第55話 ダンジョン攻略(浅層階)

 地下3階から、5階までは余り探索している冒険者パーティーはいないようだ。地下5階まではマップが販売されているため、転移の魔法陣まで最短距離で進んでいるパーティーも多い。特にDランク以上がいるパーティーはそうだった。Cランクでしらみつぶしに探索しているのは“幸運の羽”ぐらいなものである。


「やっぱり、全部探索しないとだめなのかなあ」


 サラがうんざりしたように言う。出てくるものは臭いアンデッドか、コボルト、ゴブリンなどの弱いモンスターばかり。お宝もなく、モンスターが出てきたら剣を振るだけという単調作業にいささか飽きてきたようだ。一応ダンジョン特有の植物とかも所々生えているのだが、わざわざ取っていくほどの価値はない。これは低ランクの冒険者のために残しておくべきだろう。もっとも次の日にはまた生えているそうだが。


「まあ、そう言うな。これは信念みたいなものだ」


「仕方ないかぁ。せめて違うモンスターが出てくれば良いのになぁ」


 サラが愚痴る。自分はそれよりも、壁が貫通できない不思議があるのなら、モンスターを殺したらお金か、アイテムに変わるようになっていても良いのにと思う。その方が楽だし……。モンスターがダンジョン内に勝手に発生する仕組みができるのなら、そういう仕組みもできるのじゃないだろうか。


 地下5階まで難なく進む。一応転移の魔法陣の部屋に入り、地上階に戻れることを確認すると、また地下に戻る。魔法陣の使い方はただ単に行きたい階層の数字を思い浮かべ壁のボタンに触れるだけだ。ちなみに地下10階を思い浮かべてみたが発動しなかった。いきなり深くへは潜れないようになってるらしい。


「もう夕方ですし、宿屋で休んでもよかったのではないですか?」


 ユキが疑問に思ったのか問いかけてくる。他の2人も疑問に思っているようだ。


「ただの伝説だが、なんでもダンジョン内では年をとらないそうだ。まあ年を取っても問題ないんだけど、まだ、人類が寿命を克服できていなかった時代は、ダンジョン内でテントを張るのが冒険者の基本だったそうだ」


「そんな伝説があったんですか?」


 ユキが少し驚いたように聞いてくる。転送の件もあり今度は呆れるような感じはない。


「まあ、3万年以上前の、人類が宇宙に飛び出したかどうかという時代の伝説だけどね。伝説には大抵元となった話があるからね、馬鹿にしたもんじゃないさ」


「そうですね。先ほどの事もありますし、それも調査しておきましょう」


 ユキはコウにそう答える。


「5階にマジックテントを広げられる、モンスターの出ない大きい部屋があったろう。そこで今日は休もう」


 3人とも異論はないようで、転移の魔法陣から少し離れた所にある広さ21m×21m、高さ9mの部屋にマジックテントを広げる。


「しかし不思議ですわね。階段では上の階から6m程しかおりていないのに、なぜここの天井は9mもあるのでしょう」


「だよな、それに廊下や部屋の広さの単位がきっちり3mというのも不思議だよな」


 マリー、とサラがそれぞれ疑問に思ったことを口に出す。


「これは古代の地球の単位と同じだな。まあ、単位というのは昔の偉い人の腕の長さだったり、指の長さが基本になったりするから似たようなものになるんだよ。ちなみに古代の地球では、ダンジョンに潜るときは3mと約2.5センチの棒が必需品だったそうだ」


「何に使うんですの?」


 マリーが首をかしげながらコウに質問する。


「残念ながら、そこまでは知らないなあ。その棒で地面を叩きながらダンジョン内を進んでいたという説はあるけどね」


 自分もそこまで詳しいことは知らない。伝説といっても都市伝説のたぐいだし……。


「ふーん。なんか色々あるんだな」


 コウがマリーやサラと他愛のない話をしているうちに、テントが完成する。中は空っぽだが、そのためにベッド、ソファー、センターテーブルなどを買い込んでいたのでそれを亜空間から取り出すと、表の宿屋より立派な部屋になる。

 テーブルに料理を並べるととてもダンジョン内とは思えない雰囲気になる。というより隣の音も気にする必要がないし、こちらの方がよほど快適だ。布団もふかふかだし。

 

「はあ、しかし今日はなんだか参ったなあ」


 食後のお茶を飲みながら、サラがぼやく。


「サラにはすまなかったと思っているよ。まあ、地下10階以降は段々とモンスターの種類も多くなるらしいからそれに期待してくれ」


 そうコウが慰める。


「というとあと1日はこんな感じかあ。そう言えば、なんで5階より下はマップが売ってないんだろう」


「地下6階より下は少しずつマップが変わるそうです。なので、作っても意味がないとか」


 サラの疑問にユキが答える。


「後、地下6階から下は宝箱があり、下に行けば行くほど希少なアイテムや、お金が入っている可能性が高くなりますね」


「どちらにしろ勝負は明日以降ってところか」


 サラはソファーに体を預け、背伸びをしながら言う。


「そういうことだ。まあ、明日からもよろしく頼む」


 そう言ってコウはベッドへと向かう。周りを気にしなくてもいいので、他の3人は寝てる振りをしなくてもいい。伝説がどうであれ、このダンジョンをクリアするまでは、ダンジョン内で過ごしたほうがよさそうだ。そう思いながらコウは眠りについた。

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