第3章 入学試験
第48話 旅立ち
セインの成長イベントであった孤児院児誘拐事件から一年と少しが経過し、グレース剣魔学園の入学試験まで残り6ヶ月を切った。
俺たちの住むヌレタ村から学園のある王都までは、馬車を使って最低でも2ヶ月強はかかる。不測の事態が起きても良いように、俺とセインはそろそろ王都へ向かおうとその準備を進めていた。
王都へのルートは、まず徒歩で数日かけてヌレタ村よりも少し大きな村であるサミユ村へと移動する。そこでアルクターレ行きの行者などの荷台に乗せてもらい、アルクターレからは送迎サービスを利用して王都へ向かうという計画だ。順調にいけば、遅くとも試験の2ヶ月前には王都へ着くだろう。
「というわけで、俺は明後日くらいにヌレタ村を出て、セインと一緒に王都へ向かいます」
家族揃っての夕食中、俺は話を切り出した。
「分かったわ」
「遂にアルトが入学試験を受けるときが来たか。…しかし、本当に学費は要らないのか?」
「うん。前にも言ったけど、俺はアルクターレでお金はある程度稼いだんだ。学園に通いたいというのは俺のわがままだから、その費用はすべて自分で工面するよ」
「アルトがそう言うなら、こっちは引き下がるしかないんだが...」
学園に入学したいと打ち明けた日から、両親は俺のために学費を貯めていてくれたらしい。
しかし、学園へ行きたいというのは俺の勝手なわがままだ。本来であれば両親はこのヌレタ村に残ってほしいのだろうが、それを裏切っている俺がそのお金を受け取るわけにはいかないだろう。
更に言えば俺は父の職を継がないため、父には迷惑をかけているのだ。受け取れるわけがない。その貯めたお金は、自分達のために使ってほしい。
「アルト、分かっているとは思うけど無理はしないこと。あと定期的にこちらに連絡をすること。まず、アルクターレへ着いたとき、次に王都へ着いたとき、そして入学試験の結果が分かったときはこちらに手紙をよこしなさいね」
「分かったよ母さん。今度こそちゃんと送るから」
母さんはアルクターレで修行をしていたときに手紙を一通も送らなかったことを根に持っているらしく、何度も手紙を送れと口を酸っぱくして言ってきていた。
まあ、元はと言えば俺が悪いんだし、これも愛されている証拠であるから無碍にする予定はない。
「はぁ、本当にわかっているのかしら...手紙を送ってこなかったら、私が王都まで行きますからね」
「大丈夫だって、そっちの約束は必ず守るから!」
「そっちの約束は?無理をしないというのは守るつもりはないのかしら?」
「...善処します」
口が滑った。
俺は目を逸らして答える。
「はぁ、まぁいいわ。アルト、貴方がずっと努力していたことを私たちは誰よりも知っているわ。たとえ試験に不合格だったとしても、私は貴方を誇らしいと思う。だから頑張ってね」
「そうだぞ!アルト、お前は俺と母さんの子供なんだからな!頑張れよ!」
「ああ、父さんと母さんの息子として、頑張って来るよ」
両親からの熱い激励にそう答えることで、この話題は幕を閉じた。
その後はいつものように他愛もない話をし、夜は次第にふけていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
出発当日の朝。
俺とセインの2人は村の門の前に立っていた。俺たちの後ろには、両親や孤児院の子供、スタッフらが見送りに来ている。
「じゃあ、そろそろ行くか」
「そうだね」
現時刻は朝の9時。
少し早い気もするが、明るいうちに進めるだけ進んだほうが良いだろう。互いに頷き合った俺たちが外に向かい足を踏み出そうとした、そのとき
「アルト、少し待って」
「ん、ん?どうしたの母さん」
急に母さんが俺のことを呼び止めた。
なんだか出鼻をくじかれた気分だ。
「これを持っていきなさい」
そんな事も気にせず、母さんは俺へ1つの袋を差し出した。
「これは?」
「手紙を書くためのペンと紙、そして封筒よ。手紙を書けなかったなんて言わせないからね」
「ははは...用意周到なことで...」
軽くその袋を握ってみると、たしかに紙とペンのような感触がした。というか、紙の量がかなり多い気がする。どれだけの量の手紙を書かせるつもりなんだろうか。
その袋を受け取り、俺は母さんに向き直る。
「分かったよ。必ず手紙は送る。母さんも元気でね」
「ええ、アルトも元気でね」
「2人とも気をつけるんだぞ〜!アルトは不合格だったら、防人を継がせるからな〜」
「セインお兄ちゃん!いってらっしゃい!」
「頑張って!」
今度こそ門へ向かって足を踏み出すと、後ろから沢山の声援が送られて来た。
「じゃあね!絶対受かって来るから、父さんはさっさと後継人を探しておくことをお勧めしておくよ!」
「みんなありがとう!またね!」
それらの声援に包まれながら、俺とセインはヌレタ村を後にした。
村を出た後、俺たちは次の目的地であるサミユ村へ向かい、順調に歩みを進めていった。
村を出てから2日後、その間に特に問題が起こる事もなく、俺たちはサミユ村へ到着したのであった。
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