第195話 魔王の力
俺、めっちゃ魔王っぽくない?
いやー、まさか自分にこんな才能があるとは思っていなかった。勇者VS.魔王のシーンは小説に書いていないとはいえ、魔王のキャラくらいはしっかり考えてあったのだ。
それらを色々と思い出しながらセインと会話をしていたのだが、それが功を奏し斬りかかってくるセインはやる気満々だ。
——いや、セインだけではないか。
「——神速」
「——
セインと剣を交える俺の背後から、突如イヴェルとオリアの2人が恐ろしいスピードで迫ってきた。
神速スキル。
言葉の通り、一定期間自分の移動速度を大幅に上昇させるスキルだ。まあその移動速度が速すぎる手前、しっかりと使いこなせなければ足を引っ張るどころの騒ぎではないのだが、イヴェルはそれをしっかりと使いこなせているようだ。
またオリアの場合は、自分の後方に強い追い風を吹かせることで擬似的に自身の移動速度を向上させている。
更に2人はその超高速の中、互いに連携をとり斬りかかるタイミングを合わせた。
その死角からの超速攻撃はそう簡単に避けることのできるものではない。これらの事実は、間違いなく彼女達の誇るべき成果だ。
だが———
「そいつは分身だー、なんちゃって」
「「「「「!!?」」」」」
素早く振り下ろされたイヴェルとオリアの剣は、確実に俺の背中を捉え———たように見えたが、実際に切り裂いたのはただの虚空だった。
「い、いつからそこに…」
「さあ、いつからだろう」
そして今俺がいるのは、セイン達の後方で待機していたシャーロットの更に後ろだ。
驚いた顔でこちらを見やるシャーロットの細い体を適当に殴る。
「ぶッ、」
あまり力を入れたつもりは無かったのだが拳に触れた瞬間、シャーロットの体は大きく吹き飛んでいってしまった。
うーん、まあ死んではいないだろ。
「さ、どんどん行くぞー」
そして更にシャーロットの近くに控えていた二人——見るからに青白い肌を持つ角の生えた青年と、赤みがかった肌を持ちその背中に大きな羽を生やした女の魔人——へと標的を定める。
というか、七魔仙達がやられてからここまで来るのに少し時間がかかったなぁとは思っていたが、セインは魔人までもパーティに加えていたのか。更に言えば、先程俺が帰らせたがオスカーやエリオットですらもそのパーティに加えていた辺り、彼の圧倒的なカリスマ性を感じさせる。
まあそんなことは置いといて。魔人なら少し強めにやっちゃってもいいかな?
「へグッ!?」
「ガァッ!?」
俺の姿を認識していても、その早さについて来られなければ意味がない。
シャーロットと同様に魔人2人を適当に片付けた俺は、次なる標的——数十メートルほど離れた地点でこちらを見るシエルとアーネへと目を向ける。というか、彼らが動いているのを見るのは久しぶりな気がする。
因みに、シエルのその見た目は以前とあまり変わっていなかったが、アーネは以前と比べてその髪の毛をかなり伸ばしていた。なんだか新鮮だ。
「ッ!!、聖なる守り《セイント•プロテクション》!!」
「———
彼女達は嫌な気配を感じ取ったのか、シエルが防御魔法をアーネが攻撃魔法を瞬時にそれぞれ展開する。
その展開した魔法はどちらも究極級魔法。しかもそれらをほぼ詠唱無しで行使できるとは。
彼女たちがこの1年半の間、かなりの努力を積み重ねてきたことが窺える。まあそれらを実行する為には、大前提として圧倒的な才能が必要なわけだが。
「おお、流石だ。だがな、それは対策済みなんだ」
シエルの行使した聖なる守り、これは以前に聖王国で大司教ルミリエルが使っていた魔法だ。その魔法がルミリエルのものよりも洗練され、強固になっていることは間違いないがその本質は変わらない。
またアーネの水災に関しては、それを上回る威力の魔法を直接ぶつけてやれば、その魔法が俺の元へ届くことはない。つまり——
「黒炎」
アーネの魔法の威力を上回る、闇魔法を使ってやれば万事解決だ。
パリィィィィン!!!
放たれた真っ黒な炎が触れたと同時、シエルの作り出した教会は硝子の割れるような音とともに脆くも崩れ去る。
それと共に黒炎はアーネの水災すらも飲み込み、その勢いを衰えさせることなく2人の元へと迫る。
「え…?」
「嘘…でしょ?」
彼女達のそんな呟くような声はその目の前まで迫った炎の、風を切る音によってかき消され———
ボワァァァ!!!
黒炎の過ぎ去った後、その場には真っ黒く焦げた地面しか残っていなかった。
まあ直撃は避けさせたし、大方2人は黒炎の纏う風によって吹き飛ばされたのだろう。多分死んではいないはずだ。うん、きっと。
「おいおい、そんなところで何やってんだ。さっさとかかってこいよ」
数分で計5人を地面に沈めた俺は、あまりの衝撃からか動くことの出来ていない残りの3人——オリア、イヴェル、セインへと向き直り、軽く人差し指を立てた。
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