第101話 武術祭と出現
イヴェル達との間に大きな亀裂が入ってから2週間が経ち、武術祭本戦の当日となった。
「...ところで、どうして本戦出場者のアーネがここにいるんだ?控室とかあっただろ?」
「アルトさんがいるところに私ありです!そもそも武術祭なんて、アルトさんが出ないなら私も出なくてもいいんですけど」
「一年生予選1位が私情で欠場しようとするな」
そう、今俺が座っているのは本戦出場者用の控室ではなく在校生用の観覧席、つまりは予選で敗退した者達の為に用意された席だ。
俺は今年の武術祭の本戦には出場しない。
武術祭予選第三回戦。
俺は奇しくもそこで再びシャーロットと対戦することになった。そして彼女に負けたのだ。
決して本気を出さなかったわけではない。本気を出せなかったのだ。
言い訳にはなってしまうが、イヴェルやシエル達のことで頭がパンパンの状態で彼女と戦うには少々無理があった。
試合後、シャーロットは何か文句を言いたそうにしていたが、それはセインに止められていた。
「私情も一つの理由ですよ〜。…私がアルトさんと一緒にいたいっていうのは本当ですが、それ以上に———今のアルトさん、誰かが側にいないと壊れちゃいそうですから」
「——ありがとう」
元々よく俺の元に来ていたアーネだったが、あの日以降は更に俺に付き纏うようになった。それをどうこうする気力も無かった俺は好きにやらせていたのだが...彼女なりに色々と考えてくれていたようだ。
「あ、アルトさんデレましたね!?ふふふ、弱っているアルトさんに漬け込むことで私に依存させる、アーネちゃん無しじゃ生きていけない作戦は順調に進んでるようですね...」
「恐ろしい作戦を立てるな」
そんなことを言い出したアーネの頭に軽くチョップをする。
まあアーネはこんなことを言っているが、この2週間、彼女は特に何をすることもなくただ俺の横にいてくれただけだ。本気で彼女の言う作戦を実行しようとしたら、もっとエグい手段を取ることだって出来ただろう。
今のは俺を元気付けるための嘘......だよな?
「……あの、アルトさん。こんなときに聞くのもアレかもしれないんですが、もしも私がアルトさんから遠ざかって行っちゃったら、アルトさんは今みたいに悲しんでくれますか?」
その後本戦の開始を待っていると、アーネは少しだけ真剣な面持ちでそんなことを尋ねた。
...本当に今聞くのはアレな質問だな。
まあ質問の内容を要約すると、アーネにもイヴェルやシエルのように避けられるようになったら俺はどうなる?ってところか。
「...そうだな。アーネが遠ざかっていったら、か。自分でもどうなるか分からないな。だが確実に言えることは、アーネがいなければ俺は多分もう壊れていた。それを考えると俺は、既にアーネの術中にまんまと嵌ってるのかもしれないな」
「!?、そ、そうですか。あ、ありがとう、ございます...?」
「お、おう...」
少しだけ真面目に考えてから答えると、それを聞いたアーネは顔を赤くし少し恥ずかしそうに俯いた。......自分で聞いてきたくせに。
くそ、こっちまで恥ずかしくなってきた。
ウワァァァァァァァ!!
そのとき、辺りから大きな歓声が上がった。
中央の試合会場見ると、そこでは本戦第一試合の出場者らがフィールドへ出てくるところだった。
その出場者というのは、
「1人目はイヴェル先輩ですね。なんだか、いつもより棘のある感じです」
「そうだな。魔力が針みたいにツンツンしてる」
向かって右側に立つイヴェルは既に移動を終えていて、1年前と同じようにフィールド上で凛とした佇まいで試合開始を待っている。
しかし、些かその魔力はピリついている。
それに対するは、
「そして相手はシエル先輩ですね。あれ?眼鏡をつけてますね。どうしたんでしょう。アルトさんはなんであの眼鏡をつけているのかって知ってますか?」
「......まあな」
向かって左側から試合場へ上がるシエルだ。その顔には赤縁の眼鏡が付けられている。
シエルはあの日以降、魔力の見えなくなる眼鏡をつけて生活をするようになった。彼女にはもう必要のないもののはずなのだが、その理由は——説明するまでもないだろう。
「試合開始!」
シエルがフィールドに上がってからまもなく、審判が試合の開始を告げた。
その声と同時、イヴェルは地面を蹴りシエルは無詠唱で光の上級魔法を放った———が。
「おお、楽しそうなことしてんじゃん」
「…」
突如2人の間に一対のナニカが降ってきた。そしてその片方はイヴェルの剣を受け止め、もう片方はシエルの魔法を相殺した。
「な、なんだアレ———ッ!?」
その姿を視認した瞬間、体は金縛りにあったかのように急に動かなくなった。
横目でアーネの方を見ると、彼女も俺と同様に動けなくなっているようだった。どうやら、観客席にいる全員がこの金縛りにあっているらしい。
「な、なんだお前らは...」
その一方で、フィールド上のイヴェル達は金縛りにかかっていないらしく突然現れたその二人へ問いかける。
彼女にも大体察しはついているだろう。あの二人の見た目、特にオーラがコネンサスのそれとそっくりだ。つまり、
「ああ、ワシは魔王イシザキが家来、七魔仙の”剣技”スパードだ。覚えておけよ?」
「...同じく、”魔術”シャルム」
やはり魔人。更に七魔仙の剣技と魔術。
小説にこんなシーンあっただろうか。
セインが二年生のときの武術祭は平和に終わったはずだったが...
「魔人が一体何の目的でここに来た!」
独特の威圧感を放つ二人の魔人に対し、イヴェルは怖じけることなく続ける。
「あー、えっと魔王様の命でなんだっけか、」
「...アルト」
「そうそう!アルトってやつを捕らえてくるよう言われてな。なんでも魔王軍に引き込みたいんだとかなんとか。面倒だと思ってきてみれば、中々面白そうなことやってるな!お主ら2人、まあまあ強いじゃろ!ワシらと少し遊ばんか!」
「...おい」
「まあまあ、いいではないか!それにあちらも———」
キンッ
そんな剣の縁と鞘が擦れたような音が静かに鳴った。そして、どこからか飛んできた虹色の玉が真っ二つに分かれる。
「———やる気十分のようじゃぞ?」
「ッ!!」
その虹玉の飛んできた先には、魔人達の方へ手を翳したシエルの姿がある。
あんなに容易くシエルの魔法を斬ったのか?流石、”剣技”といったところか。
「...分かった。オレはあの女」
“魔術”のシャルムはシエルの方を指さした。と、いうことは。
「まあそうなるじゃろうな!では、ワシはあの赤髪を戴くぞ!」
「ッ!!」
“剣技”のスパードは一気にイヴェルとの距離を詰める。イヴェルは間一髪でそれを凌ぐが、休む隙を与えないスパードの猛攻に防戦一方だ。
「イヴェルちゃん!!」
「...よそ見をしている場合か?」
「ッ!!」
その様子を見て動き出そうとしたシエルの目の前を、紫色のレーザーのようなものが掠めた。そのレーザーの放たれた方には”魔術”シャルムが立っている。
「…見たところ、お前は光魔法の使い手でその実力もかなりのもの。…だが、それ以外の属性は使えない」
「だったら何?」
「...面白い」
「何を言って......ッ!?」
次の瞬間、薄く笑うシャルムの周りに異なる色の5つの球体が出現した。
その球体はそれぞれ別々の属性魔法だ。
赤い球は火、青い球は水、緑の球は風、茶色い球は土、紫の球は闇の魔法だろう。つまりこいつは———
「...光魔法しか使えないお前と、光魔法だけが使えないオレ。どちらが強いのか勝負」
魔人にとって弱点である光属性の魔法以外の、すべての属性の魔法を使えるということに他ならない。
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