第47話 リューミナ王国大闘技大会予選

 遂に闘技大会の日である。王都は広い、念のため夜明け前には宿を出る。王都内を走る乗合馬車のようなものもあるが、時間が読めないので歩いていくことにした。

 案の定、橋の所で混雑している。なんとか時間前には受付に着くことができたが、結構ぎりぎりの時間だった。


「あー、来ないのかと思ってたんだけどな。まあ、もう仕方ないな」


 受付の男はまだ未練があるようだ。基本的に人は悪くないのだろう。ここで選手であるマリーと、観客のコウ達は分かれる。鐘が3回鳴るのと同時に予選が開始されるそうだ。席は自由席と指定席があり、自由席は5銅貨、指定席は1銀貨とかなり差がある。3銀貨を払い指定席を取る。指定席に行くには専用通路がありスムーズに競技場内に入ることができる。また賭けに行くのも指定席専用の受付がありこれもスムーズに行われるようだ。

 今回の参加者は500人、予選は4回に分けてバトルロイヤル形式で行われ、それぞれ8人、計32人がトーナメント戦へと進むことができる。そこからが賭けがはじまる。


 マリーが選手の控室に入ると、驚くもの、頬を赤らめるもの、あからさまに馬鹿にしたものと様々な反応がある。入るとすぐに競技のルールの説明が始まる。予選でマリーが配置されたのは4番目のグループだった。同じグループ内で戦闘力で特筆すべきものは見当たらない、だが数人マナの含有率が高い個体が見られたため、注意リストに入れておく。


 開始時間が近づくと選手の入場が始まる。指定席は高いだけあって一番リングに近い場所である。選手たちがトラックを1周する。コウが見る限り、やはりマリーが一番目立っている気がする。選手たちが中央へと移動すると、国王の演説が始まる。何か拡声する魔法が使われているのか、然して大声を出していないのに競技場全体へ声が響く。


「お集りの諸君。並びに選手の諸君。今大会は世間に埋もれている人材の発掘の場でもある。成績優秀者には王宮登用の道も検討している。選手諸君、君たちの中には様々な理由で世間から実力以下の評価をされているものもいるだろう。今日は存分にその真価を発揮したまえ。そして観客の諸君。勇気ある選手に称賛を送り給え」


「「「おおー!」」」


 競技場中に観客の歓声が響き渡る。国王はコウが勝手に描いていたイメージと違い、鍛えた体つきをしていて、とても商人王と呼ばれるような雰囲気ではなかった。精悍で若々しく、30代と言っても通じるだろう。横にいる王妃も若々しく、この世界でいう美女の部類に入る……と思う。少なくともオーロラと同じくらいは人目を引きそうだ。


 早速1グループ目の予選が始まる。目を引いたのは従魔と呼ばれる、方法はどうあれ人に従うモンスターを使役している選手だ。メガサーベルタイガーという体高が2mある巨大な虎にまたがって、縦横無尽にリング内を走り回って、次々に選手を跳ね飛ばし、場外へと落としていく。1分もしないうちに1グループの予選は終わった。

 第2グループは普通と言えば普通だった。3人ほど他の選手より強い戦士がいるが、それでも先ほどのように縦横無尽に叩き潰しているわけではなく、気絶させるか、降参させてリングから降ろすかで、吹き飛ばしているようなものはいない。

 第3グループは、自分を中心に巨大な竜巻を作りリング外に跳ね飛ばしていく魔法使いの女性と金属でできた六角棒で相手を気絶させるか、リング外へ叩き飛ばしていく大男が目立った。

 

 第4グループ。いよいよマリーの出番である。戦闘開始とともに、召喚士と言われる職業の者が、巨大なゴーレムを呼び出す。全長10mのゴリラのようなゴーレムである。召喚士はそのゴーレムの肩に乗っている。ゴーレムが腕を動かすたびに巻き込まれた選手がリング外へと落ちていく。たまにジャンプしてその腕をよけても、何かの衝撃を受けたように空中で軌道を変えられ、リング外へと落ちていく。何か召喚士がやっているようだ。

 マリーは最初から警戒していたためか、最も召喚士と遠い位置にいたため、何もせずにトーナメントまで進むことができた。


 予選でマリーが負けるとは思ってなかったので、コウは別の事を気にしていた。召喚士と魔法使いの両名とも呪文を唱えてなかった事。リングが壊れても次の試合までには元通りになる事の2つだ。

 分からない事は人に聴くに限る。コウは長年競技場に通ってる雰囲気を纏った(ただのコウの偏見だが)男性に声をかける。


「魔法使いや召喚士という職業の人は、呪文を唱えるものとばかり思っていたんですけど、違うんですか?」


 声をかけられた男性は、やれやれそんな事も知らないのかと言わんばかりの顔でしゃべる。


「あれは無詠唱という技術なんだ。応用も利かないし、魔力も大量に使うし、威力も詠唱した時よりも劣るが、決闘で悠長に呪文や身振りなんかしてられないからな、なんらかの魔法を使うものは、ああやって無詠唱で術を発動できるようにしておくのさ。次の試合前には金はかかるけど魔力回復のポーションも飲めるしな。尤も、ゴーレムを出したやつはゴーレムの召喚以外に、衝撃波を当てる魔法も使ってたようだけどね」


「なるほど。では、あのリングが壊れても次の試合になると、綺麗になっているのは?」


「おいおい、お前さんここは初めてかい。あの闘技場は一種のマジックアイテムで、魔力を流せば元に戻るようになってるんだ、そうじゃなきゃ平日は訓練もしてるのにぼろぼろになっちまうだろう」


 男性はちょっと呆れたように言う。


「すると、あのリングと同じ原理で城壁を作れば無敵ですね」


 コウは一番気にかかっていることを言う。正直魔法をなめていた、あんなに簡単に修復ができるのなら、自分たちの優位性が揺らぎかねない。


「まあ、あの魔法が開発されたほんの一時の間はそうだったらしいな。魔力を食うため、維持が大変なのと、強力すぎたんで研究されて解呪の魔法が開発されたんだ。その手のマジックアイテムも作られた。だから今はこんな闘技場とかのほんの一部にしか使われてないそうだ」


「何分、王都に来たのも初めての事なので、色々分からないことばかりなんです。ありがとうございました」


 コウは丁寧にお礼を言う。男性は満更な気分でもなさそうだ。

 しかし、魔法が使えない自分たちにとって、この魔法は脅威だ。コウはユキに最優先で自分たちに対策ができるか調査するように命じる。もちろんすべての制限は一時解除し、ナノマシンでの調査も、母艦を使っての調査も許可する。


 指示を出した後、コウは賭けをするため投票場へと向かう。専用通路があるのでスムーズだ。投票場のところにはトーナメント表が貼ってあり、選手名との簡単な紹介も貼ってある。マリーは順当にいけば、1回戦は第2グループで活躍した戦士、2回戦は竜巻の魔法使い、3回戦は六角棒を使う大男、4回戦の準決勝はメガサーベルタイガー使い、決勝戦はゴーレム使いと当たることになっている。予選で活躍した者との総当たりである。なかなかのくじ運だ。

 オッズは1番人気がゴーレム使い、2番人気がメガサ―ベルタイガー使い、3番人気が六角棒を使う大男で、ここまでが10倍圏内。マリーは最下位で、まだ誰も賭けていなかった。

 1金貨を出すと、オッズ500倍の数値が電光掲示板のようなところに現れる。それ以降もかける人は極少額のものしかいなかったため、結局オッズは750倍まで上がった。

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