第75話 生徒会の隠し部屋
午後の演習の授業が終わり、俺はイヴェルとの約束通り生徒会室の前へとやってきたのだが…
「前世の頃から、こういう入ったことのない部屋に入るのってなんだか苦手なんだよな…」
目の前にある生徒会室の扉を開ける勇気が出ず、その扉の前に立ってから数十分が経過しようとしていた。
「な〜にしてるの?」
「わっ」
すると扉の前で立ち尽くす俺の背後から、聞き覚えのある声が聞こえた。
「シエ——ハースエルさん...」
「やっほ〜、アルト君。元気してた?」
俺に声をかけて来たのは、生徒会のメンバーであるシエルだった。
「お、お久しぶりです。ハースエルさん」
「久しぶりだね〜。あ、私のことはシエルでいいよ〜。ところで、アルト君はここで何をしてたの?」
「え、えっとー、」
取り敢えず俺は彼女へ、イヴェルとどんなやりとりがあったのかを軽く話した。
多分だが、シエルはイヴェルから色々聞いているはずだ。問題ないだろう。
「——ということで、イヴェルさんに生徒会室へ来るよう言われたんですけど、どうすればいいか分からなくて...」
「なるほどね〜。まあ、生徒会室に入るのに緊張するのは分かるよ。だけど、女の子を待たせちゃ駄目だよ?」
「は、はい」
「よし、分かったなら生徒会室に入ろうか」
そう言うと、シエルは何の躊躇なく生徒会室の扉を開けた。
「やっと来たかアルト。少し待ちくたびれ——」
「やっほー、イヴェルちゃん!さっき振りだね!」
「ああ。シエルか...」
「あー!そんな残念そうな顔する?折角、イヴェルちゃんにプレゼントがあるのに〜。じゃーん!アルト君で〜す!」
部屋に入ったシエルはそのまま俺の肩を掴み、俺を生徒会室の中へと引き込んだ。てか、力強ッ!どこにそんな力があるんだ!?
「ど、どうも」
「な、なななッ...」
突然シエルから突き出された俺を見て、何故かイヴェルはめちゃくちゃ動揺する。
「な、なぜアルトがシエルと一緒に...?」
「こ、これにはですね、深い事情が——」
「ここの部屋の前でウロウロしてたアルト君を私が見つけて連れてきたんだ〜。生徒会室に入るのに緊張してたんだって。意外とチキンだよね〜。」
「シ、シエルさん!?」
イヴェルの疑問に対するシエルの説明は少しも間違ってはいないのだが、彼女の結構な物言いに俺は少し驚く。
「そ、それはアルトは私と一対一で会うのに緊張した、ということか...?」
「いやいや、ち、違います。昔から、入ったことのない部屋に入るのには緊張しちゃって...」
「はは、チキン」
「シエルさん!?」
やはりシエルの俺へ対する態度はどこか厳しい。シエルは元々こんなキャラだっただろうか?なんだ?イヴェルを待たせたことを怒ってるのか?それはすまん。
「そ、そうか。なら良い。では、早速魔法の練習といこうか。よろしく頼むぞ、アルト」
「は、はい!頑張ります!」
「はいは〜い!それ、私も一緒に行きたいで〜す!」
早速、魔法の練習へ移ろうとする俺とイヴェルへ、シエルがそう言って割り込んできた。
いや、彼女魔法の実力は王国内でもトップレベルだと思うのだが…一体何を言っているんだろうか。
「む?シエルが、か?シエルは魔法の成績は学年トップだろう」
俺と同じ事を疑問に思ったイヴェルは、そうシエルへ直接尋ねる。
「だって前にも言ったけど、アルト君の魔法ってめちゃくちゃ綺麗なんだもん!近くで見れる機会を逃したくないよ!」
「そ、そうか。なら、3人でいくか。アルトはそれで問題ないか?」
「は、はい!大丈夫です。ええっと、それで何処で練習をするんですか?」
一応という形でイヴェルから尋ねられ、俺はシエルが練習へ加わることを了承する。
まあ別に彼女が加わること自体は全く構わないのだが、一体何処で練習をするのだろうか。
シエルは勿論のこと、魔法が苦手だというイヴェルでもかなりの魔力を持っている。その2人が練習をするとなると、ある程度大きな施設が必要だろう。生徒会室内では無理だろうし、何処か武道場などを予約しているのだろうか。
「ああ、それはだな...」
そう言うとイヴェルはふと横の本棚へと近づき、それに収納されていた赤い背表紙の本を奥へ押しこんだ。
すると、
ゴゴゴ.......
そんな音を立てながら本棚は真っ二つに割れ、その奥には地下へと続く階段が出現した。
「これは生徒会専用の隠し部屋みたいなものだね〜。地下には私達が思いっきり暴れられる場所もあるから、魔法の練習には最適だと思うよ。」
「そ、そうなんですか」
突然現れたそれにシエルから説明が入る。
へ、へぇ〜。生徒会室にはこんな部屋があったのか。俺、著者のはずなんだけど...全く知らなかった...
「それにしてもイヴェルちゃん。アルト君にこれを教えたってことは...ムフフ〜」
「う、うるさいぞ、シエル」
俺が自身の知らない裏設定にショックを受けている間、イヴェルとシエルは何かを話していたようだったが、それは俺の耳に届かなかった。
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