと逆に器物を分解する魔法は効いてしまうのだろうか。このリッチと交渉出来ていれば、即席のアバターを使って実験してもらうのだが。


「ええい、小癪な奴らめ。煉獄の炎よ、こ奴らを灰も残さず焼き尽くせ、ヘルファイヤー」


 突然、コウ達の足元から高温の炎の柱が発生し、コウ達を包む。この魔法はリッチが使える魔法の中でも最上級の魔法であり、アイアンゴーレムでも一撃で溶かしてしまう程。たとえ竜であっても無事では済まない。


「わしともあろうものが、つい怒りに駆られてしまったわい。死体が残らぬのが、この魔法の欠点よな。中々に強い個体であったゆえに、良いアンデッドの配下ができたであろうに……。ん?」


 炎の中から何かが飛び出してきたと思った瞬間、リッチは再生不可能なほど細切れにされていた。

 リッチが立っていた所には、まだ炎に包まれたサラが大剣を肩において立っている。


「この炎って、消えねえの? 流石にうっとうしいんだけど」


 炎に包まれながら、全く熱さを感じてない様子でサラが言う。よく見ると鎧の布の部分さえ焦げていない。


「詠唱から推測すると、対象が完全に消滅してしまうまで燃えるんじゃないでしょうか。周囲のマナを炎に次々と変換しているようですし」


 こちらも炎に包まれながら全く気にする様子も無く、ユキが答える。


「マナの供給を遮断できるか」


「完全に遮断出来るような技術は、残念ながらまだありません。この世界の魔法使いの脳波を真似して、マナを誘導することぐらいは可能ですが、それよりもこの魔法の効力の方が強いようです」


 ユキが申し訳なさそうに答える。


「うーん。物は試しでやってみるか」


 そう言ってコウは、倒したグールの死体を4体亜空間から取り出す。たちまちのうちグールは燃え上がり、炎と共に塵となって消えた。それと共にコウ達を包んでいた炎も消える。


「とりあえず、ダミーでなんとかなりそうだな。まあ術者が死んでいなければ無理かもしれないが」


 自分を包む炎が消えた後、コウが呟く。


「そうですね。魔法は術者の思念にかなり影響されるみたいですから。実際この魔法の炎は温度が摂氏2000℃程度しかありませんでした。恐らく炎と認識できる温度がそれくらいだったのでしょう。本当に高温の炎にするのでしたら青白い炎になるはずですから」


 2000℃程度では、個人携帯のプラズマブラスター程度には耐える事が出来るコーティングすら溶かすことはできない。


「今回はなんとかなったが、対象に効果が現れるまで永続される魔法は厄介だな」


「そうですね。最優先でマナを遮断する方法の研究に取り掛かります」


「頼む」


 コウは一抹の不安を覚えながらも、ユキの回答に頷くしかなかった。


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