第23話 転職活動(クエストテスト2)
次の日はすでに装備を整えてから宿を出る。念のため10日分の宿泊料金貨1枚を置いていく。宿の中に荷物はないのでわざわざ取っておく必要はないのだが、他によさそうな宿はないし、万が一いっぱいになって泊まれない、ということになるのも嫌だったためだ。
冒険者ギルドのほうに歩いていくと、コウ達を見る視線は多いが、コウ達が慣れたのか、それとも街の人が慣れたのか、最初の方ほど不快ではない。
2回鐘が鳴るのとほぼ同時に宿を出たので、途中、露店で買い物をしても、3回の鐘が鳴るころには十分余裕をもって冒険者ギルドにつく。
レアナに聞くと今日もテストを受けられるらしい。昨日と同じく酒場の方のテーブルで説明を聞く。
「今回の依頼はここから半日もかからない南西の森ですね。ジャイアントスパイダーの討伐です。Cランクのモンスターです。強さ自体はDランク並なのですが、木の上から毒液や針を飛ばして攻撃してくること。そのためこちらの攻撃手段が、弓か魔法かに限られるのですが、相手の攻撃の射程が長く中々近づけないこと。外骨格が硬く傷付けにくいうえ、生命力が高く、また再生力も高いため生半可な攻撃では倒せないこと、以上の事からCランクに属してます。まあ、運よく獲物を下でとらえているところを不意打ちできれば、結構楽に倒せるらしいんですが。大きさは本体だけで3mくらいありますね。
普段は森の奥に住むモンスターなのですが、今回は森の近くの村のそばで発見されたため、討伐依頼が出されました。依頼料は10銀貨。魔石はもちろんですが、牙や足の爪、尾の棘、内臓の毒袋、などが素材となります。全部集めると5~10銀貨ほどになると思います。
今回の補助パーティも多分“嵐の中の輝き”の皆さんですね。というかCランクで補助パーティを受けることが可能で、タイミングも合うパーティーとなると、どうしても同じになる傾向があるんですけどね。まあ、断られるようなことがあったのなら話は別ですけど」
言われてみれば、テスト官のような専用の職業があるのならともかく、タイミング良く空いているパーティーは、自分たちと同じ依頼を終わらせてきたパーティである。
レアナが説明を終えるとすぐに、“嵐の中の輝き”がギルドの中に入ってくる。レアナがそちらに向かい説明をしている。恐らくテストを受けるかどうかだろう。険悪な雰囲気ではなかったし、受けてもらえるとありがたい。
レアナの説明を受けて、ザッツが頷き、こちらへと向かってくる。
「よう、今回も俺たちがやらせてもらうぜ」
そう言って、ザッツは手を挙げる。
「よろしくおねがいします」
コウは頭を下げる。
「かしこまられるのはガラじゃねえんだが、まあいいか。今回は場所も近いし、ジャイアントスパイダーは一回場所を決めたら、その付近に獲物がいなくなるまでは場所を移動しねえ。さっさと行って片付けをたのむぜ」
ザッツはそう言ってコウの肩をたたく。
昨日と同じように門を出る。詰所の修理が始まっていた。自分たちにどういった沙汰が下されるのかはまだ聞いていないが、こうやって外に出られるということは、罰金程度なのだろう。
昨日と同じく良い天気である。しばらく街道沿いに西に進むと、気を付けなければわからないような、南に向かって伸びる小道がある。恐らくこの先が目的近くの村だろう。5、6㎞先に村とその向こうに森が広がっているのが見える
直ぐにギルドを出たおかげで、正午前には着くことができた。10軒ほどの農村である。聞き取りを行うと、山菜を取りに行ったところ、森に入ってすぐのところで、獲物を食べているジャイアントスパイダーを見たとのこと。幸いなことに村人に被害は今のところない。
軽く昼食を食べると、村人から聞いた地点へと向かう。
(標的特定完了。距離1526、高度22、射撃時遮蔽物8、但しいずれも強度は微小。いかがされますか)
森に入った時点でユキが報告する。
(距離200まで接近する。敵性生物は、Eランク以上のモンスター接近時のみ報告せよ)
コウが指示を出す。幸いなことに他のモンスターに遭遇することなく進むことができる。まあ、そんなに頻繁に出会うような森では山菜取り等に村人は来られないだろうが。
(距離200の地点に到着。目標動きなし。射撃時遮蔽物2、強度微小)
この地点ではまだ、攻撃してこないようだ。じっと自分の攻撃範囲内に来るまで待ち構えるタイプのモンスターだ。ただ攻撃範囲は50m前後有るので、この世界の飛び道具では厳しいだろう。コウは遮蔽物の影響を除外するため、ユリ他3人を微妙に離し、遮蔽物を透過した画像データを合成する。そして目標のジャイアントスパイダーをズームアップし首元というか、首と胴の境目に照準を合わせた。
コウにしてはゆっくりと、しかしこの世界では有らざる速度で矢をつがえ、射つ。木の枝を2つ吹き飛ばし、矢はジャイアントスパイダーの首を貫通する。ただ、首の直径の半分ぐらいの穴は開いたが切断するまでには至っていない。
(生命反応低下を確認。生命反応の停止確率、推測値45%、着弾点での細胞分裂の兆候を確認)
首の中枢を貫いたのだが、それだけでは決定打に欠けるようだ。流石昆虫型である。次にホローポイント型の鏃の矢を取り出し、頭を狙って打つ。すでに遮蔽物はないので衝撃重視の、先がすり鉢状になっており、柔らかい金属でできた鏃である。
弾が頭に当たると平たく広がり、まるでハンマーで殴ったかのように、頭の半分を押しつぶす。衝撃で首がちぎれ飛んでいった。木にしがみついていた胴体が力を失って下にゆっくりと、木の枝を折りながら落下していく。
(生命反応のさらに低下を確認。攻撃前の2%まで低下。10秒以内の生命反応停止確率、推測値98%)
ユキが淡々と報告する。おいおい、頭がなくなっても死なないかもしれないとかすごいな、とコウは感心し、しばらく待つ。
(生命反応停止確認。なお、生命活動停止まで、消失した首付近の細胞分裂を確認)
7秒後にユキから報告が入る。どうやら死ぬ寸前まで再生しようとしていたらしい。結局頭は再生できなかったみたいだが。最初の首の1撃だけだったら再生していたかもしれない。コウは弓をしまうと、目標物地点へと向かっていく。
「あたいさあ、このテストをやり始めて思ったんだけど、あたい達の装備って大げさすぎないかな。だって、あたいの大剣とマリーの盾って使ったの、魚とった時だけだし……」
ぼそっと、サラがつぶやく。
「それは、いまさら言ってはいけないことだ」
と、コウは注意する。サラの言うことは正論である。正論であるがゆえに反論できない。装備を選ぶとき、ゲーム感覚でノリノリで選んでしまったミスである。
5分も歩くとジャイアントスパイダーの落下地点へと着く。腹を上に向け足が丸まった状態で死んでいる。胴の長さは頭を除いても3mほどあり、足は広げると10mはありそうだ。5m程離れた大きな木の幹に頭が潰れて、こびりついている。幸いにして素材になる口の牙の部分は無事だった。
短剣を使い、牙、爪を切り離し、魔石、毒袋を胴体から取り出す。そのころには“嵐の中の輝き”もそばに来ており、解体を眺めていた。
「しかし、これで終わりか。すごいもんだ」
ザッツが感心して、コウ達に向かって言う。
「俺たちなら、魔法使いのハルガンがいるからジャイアントスパイダーの討伐はそう難易度の高い依頼じゃねえ。しかし、お前さんたちは攻撃は飛び道具だけだろう。どうやって倒すのかって気になってたんだ。まさか、ジャイアントスパイダーの攻撃範囲外から一方的に倒すとは思わなかった」
この世界では、非常識な攻撃手段だったみたいだが、完全に敵の生態が分かっているわけではない以上、危険は冒せなかった。まあ、どうせもう目立っているんだし、仕方がないとコウはあきらめる。
「まあ、弓の性能が良いですから」
とりあえずは、武器のおかげにしておく。ただ、嘘ではないが、信じてはくれないだろう。
「そういえば、この討伐報酬って10銀貨でしたよね。村を見た限りそんなに裕福そうには見えなかったんですが、こんな依頼はめったにないから出せたんでしょうか、それとも意外と10銀貨ぐらいなら出せるものなんでしょうか」
森を出ながら、コウはザッツに尋ねる。知りたかったのは本当であるが、半分以上は話題そらしである。これ以上勘繰られても困ってしまう。
「ああ、それは基本的にこのランクの討伐の報酬は領主から出るんだ。そうじゃないとここのような村なんか、いつの間にか無くなっちまうからな。それじゃあさすがに困るんで、普通は領主が軍を出すか、冒険者に報酬を払って依頼するんだよ。まあ、そのために税金も払っているんだしな。もっともそれをケチって、領民に逃げられちまった領主もいるけどな。ちなみにこの地域は国王の直轄地だから出すのは代官だな。直轄地の場合、軍を動かすとなると、国軍か騎士団になるから、そこまでのものじゃないと判断したんだろう」
なかなかこの世界の貴族は、税金をもらってそれで贅沢三昧とはいかないようである。
「あと、ランクの低いモンスターとかでも、繁殖力の強いモンスターは、あっという間に増えたりするからな。Fランクモンスターでも、コボルトやゴブリンなんかは、領主から討伐報酬が出たりするな」
森に入って、鐘2回分の時間もかからず出てきた自分たちを見て、村人たちは少し驚いたようだが、無事倒したことを伝えると、安心しお礼を言われた。悪くない気分である。
この時間からジクスに帰ったら閉門までに間に合うはずである。村人からは休息を勧められるが辞退し、ジクスへと帰っていった。
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