第9話 冒険者ギルドでの活動?

コウ達は階段を1階まで降り、交換所と呼ばれる質屋のような場所に案内される。


「ここはモンスターの討伐部位や素材、取得したアイテムなんかを換金する場所よ。もちろん手数料は取るけど金額は安定してるし、値段交渉もする必要はないわ。交渉が得意とか、なじみの店とかがある場合は、直接そこに持っていったり、オークションにかけたりする人もいるけど、余り一般的ではないわね。まあ、あなた達にいきなりそういうことができるとは思わないけど、出来ればギルドマスターの立場上ここを利用してほしいわ」


 そうコウ達に説明すると、今度は交換所にいる職員らしき人物に声をかける。


「この人たちはまだ冒険者ではないけど、特別許可を出すから換金してちょうだい」


 話しかけられた人物は頷く。


「酒場は向こうよ。食べ終わったら事務所の誰かに声をかけてちょうだい。部屋に案内させるわ。大丈夫だと思うけど問題は起こさないでね。あなた達もよ、下手にちょっかいはかけないでちょうだい」


 オーロラは酒場にいる冒険者らしき人たちにもそう言って釘を刺すと、階段を再び上がっていった。オーロラが消えたとたん痛いほどの視線を感じる。まあ、当初の予定と変わって目立ってしまった以上仕方のないことだろう。それでも絡んで来ようとする者がいないのはオーロラのおかげだろう。


「何を換金するのかね」


 カウンターの向こうの初老に見える職員が尋ねてくる。

この惑星では交流が盛んな為か通貨がほぼ統一されている。形は国によって少々違うが、重さや材料呼び方は大体同じである。種類は錫貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨だ。錫貨100枚で銅貨1枚、銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚、金貨100枚で白金貨1枚と分かりやすい。

 原始社会であるため、工業製品や嗜好品の値段が高く、生活必需品の値段は低い傾向にある。事前資料を見たところ兵士の月収が銀貨10枚~20枚で、平均的な家庭の生活を送れるようなので、大体1錫貨1クレジット計算でよさそうな感じだ。

 どれぐらいの金が必要か考えてみる。宿はそれなりのところに泊まりたいので、食事も合わせると大体4人で1日銀貨10枚程度が必要のようだ。一般人から見たらかなりの贅沢だが、安い宿でも4人だと銀貨2枚から3枚は必要なので許容範囲内だろう。それ以下の宿だと汚すぎるし、プライベート空間もない。新兵の訓練じゃあるまいし、そんなところに泊まりたくはない。3ヶ月分ぐらいは活動費が欲しいところである。

 ちなみにこの世界は1週間が5日、1ヶ月は5週間で25日、15ヶ月で1年となっている。ちょっと連邦標準暦と違うがこれも分かりやすい。ちなみに基本的に5日ごとに1日の休みが町に暮らす人のサイクルのようである。

 予定外の出費もあるだろうから、銀貨1000枚辺りが妥当だろうか。どれぐらい手数料がとられるかわからなかったが、まあ半分ぐらいだろう。そう考えて銀貨2000枚程度の価値、つまり金貨20枚程度の重さの純金の塊を亜空間から取り出して、カウンターの上に置いた。

 職員が金を手に取り、ルーペや天秤、使い方が分からない不思議な器具を取り出し調べている。


「まあ、あんたらのことは詮索はしないけどね。くれぐれも気を付けるんじゃよ」


 そう言って金貨を20枚カウンターの上に置く。手数料がない。自分が不思議そうにしていたせいか職員が説明する。


「どこで手に入れたかは判らんがね、こんな純度の高い金は普通はないんじゃよ。しかもピッタリ真四角だ。どの面もまっ平らで凹凸がない。これは単体でも価値がある。そういうものなんじゃよ」


 コウは合成するとき不純物を混ぜるのは2度手間になるので、混じりっけなしの純金にしたのだが、ちょっと控えた方がよさそうだ。それにしても小銭がないのは使いにくいので、金貨のうち5枚を銀貨に交換する。貨幣の両替は無料のようで500枚の銀貨になる。いたく良心的だ。もし帰る事が出来たら、連邦の銀行員に爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい。奴ら貯金したのとは違う星系でクレジットを補給しただけで手数料を取りやがる。


 予想外の金額になったが、悪いことではないので上機嫌で酒場に向かう。酒場のスペースは結構広いが、8割程はもう埋まっている。よくホロ映画や小説であるように、ここは俺のおごりだ!といってパッと使う衝動にかられるが、これ以上目立つのはまずいのでやめておく。オーロラにも釘を刺されたし。

 コウ達は端の方に席をとって座る。壁にマリーの巨大な盾と取り外した肩の盾、サラの巨大な剣、自分の弓を立てかける。ユキの槍は長すぎて壁際の床に置くしかない。周りの冒険者と思われる人と比較して浮いているのが判る。まあ自分の弓も変わっているみたいだから他の3人の選択を責めるわけにはいかない。

 それに最終的に許可したのは自分だ。だが、AIが3体も揃って目立つ装備を選んだのは偶然だろうか。任務と称して遊ぼうとしている自分に対する無言の抗議のようにも思える。が、取り敢えず難関はクリアしたように思えるし、やってしまったものは仕方がない。それに交換所で金塊を換金した後から、更に視線を感じる。もうすべてを無視して料理に集中する事にした。なんと言っても出されるのは天然物の料理である。


 メニューがカウンターの前に貼り出されている。基本的に動物やモンスターの肉を串に刺し塩を振って焼いたものが殆どだ、内陸部のためか、魚貝類は川魚の料理が2種類あるだけだった。

 肉を色々食べたかったため、取り敢えず串焼きを4本ずつ10種類、ウィンナーの盛り合わせとエール酒を4杯頼む。

 エールが小さな樽のようなジョッキに並々と注がれて運ばれてくる。1ℓくらいはありそうな気がする。それぞれジョッキを手に取ると女性3人がコウに注目する。まあ、乾杯の音頭を取るのは自分の役目だ。そう思いコウはジョッキを掲げる。

「では、明日のテストが上手くいくことを祈って乾杯」

 4つのジョッキが音を立ててぶつかり、中のエールが少しこぼれる。このような風景はあちこちのテーブルで行われており、特に珍しいものではない。ただ、殆どのテーブルの者がちらちらと盗み見をしてるのが判る。エール酒は生ぬるかったが、思ったほど違和感はなく美味しかった。

 4人ともジョッキを空け、2杯目が運ばれてくるのと殆ど同時に料理が運ばれてくる。一言で言うと思っていたより多かった。串焼きは一本に付き一つ50g程の肉の塊が3つ刺さっており、ウィンナーは皿からこぼれんばかりに山盛りである。シチューとパンを頼むつもりだったが、頼まなくて正解だった。

 食べきれない場合、亜空間ボックスの中に入れれば良いのだが、きちんとした容器に入っているものはともかく、そのまま入れるのは汚い感じがするので嫌だった。

 一つ目の肉にかじり付く。かじり付いた瞬間プチッという小さな音と共に、肉汁が飛び出す。


「旨いな」


 他の3人も同感のようで無言で頷く。これはレストランで単体で出されて、ナイフとフォークを使って食べてもおかしくないものだ。あっという間に一本を平らげ、エールで味をリセットする。二本目を食べる。何かの鳥肉だろうか。皮のパリパリとした食感、その下にある脂、あっさりとした身、それが塩味と合わさり絶妙な旨さになる。最初はガツガツと残り半分はゆったりと、結局全て平らげてしまった。


 これで全部で銀貨1枚と銅貨20枚である。大体12,000クレジット分。1人3,000クレジット。はっきり言って激安である。これに比べれば宇宙軍基地のあるコロニーの飲み屋なぞぼったくりである。勝っているところと言えばキンキンに冷えたビールぐらい。出てくるのはフードカセットを機械に入れて出てくる謎の肉と、謎の野菜の料理である。それで料理人を名乗るとはここの料理人に謝るべきである。だって、彼らのやってることは機械の操作で料理じゃない。それに不味くはないが、この半分の量で1人6,000クレジットはするだろう。

 日が暮れてから2時間ぐらいしただろうか。もう酒場は半分以上の席が空いている。どうやらピークは日が暮れる少し前から、日が暮れて1時間後ぐらいまでらしい。

 食事に夢中で気づかなかったが、事務所はもう明かりが落とされており、女性が一人だけ事務処理をしている。もしかしたら自分たちのために待ってくれているのかもしれない。そう思い慌てて装備を抱えて事務所部分へと足を運ぶ。


「お待たせしました」


 コウが申し訳なさげに言うと、仕事をしていた女性が、


「大丈夫ですよ。仕事が残っていましたので。ですが先に部屋にご案内しますね」


 そうにっこり笑って席を立ち、自分たちを案内していく。

 事務所員というより本来は受付嬢なのだろう。制服が事務所員のものではなく受付嬢のものである。また姿勢も容姿もこの世界基準でいうと優れている感じだ。愛想もいい。チェーン店とは言え、ミスタービックスはもっと従業員の教育に力を入れるべきだ。スマイル0クレジットはスマイルをしなくていいという意味じゃない。

 3階に来ると廊下を進み、一番奥へと案内される。


「ではごゆっくりお休みください。明日のテストうまくいくことお祈りしています」


 女性は綺麗なお辞儀をして階段を下りていった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る