第45話 王都での買い物と蟹?

 王都へ来てから4日目の朝を迎える。今日はリューミナ王国一と言われている教会を見に行くことにする。初めて王都に来た時に門から見た建物だ。王城に次ぐ大きさを誇る。

 中央公園には様々な形の噴水がある。水はふんだんにあるにしても、どうやって水を上げているのかが不思議だ。やはり魔法だろうか。近くの人に聞いてみると、一旦王城の大井戸からくみ上げた水を、王城の一番高いところに貯め、そこから都市全体に流しているとの事だった。汲み上げるのにはやはり魔法が使われているそうだ。その魔術具に魔力を込めるのは宮廷につかえる魔術師の重要な仕事の一つだとか。


 教会は外から見ても煌びやかだった。教会の天井に掲げてある円と十字を組み合わせた紋章は純金製だとか。また扉にも所々金や銀が使われている。ただ、レリーフはあるものの、ジクスの教会のように職人技が光るようなものは目につかなかった。

 中に入ると巨大なパイプオルガンと主神の夫婦神の像が目に入る。高い天井にはこれまた巨大なシャンデリアがいくつもぶら下がっている。凄いとは思うが、好みで言えばジクスの教会の細かいところまで描かれた絵画の天井の方が好きだ。

 礼拝堂の横には色々な神様の像が並んでいる。丁寧なことに解説付きなので、どんな神様か、だれがいつ制作したのかがわかるようになってる。教会は孤児院も併設している。但しこの世界の成人である12歳を過ぎたら、聖職者となるか出ていくかを選ばなければならない。教育は読み書き計算と結構なレベルまで行われる。一般公開授業も行われているそうだ。

 寄付された物が飾ってある秘宝館へと進む。秘宝館は有料だった。1銅貨だけだけども。中に入ると眩いばかりの金銀財宝が飾られてある。戴冠式を教会で行うためか、王冠や宝剣、ティアラなども多く飾られている。中には細かい細工がしてあるものもある。

 大きな虫眼鏡みたいなものがあるので、覗いてみたら、その先には小さいが精巧に出来ている船の置物があった。展示してあるのは所蔵の5分の1ぐらいで半年に1回入れ替えをしているそうだ。全体的に金はかかってると思うが、コウとしてはジクスの教会の方が好感が持てた。


 午前中に教会を見終えたので、午後はショッピングを楽しむことにする。昼食は中央広場にある露店で各々好きなものを買って食べた。ちなみに自分はイカ焼き?というような軟体生物を一旦干して焼いたものを食べた。ちなみに調味料は塩だけである。素材が良いので美味しいのだが、あっさりしすぎているような気がする。こってり目のソースが合うのではなかろうか。


 ショッピングをし始めると、やはり大都市の品ぞろえは違う、とコウ達は思う、貴族たちが住んでいることもあり、装飾品、服、武具、食器、調度品と数多くの店がある。どれに入るかでまず迷うぐらいだ。

 迷ったが先ずは食器や調理具の店へと入る。ドアがチリンチリンと音を立てる。店長が頭を下げ、声をかけてくる。


「お客様。本日はどのようなものをお探しですか?」


「ティーセットが欲しいんだが、見せてもらってもいいだろうか」


 コウがそう答えると、ティーセットが並んでいるコーナーへと案内される。カップとソーサーで20銅貨から20銀貨までの品物がある。高いものでも銀製品にはあまり魅力を感じない。勿論職人技が見て取れるようなものなら話は別だが、銀製品でそこまで感じさせるものは置いていなかった。おそらく材料代がほとんどを占めているのだろう。

 その中で、他と比べてひときわ白い地に、紫の花が描かれているティーセットが目に入る。持ち手の部分の細工も素晴らしい。それを眺めていると、


「お客様、お目が高い。そちらは北方諸国のドワーフの職人によるものです。この地の白さと絵の精巧さは、この辺りではなかなかお目にかかれるものではありません」


「ドワーフと言ったら鍛冶屋のイメージがあるのだが……」


 コウが思ったことを口にする。


「確かにお客様のおっしゃる通り、鍛冶に携わるものが多いのは事実ですが、それだけではありません。少数ですが、このような陶器や絵画、彫刻などを手がけているものもいますよ。もっともこれはセタコート運河が出来てから出回るようになったもので、それまでは王族様やほんの一部の貴族様しか買えない品でしたが」


 ほう、やはりあの運河の効果は大きいな、とコウは感心する。


「これはいくらなのだろうか」


 これには値段が書いていなかったので尋ねる。


「こちらは1セットで25銀貨でございます」


 店員が答える。それなりの値段だが、買えないほどではない。


「4セット買おう。それとこちらの銀製のスプーン4つとガラス製のティーポットも買う」


 店長にとって思いのほか大きな売上だったらしく、満面の笑顔になる。


「ありがとうございます。端数は切り下げて1金貨と10銀貨にさせていただきます」


 お金を払うと、店長は見るからに上質な布にそれぞれを丁寧にくるみ、箱の中に入れていく。そして店を出るときは自らドアを開けて、丁寧にお辞儀をしてくれた。


 ティーセットを購入したら次に購入するのはやはり中身である紅茶である。


「コーヒー豆もちゃんと買ってほしいな」


「後でな」


 コーヒー派はサラだけなので、コウの反応はそっけなく、またそれを批判する者もいなかった。


 紅茶専門店というのはなかった。まあ、ジクスと同じでお菓子と一緒に売っていた。まあ、セットみたいなものなので両方取り扱った方が売り上げが良いのだろう。喫茶店と併設してあるところに入る。残念ながら試飲という文化はないらしい。各々が違う紅茶とお菓子を頼む。ちなみに自分は入れないので関係ないが、この世界で砂糖は有料だ。砂糖より安い蜂蜜を入れるのが普通の飲み方だ。

 紅茶を飲みながらサラが言う。


「今日の晩飯はコウの番だな。リーダーらしく、今までで一番凄いのを頼むぜ!」


「私は昨日クルーズ船を選んだろう。みんな感嘆していたじゃないか」


 とすましてコウは答える。実際は夕食の事は何も考えてなかった。


「あれは偶々ですよね。ノーカウントです」


 ここでまさかのユキの裏切りである。ニッコリと、こちらを見てほほえむのが小憎らしい。自分達は王都のデータベースの中から最善のものを選んだので、私が困ると思っているのだろう。その通りなのが腹が立つ。


「まあ、コーヒーを買いに行った後だな」


 とコウは時間稼ぎに入る。全く誰だこんなAIを作ったのは! まあ、自分だが……。コウは自分で自分に突っ込みを入れる。


 とりあえずコーヒーを買いに行く。コーヒーはこの世界では薬扱いである。買い物をしている間フルに頭を働かせる。魚は堪能した、肉も食い残すほど食った、酒も味わった。残りは? そうだ甲殻類があった! カニという食べ物は人を静かにする効果がある、と聞いたことがある。マイルールを破り、データチップの補助プログラムを走らせ一軒の店を選定する。


 選んだ店は、3階辺りから店に張り付くように、10本足の甲殻類の模型が飾ってある非常に目立つ店だ。足がゆっくりと上下に動いている。胴体は角が丸みを帯びた三角形で、それだけで縦3m底辺3mはある、足を広げると横幅10mはある大きさである。中に入ると生け簀が中央にあった。しかしその中に目当ての表の模型のような甲殻類はない。


「表のものを食べたいんだが」


 そうコウが聞くと


「4人でですか?」


 と料理人が驚いたように答える。コウは黙ってうなずく。しかしなんだか嫌な予感がする。


「釜茹でいっちょう!」


 料理人が奥に向かって叫ぶ。ウェイトレスが3階へと案内してくれる。そこは10mのだたっぴろい部屋に直径8mの丸いテーブルが置いてある部屋だった。ますます嫌な予感がしてくる。


「飲み物を先にどうですか」


 と勧められたので、ライスワインというのを頼んでみる。南の方で採れる穀物で作ったワインだそうだ。サービスで出てきたちょっとしたつまみとお酒を飲みながら料理を待っていると、中庭に面した壁が突然開き、巨大な甲殻類がふよふよと浮かびながら近づいてくる。唖然としていると、テーブルの上までくるとそこにどんと置かれた。この世界の甲殻類をなめていた。表のは模型ではなく、剥製だったようだ。

 テーブルに巨大な甲殻類が置かれると同時にウェイトレスが斧と、動物の飼葉をならすのに使うような大きさのフォークを持って上がってくる。


「食べ方は知っていますか?」


 コウは首を振る。


「では最初取り分けますね」


 そう言ってウェイトレスは1本の足をめがけて斧を振り下ろした。何度か振り下ろして切れ目を入れると、巨大なフォークを使い殻を開ける。中には身がぎっしり詰まっていた。


「では、ごゆっくりご賞味ください」


 そう言って、ウェイトレスは去っていった。


「どうだ、驚いただろう」


 私も驚いたけどね。とコウは心の中で付け加える。


「そうですね。確かに驚きました」


 ユキは半分呆れたように言う。もしかしたらデータで知っていたかもしれないが、データと実物が目の前に出てくるのでは違うものである。


「まあとりあえず食べようじゃないか」


 そうコウは言い、トングで身をつまむ。身は簡単に裂けた。食べるとぷりぷりとした食感で、なんとも言えない甘みがあり、大変おいしいものだった。皆黙々と食べる。が、足1本が限界で、残りはサラの時の肉と同じく、亜空間へとしまうしかなかった。



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