第7章 グレースダンジョン

第108話 グレースダンジョン

さて、ひょんなことから学園を退学になってから早1週間が経過した。


そして現在、そんな俺が何をしているのかというと...


「いやぁ、ダンジョン攻略は久々だが......結構楽しいな、これ」


そんな独り言を呟きながら、俺は真横から飛びかかって来る狼のようなモンスターへ剣を振るう。


ここは王都にある王国内最大級のダンジョン、通称グレースダンジョンの20層だ。



このグレースダンジョンは王国内で最も有名なダンジョンであるにも関わらず、未だ完全制覇者の存在しない最高難易度を誇るダンジョンで、歴代の最高到達階層はAランク冒険者5人によるパーティーの93層だとギルドのお姉さんが言っていた。


ランクの最も高いAランク冒険者の5人パーティーでも93層が限界だったと。まあ、そんなダンジョンを俺が半年間ソロでどこまで登れるかは知らないが、せっかく貰った超長期休みだ。修行をするに決まっている。


因みにグレースダンジョンでは、1~25層は初心者、26~50層は中級者、51~75層は上級者、76~が超上級者向けとされている。多分50層くらいまでは特に脅威となるモンスターはいないはずだ。


「取り敢えず、ガンガンいこうぜってことで」


俺は軽く散歩でもするように、ダンジョンの攻略を進めていった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ん?」


グレースダンジョンの攻略を着々と進め31層にと到達したとき、近くにモンスターの気配を多数感知した。


それだけであればまだ良かったのだが、それらのモンスターは何かを取り囲むようにして集合しておりその中心には


「人間が襲われてる...?」


モンスターのものとは異なる、4つの気配があった。


ダンジョン内は弱肉強食。自身の実力を見誤った場合は勿論として、些細なミスですらも命を落とすことに繋がりかねない。ダンジョン内で死んだとしても、それはその冒険者の自己責任だ。

だが、


「ピンチなのを知ってて見殺しにするのは、流石に後味が悪いよな」


自己責任とはいえ、それがピンチの同業者を救わない理由にはならない。


俺はそれらの気配のする場所へと走って向かう。まあ、到着するまでに全滅してしまったらそれまでなのだが。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「グルァ!」


「ぐッうぅ...」


「ゼル!」


幸いにも、俺が到着するまでに冒険者のものだと思われる気配が消えることはなかった。


だが決してその状況が良くなった訳ではなく、そこでは10代前半くらいの少年少女4人が10体以上のモンスターに囲まれていた。


ふむ...あれだけ若いのにもう30層へ到達できてるのか。調子乗って進み過ぎてしまったのかは分からないが、見込みがあることには間違いないな。


「まあ、取り敢えず助けるか。じゃあな、モンスターども」


ズダダダダッ


俺は土魔法の盾で少年らを巻き込まないよう保護した後、集まっていたモンスター達を風魔法で駆除した。


「さて、大丈夫か君たち」


全てのモンスターの駆除が終わった後、俺は少年達に声をかけた。


「は...ぁ、?」


突然現れた存在に、彼等は混乱したような顔を向ける。


「ええっと、喋れるか?」


「は、はい。だ、大丈夫だ、です。あんたが助けてくれた...のか?」


力なく地面に座り込む4人のうち、焦茶色の髪の毛をした少年が混乱しながらも応えた。


「まあ、そうだな。えっとお節介かも知れないが、この階層はまだ君達には早いと思う。もう少し、下の階層に移動した方がいいと思うぞ」


俺は一応、彼等に忠告をしておく。

ダンジョン内では生き急いでも仕方ないからな。しっかりと自分の実力を見定めて挑戦する階層も決めるべきだ。ただ、堅実すぎても大きな成長は無い訳だが。


「......いつもは、大丈夫なんだけど、今は調子が悪くて...これでも階層は下げたんだ」


そんな忠告に、少年は言い訳をするように言った。調子が悪い、ね。


俺は再度、彼等を注意深く観察する。


うーむ、なるほど。

確かに全体的に顔色が悪く、全員今にも倒れそうだ。体調が優れていないと言うのは、あながち嘘ではなさそうだな。まあ、体調管理も冒険者の責任と言われてしまえばそれまでなのだが。


「......ここ最近、碌に飯を食えてなくて。あんたに頼むのも変な話だけど、余ってたら少し食料を分けてくれな——ません、か?」


焦茶色の髪の少年は俺に縋るように言う。

他の三人も期待するかのような目線をこちらへと向けた。


あ、なんか面倒な話に片足を突っ込んだ気がする。...まあいいか。


「ああ、食料なら分けてやれる。どの程度必要だ?」


俺は空間収納から食料品を取り出し、彼等に分け与えることにした。

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