第152話 開戦 at 礼拝堂

「ところでセイン、どうしてこんなところにいるんだ?やっぱりアイラ関連か?」


セイン達との再会後、兵士達の手から逃れつつ彼へと問う。


「うん、昨日の夜にオスカー君から連絡があってね。今日の正午、この教会の礼拝堂で僕を待ってるって」


その質問に、セインは突っ込んできた兵士一人を気絶させながら答えた。


ああ、なるほど。確か王族には王族専用のケータイみたいな魔道具での通信手段があったっけか。それを使ってオスカーから連絡があったのだろう。


「なるほどな。なら、さっさと礼拝堂へ向かうとしよう。今は何時だ?」


「今は11:30かな。礼拝堂って少し遠そうだよね。間に合いそう?」


確かに彼の言う通り、ここから礼拝堂までは少し距離がある。普通に歩いて向かうとしても20分程度はかかる。追手の相手をしながらでは正午にはまず間に合わないだろう。


「分かった。セイン、俺が先導するからついてきてくれ。イヴェルさん、ここは任せました。礼拝堂で待ってます」


「分かった。ついていくよ」


「ああ、分かった。必ず追いつく」


セイン、イヴェルの2人とそれだけの言葉を交わし、俺は前方——礼拝堂のある方向を見据える。


「じゃあ行くぞ、よっと!!」


十分な助走をつけ、前方を目掛けて大きく跳躍する。その着地点は——


「なッ、」


「痛ッ!?」


目の前に群がる大量の人間。それの肩と頭、もしくはその両方だ。普通に通してくれないのならその上を通っていけば良い。こっちの方が確実に早く着くだろう。


まあ空中歩行を使えばこんなことをする必要はないのだが、セインにやり方を見せるためにわざわざこうして人を踏み台にしている。アー、ココロガイタイ。


「人を踏み台にしていくなんて…奇抜な発想だけど、少し乱暴じゃないかな」


隣を並走するセインはこちらを見てそんなことを言う。乱暴だと言いながらも自分もやってるじゃないか。


「今は手段を選べる状況じゃないし、絶対こっちの方が速いからな。ほら、さっさといくぞ」


わざわざ自分らから集まってくる足場達を踏み台に、俺とセインは礼拝堂への廊下を駆けていった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



バン!!


礼拝堂の扉が大きな音をたて、外側から勢いよく開かれた。


「オスカー君!僕は君との約束通りここまで来た!アイラを解放してくれ!」


開かれた扉から勢いそのままに礼拝堂へ飛び込んだ金髪碧眼の青年——セインが珍しく大きな声で叫ぶ。


現時刻は11:55。オスカーがセインに示したタイムリミットは正午。ギリギリだが何とか間に合ったようだ。


「おいおい、そんなに醜く叫び散らすなよ。これだから平民上がりは。同じ王族として恥ずかしくて見てられないな」


そんなセインの真正面。礼拝堂の入り口から直線距離で20mほどのところにある講壇。


そこに立つ、セインと同じ金髪碧眼の青年——セインの異母兄であるオスカーは静かにそう言った。落ち着いた声とは裏腹にその見開かれた両目は酷く血走っており、妙にアンバランスだ。その感情がまるで読み取れない。


そんなオスカーの更に後方、女神の姿を模した美しいスタンドガラスの真下。そこに、


「セイン兄様!!」


両手両足を縛られた金髪碧眼の美少女——セインとオスカーの妹であるアイラが地面に寝転がされていた。


「そんな愚弟を俺が直々に教育してやろう。かかってくるといいさ」


オスカーはそう言うと講壇から降り、こちらへと一歩ずつ近づいてくる。


「…アルト、これは僕たちの問題だから手出しは無用だよ」


「ああ、最初からそのつもりだ」


それに応じるように、セインは自身の剣を引き抜いてオスカーの方を見据えた。


「———だが、1つだけアドバイスだ。これはあくまでも予想だが、今のオスカーは何かしらの魔人の影響を受けている。セイン、お前がアイラだけでなくオスカーも救いたいと考えているのであれば、まずはそっちをどうにかしないことには始まらないぞ」


戦意の無いことを示すため一歩だけ下がった俺は、ついでにセインへアドバイスを送る。


これが小説の設定に準拠しているのであれば、現時点でオスカーは既に魔人によってその精神の大半を蝕まれている。

最終的にその魔人はセインによって討伐されるのだが、その後オスカーは魔人の後を追うように発狂死してしまう。前世でそんな話を書いた。セインへと王位継承権一位の座を渡すために。


別にオスカーのことは好きではないが、死んでほしいとまでは思っていない。まあ彼を救うための具体的な方法なんかは全く分からないし、そもそも今の彼は救われることのできる状態なのかも分からないが。


しかしセインではあれば、この物語の主人公である彼であれば、オスカーを救えるのかも知れない。そんな一縷の望みに賭け、そんなアドバイスを送った。


これが今の俺に出来る罪滅ぼし——いや、結局ただの自己満足に過ぎないか。


「——分かった。ありがとう。」


アドバイスを受けたセインは最後にそうとだけ言うと、オスカーの方へと目にも止まらぬ速さで駆けていった。


ガキィィン!!


その直後、金属同士が激しくぶつかり合うような音が礼拝堂内に大きく響いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る